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《ダンジョン元年前日譚》

夏の終わり、東京を襲った大震災は、世界を“非日常”へと押し出した。地面の裂け目から姿を現したのは、未知の空間——後に〈ダンジョン〉と呼ばれる異界。政府は厳戒態勢を敷き、市民の立入は禁止された。だが、数ヶ月後の規制緩和が、千秋・玲奈・おじさんこと村瀬隆一の三人を、運命の冒険へと導いていく。

 ——私の名前は千秋。もうすぐ三十路、だけど心のどこかにずっと、十代の頃の影が残っている。父のギャンブルで家が壊れ、母と二人きりの貧しい生活。あの頃、私たち母子の支えになってくれたのが、母のメル友だった 村瀬隆一——私にとっては「おじさん」と呼ぶほうがしっくりくる人だ。


 隆一おじさんは独り身で、趣味はアニメとディズニー。母よりもむしろ私の趣味に近く、秋葉原や池袋サンシャインに何度も連れていってくれた。父親と娘のようで、男女の関係なんて一度もなかった。けれど、誰よりも私を肯定してくれる大人だった。


 その関係は10年以上続いたけれど、私に彼氏ができてからは会う頻度が減った。けれど同棲に疲れて実家に戻った時、おじさんにメールしたらすぐに「大丈夫?」と返ってきた。

 それからまた昔のように週末だけ遊ぶ仲になった。


 ——そして冬。秋葉原へ出かけた帰り、年末ジャンボ宝くじ売り場に出た瞬間、おじさんが珍しく子どものように笑った。


「千秋、記念に買おうよ。200枚!」


 普段、自分のものは買わないおじさんが、はしゃいでいた。なんとなく、そのわがままを受け入れた。連番200枚を100枚ずつ分け、先頭番号だけスマホに保存した。


 正月のLINEで当選番号を調べると、なんと一等前後賞——合計10億円。当たったのはおじさん側の束だった。私が「おめでとう」と送ったら、おじさんは何のためらいもなく返してきた。


「これは千秋と二人で買ったんだよ。一人5億ずつ。遠慮いらない。」


 その優しさに、胸が熱くなった。

 宝くじのおかげで生活は少しずつ楽になったけれど、貧しい生活に慣れた私は派手な使い方をしなかった。おじさんも同じだった。


 ——数ヶ月後。夏の終わり。

 東京を襲った大震災とともに、“ダンジョン”と呼ばれる異空間が日本中に無数に出現した。政府は危険と判断し、ダンジョンは即日封鎖。市民は数か月の立入禁止が続いた。


 だが、規制が緩和され始めたある日。

 私は友達の玲奈と「スカイツリーダンジョンに行ってみない?」という話になったものの、何を準備していいか全く分からなかった。


「……困った時の、おじさん、だよね。」


 そう呟いて、おじさんに電話した。事情を話すと、おじさんは少し黙って——そして静かに言った。


「千秋と玲奈ちゃんだけじゃ危ない。俺も行くよ。」


 そうして私たちは、宝くじの資金を使い、命を守るための装備を一式そろえることになった。

 ここから、私たち三人の《スカイツリーダンジョン》の物語が始まるのだった。

今回の導入章は、千秋さんの人生と、おじさんである村瀬隆一さんとの絆を軸に据えて描きました。物語の核心は“ダンジョン冒険”ですが、そこへ至るまでの背景にある温かさや苦さが、主人公たちの強さの源になります。宝くじの当選は単なる幸運ではなく、二人の10年に渡る信頼の象徴。その資金が、これから訪れる危険な冒険を支える「安全の土台」になるよう構成しました。次の章から、いよいよ《スカイツリーダンジョン編》に突入します。

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