《スカイツリーダンジョン編:第一層 ― 静寂の回廊、その裏に潜む影》 続き
翌朝。内部拡張されたテントの中は、外のダンジョンの冷気とはまるで別の世界のように暖かかった。
魔獣除けの効果が働いているせいか、一晩中まったく襲撃はなかった。
寝起きの体を伸ばしながら、俺は〈鑑定〉で体調を確認する。
●【状態:良好】
●【疲労:大幅回復】
●【レベル:3 → 4】(※昨夜の魔獣撃破分)
「……よし。今日も行ける」
テントから出ると、玲奈と蓮も準備を終えていた。
初日の探索で拾ったアイテムはすでに〈アイテムボックス〉に整理済みだ。
このボックスは空間が階層化しており、第一階層に“即時取り出し”、第二階層に“保存品”などと分けられる。
「ねぇ千秋、昨日のレア魔石……本当に売っちゃってよかったの?」
「いいんだ。今は装備整えるほうが優先だし」
昨日、ダンジョン管理課の出張受付で換金した結果、
第一層とは思えないほどの金額――合計230万円になった。
スキルロールの代わりに落ちた“劣化スキル付与アイテム”が高値だったのだ。
「今日は奥の“第二回廊”まで進むよ。
敵は昨日よりは強いけど……倒せる範囲だと思う」
三人は頷いた。
俺たちは再びダンジョンの奥へと足を踏み入れた。
◆
第一層奥部――“静寂の回廊”。
ここは薄い霧が立ち込め、音がやけに響く。
昨日の灰コボルトとは違う種類の魔獣が現れ始めた。
「千秋くん、来たっ!」
玲奈の声と同時に、曲がり角から巨大な“兎”が跳び出した。
だが、耳は鋭利に尖り、赤い目は獣そのもの。
名前を〈ブラッドラビット〉と言い、身体強化系のスキルを持つことがある。
「〈鑑定〉――」
――――
●【魔獣:ブラッドラビット】
●【危険度:D−】
●【特性:跳躍/加速】
●【ドロップ率:30%】
――――
「強いけど……いける!」
走り出した瞬間に蓮が前へ踏み込む。
「――《踏み込み突き・壱》!」
槍の穂先がラビットの胸に深々と突き刺さる。
だが、魔獣は暴れ、蓮を引きずるように跳ねる。
「蓮くん危ないっ! 《スリングショット:チャージ3》!」
玲奈の放った鉛球が魔獣の頭部を撃ち抜く。
ブラッドラビットは悲鳴を上げて倒れた。
黒い霧が薄れたのち――ぽとり。
「……アイテム落ちた!」
蓮が拾い上げる。
●【魔石(小)】
●【ブラッドファング(部位素材)】
「スキルロールじゃなかったか……」
「まだ二日目だし、焦らなくていいよ」
とはいえ、素材が落ちただけでも十分だ。
魔獣素材は特定スキル持ちしか加工できないが、レア度によっては高額になる。
「次、行こう」
迷宮の奥には、まだ見ぬ魔獣たちが潜んでいる。
◆
その後も、小規模な戦闘が続いた。
ゴブリン系、小型のスライム、軟体の影魔獣など……
(※魔獣は“物語の存在”をモチーフにしているため、見た目も動きも個性が強い)
だが、三人の連携は日に日に良くなり、
戦闘を重ねるごとにスキルレベルも上がっていった。
●【千秋:Lv4 → Lv5】
〈鑑定〉Lv10(固定)
〈アイテムボックス〉Lv10(固定)
〈基礎戦闘〉Lv2 → Lv3
●【蓮:Lv3 → Lv4】
〈突き技〉Lv1 → Lv2
〈戦闘反応〉Lv1 → Lv2
●【玲奈:Lv3 → Lv4】
〈投擲:スリング〉Lv2 → Lv3
〈集中〉Lv1 → Lv2
レベルが上がるたび、体が軽くなり、疲労の抜けも早くなった。
スキルレベルに比例してSPも伸びる。
特にパッシブ系は大量のSPを要求するため、成長が実感しやすい。
◆
何度目かの戦闘が終わったあと。
――コロッ。
足元に、円形の金属筒が転がった。
「これ……!」
俺は震える指でそれを拾った。
●《スキルロール:アイテムボックス(Lv1)》
「本物……! 本物だよ千秋!」
玲奈の声が跳ね上がる。
まさか二日目で再び“アイテムボックス”のロールが出るとは思わなかった。
それも、蓮や玲奈のために使える可能性が高い。
「でも……これ、俺のLv10のとは違うんだよね?」
「うん。これは一般的な“アイテムボックスの初期レベル”。
俺のは……なぜか最上位なんだ」
俺のだけが異常に強い理由は、まだ誰にも分からない。
だが、冒険を続ければいずれ知ることになるはずだ。
「じゃあ……蓮くんか、私が使ってみる?」
「いや、使うのは帰ってからだ。安全な場所で」
そう決めて、探索を再開した。
◆
数時間後。
今日の体力と装備状況を鑑み、俺たちは地上へ戻ることにした。
帰還ゲートを抜けると、眩しい光が目に飛び込み、
スカイツリーの根元に設置されたダンジョン管理課の外受付が見える。
「今日の成果は……結構あるね」
魔石や部位素材をすべて渡すと、職員が手慣れた様子で鑑定を始める。
「本日の買取総額は――112万円です!」
三人は顔を見合わせて息を呑んだ。
「やったじゃん千秋!」
「これ……二日目でこの額って……」
「運が良すぎるな、俺たち」
その夜。
俺たちは必要な買い出しを済ませ、
期限内に回復薬を買い足し、高栄養の携帯食を確保して、
各自しっかり休息を取った。
明日は、いよいよ第一層の奥へ挑む。




