《スカイツリーダンジョン編:第一層 影の回廊 ― 深層実験区画の影》
千秋たちは、裂け目の奥へ続く細い通路を一歩ずつ進んでいった。先ほどまでの石壁とは違い、ここは明らかに“別の素材”で造られている。
壁は黒い金属。触れれば冷たく、かすかに振動が伝わる。まるで巨大な心臓の脈拍だ。
「……これ、本当にスカイツリーの内部なのか?」
村瀬が眉をひそめる。
「見た目はどう見ても“施設”だよね。ダンジョンっていうか……研究所?」
玲奈が肩を抱き寄せるように身を縮める。
千秋も同じ違和感を覚えていた。
——偶然できたダンジョンにしては、あまりにも人工的すぎる。
——何かを“作っていた”痕跡。
足元には細いレールのような溝が続いており、天井には規則的な間隔でライトが埋め込まれている。ライトは壊れているのかほとんど点灯せず、赤い非常灯だけが薄ぼんやりと通路を照らす。
「ここ……魔獣の気配がほとんどない」
玲奈が声を潜める。
そのとき。
——カシャン。カシャン。
通路の奥で、何かが歩くような金属音が響いた。
三人はすぐに身構える。
赤い非常灯の光がふっと一瞬強まり、奥の影が形を取った。
「……千秋、あれ」
影の中から現れたのは——
金属製の四脚獣だった。
犬のような姿。しかしその身体は銀色の装甲で覆われ、目の部分には赤いセンサーのようなものが光っている。
「魔獣じゃない……? ロボット?」
玲奈が小さく叫ぶ。
千秋は首を振る。
「違う……“魔力反応”がある。生きてる。これは——魔獣と機械を掛け合わせた……?」
四脚獣は三人を鋭く見据えたあと、低い機械音と共に背中のパネルが開いた。
魔力弾がチャージされていく光が見える。
「避けて!!」
次の瞬間、白い光弾が通路に放たれ、爆発音が響く。
千秋たちはとっさに左右へ飛び退き、衝撃波を避けた。
「玲奈、後衛! 村瀬さん前!」
「了解!」
「任せろ!」
村瀬の剣が赤い影の光をまとい、金属獣に向かって振り下ろされた。
甲高い金属音。だが斬撃は装甲をかすかにへこませただけだ。
「固いっ!?」
背後から、玲奈が炎の矢を放つ。
炎は金属の目に直撃し、センサーが一瞬チカっと明滅する。
「効いてる!」
千秋は拳を構え、全身の力を込めて影術を展開する。
「《影縛り・一重》!」
足元の影が伸び、四脚獣の脚を絡め取った。動きが鈍ったその一瞬を見逃さず、村瀬が再び剣を振り下ろす。
ガキィィンッ!!
装甲が割れ、中から赤黒い魔力が噴き出した。
四脚獣は悲鳴とも金属ノイズともつかない声を上げ、そのまま崩れ落ちた。
通路に静寂が戻る。
「……なに、今の。魔獣っていうより……武器?」
玲奈が息を整えながら言う。
村瀬は金属獣の残骸に目を落とし、唇を引き結んだ。
「政府が隠してる“内部情報”に、こういう魔獣はなかった。つまり——」
千秋がつぶやきを引き継ぐ。
「——この階層は“まだ公表されていない”エリア……?」
その残骸から、光の粒がふっと浮かび上がった。
《アイテムドロップ》だ。
三人が見上げると、光の粒はゆっくり回転しながら落ちてきた。
村瀬がそっと受け取る。
「……これは……」
顎がわずかに震えた。
「スキルロールだ。それも……『鑑定(Lv.8)』」
千秋も玲奈も息を飲む。
最上位に近い鑑定スキル。
本来、数千万円〜一億円クラスの超レア。
千秋は手が震えた。
「まさか……こんな序盤で……?」
村瀬は深く息を吸い、スキルロールを千秋へ差し出した。
「これは……スタミナ量、精神力、習得適性……全部考えても、千秋、お前が持つべきだ。
お前の影スキルは情報戦や分析と相性がいい。俺たちは補助する」
玲奈も笑ってうなずく。
「千秋が持ってくれた方が絶対に役立つし、私も安心できる」
胸の奥がじんわり熱くなる。
千秋は小さく息を吸い、頷き、スキルロールを胸元に押し当てた。
光が弾け、身体の中に吸い込まれるように消えていく。
——鑑定(Lv.8)を習得しました。
——最大SP +12
全身に広がる鋭い感覚。魔力の流れの“違和感”さえ視覚化して見える。
「……すごい……なんでも“視える”……!」
「さすが最上位の鑑定……序盤で手に入るなんて、運が良すぎる」
村瀬が感嘆する。
玲奈が四脚獣の残骸を指さした。
「ねえ、千秋。あれも鑑定できる?」
千秋は頷き、手をかざす。
視界に青い文字がふわりと浮かぶ。
《魔導機獣:プロトタイプ》
《制作者:不明》
《目的:実験用戦闘体》
《内部コア:魔石・高純度》
《危険度:中位魔獣相当》
千秋は震えた声で言った。
「……やっぱり。“誰かが”作った魔獣……」
玲奈が息を呑む。
村瀬は険しい目で周囲を見渡す。
「この階層、普通じゃない。今日はここまでにして、上に戻るぞ。情報を整理した方がいい」
三人は頷き、通路を引き返しはじめた。
その背後で——
非常灯がふっと明滅し、かすかに“何かの影”が動く気配がした。
千秋は反射的に振り返る。
「……誰か、いる?」
だが通路は静かで、赤い光だけが揺れていた。
村瀬が千秋の肩に手を置く。
「行こう。まだ深入りすべきじゃない」
千秋は小さく頷き、再び歩き出した。




