《スカイツリーダンジョン編:第一章 覚醒の入口》
東京の街に突如“それ”が現れたのは、冬の澄んだ空気がひときわ冷たい朝だった。
スカイツリーの根元――観光地として賑わうはずの場所は、黒い霧が渦巻き、奇妙な風切り音を立てながら人々を寄せつけない重圧を放っていた。政府は即日その一帯を封鎖し、翌日には正式に発表した。
「スカイツリーダンジョン発生」
テレビやネットが瞬時に騒ぎ立て、SNSは連日その話題一色となる。
だが、特別に選ばれた者達は恐怖よりも“未知”への興奮に胸をざわつかせていた。
その一人――高校三年の**千秋**である。
幼い頃から本やゲームにのめり込み、冒険に憧れてきた少年。現実的ではない夢だと周囲に笑われてきたが、目の前の現象は彼の胸に火を灯した。
政府は、ダンジョン内で戦闘・探索を行う者を「探索者」として募集した。千秋は即座に応募し、数日の審査を経て登録証を手に入れた。
同時に選ばれたのが、幼なじみの玲奈。
そして近所に住むベテランキャンパーで、物静かだが洞察力に長けた村瀬隆一のおじさんだった。
「……まさか三人一組とはな。よろしく頼むよ、千秋、玲奈」
「うん! なんか、意外とワクワクしてるよ!」
「わたしはちょっと怖いけど、二人がいるなら大丈夫だよね」
こうして三人は探索パーティーとして登録され、正式にダンジョンへ挑めるようになった。
■ダンジョン初日 ― 開門
管理課のゲートをくぐる。
地上のコンクリートの床は、そのまま黒い石畳へと移り変わり、霧に包まれた巨大なアーチ状の扉が三人を出迎えた。
扉の上には古代文字のような文様が刻まれ、薄く青白い光を放っている。
「これが……ダンジョンの入口……」
千秋が息をのむ。
村瀬おじさんは顎に手をやり、ゆっくりとうなずいた。
「おそらくゲームや物語の“ダンジョン”とは似ているが、これは現実だ。危険は必ずある。慎重にな」
「うん!」
管理課の職員にカードをかざすと、扉は重々しい音を立てて開いた。
そして――。
中は薄暗い石造りの回廊。天井には青白い鉱石が点々と光り、わずかに周囲を照らしている。
温度は地上より少し低く、ひんやりとした空気が漂う。
「なんか……本当にゲームの世界みたい」
「でも現実。怪我したら痛いし、下手すれば死ぬからね」
玲奈が苦笑しながらも、震える手で短剣を握る。
そして三人のダンジョン初探索が幕を開けた。
■最初の魔獣 ― 弱き者ほど油断を誘う
探索開始から三十分ほど経った頃、最初の“魔獣”が姿を現した。
体長60センチほどの、童話に出てくるような小鬼――ゴブリンライク。
だが目つきは鋭く、短剣らしき骨片を握っている。
「くるぞ!」
千秋は身構える。
おじさんが前に出て小型の盾で受け、千秋が木製の訓練剣で横から叩く。
――カン!
乾いた音とともにゴブリンはよろめき、玲奈が素早く背後から足を払った。
最後に千秋が一撃。
ゴブリンは霧のように消え、黒い石が床に落ちる。
「魔石……かな。弱いやつだから、値段は安いだろうけど」
「三割の確率でしかドロップしないって聞いたけど、出てよかったね!」
ドロップアイテムの仕組みはこうだ。
魔獣を倒すと約3割の確率でアイテムが手に入る。
アイテムは管理課がそのまま買い取ってくれる。
売れる物は主に――
・魔石(弱い魔獣は安い)
・魔獣の部位(特定スキル持ちで加工可能)
・スキルロール
・劣化スキルの付いたマジックアイテム
この日は最初なので、出たのは弱い魔石ひとつだけだった。
■レベルアップとSP
三人が魔獣を数体倒したころ、千秋の体に小さな光が宿る。
「え……? なんか、暖かい……!」
視界に浮かぶ小さな半透明のウィンドウ。(ダンジョンが自動で見せるものらしい)
【千秋 Lv1 → Lv2】
「レベル、あがった!」
「わたしもだよ!」
「どうやら数体倒すと上がる仕組みらしいな。下層ほど弱い魔獣が出るって話だったが…ゆっくり成長していく感じだ」
レベルが上がると、スキル使用に必要なSPも微増する。
スキルロールを使ってスキルを習得するのはまだまだ先だが、千秋の胸は期待で高鳴った。
■初日は浅層のみで終了
初探索は安全第一で、三時間ほどで切り上げることにした。
「今日はボス部屋の前までも行かずに帰ろう。無理は禁物だ」
「うん、まだ動きにも慣れてないしね」
出口に向かう途中、弱い魔獣を数体倒した結果――
・魔石 ×5
・魔獣の爪 ×1
という成果になった。部位は加工できるスキル持ちがいないので、管理課で売るしかない。
■外へ ― 買い取りと帰宅
ダンジョンから出た瞬間、東京の空気が一気に現実へ引き戻す。
「うわ……明るい……」
「外に出ると、ダンジョンの空気って特殊だったんだなぁって分かるね」
買い取り所へ向かい、アイテムを査定してもらう。
魔石(弱) → 1個200円×5
魔獣の爪(小) → 800円
――合計1,800円
「安い……!」
「初日はこんなもんだよ。いつかスキルロールが出れば一気に跳ね上がるさ」
スキルロールは安くても十万円。
種類によって数百万円になるものもある。
その後、三人は夕食をとり、軽い反省会をして早めに就寝した。
ダンジョン内で寝泊まりできるようになるのは、もっと先の話である。
■数日後 ― 二回目の挑戦
数日おきにダンジョンへ入る。
探索の日は朝から管理課へ向かい、入る前に買い物と準備を行う。
「ポーション……最低でも3本はほしいけど、高いんだよね」
一本一万円。
村瀬おじさんが提案する。
「今回は二本だけ買っておこう。まだ浅層だしな」
「うん、わかった!」
そして再度、スカイツリーダンジョンへ。
探索を繰り返すたびに少しずつ慣れ、レベルが上がっていく。
三日目の探索で千秋はLv3、玲奈とおじさんも同じくLv3に到達した。
■運命を変えるアイテム ― 超レアの気配
五日目。
浅層の奥、倒した小型ミノタウルスの死骸が霧と消える瞬間、細長い金色の筒が落ちた。
「えっ……! スキルロール!?」
千秋が震える声で拾い上げた。
玲奈が鑑定メガネをかざす。
「あっ……名前と種類が見えるよ。これ、アイテムボックス:Lv10って書いてある!」
「最上位……!? そんなの、数千万円で売れるレベルじゃないか……!」
だが千秋は迷いなく言った。
「売らない。絶対使う。これがあれば、もっと深く行けるから」
おじさんも笑ってうなずいた。
「なら、チームとして千秋に託そう。君が持つのが一番いい」
こうして千秋は、極めて特殊な最上位スキル――
**「アイテムボックスLv10」**の保持者となった。
これは後に、三人の冒険を大きく変えることとなる。
スカイツリーダンジョン編の導入を、設定に合わせて大幅に再構築しました。千秋たち三人が日常とダンジョンを行き来しながら成長していく最初の数日間を描き、物語全体の基盤となるシステムや世界観を整理して提示しています。次章からはいよいよスキルロールの本格的な扱い、ダンジョン内の寝泊まり、そして初のボス戦へ向かう流れに入ります。




