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◆二人の出会い・第2話

初めてのディズニー。母と村瀬さん、そしてわたしの三人が作った小さな家族の時間。笑顔と光に満ちた一日が、少女の心に「この人といたい」という確かな感情を宿していく。十年続く絆への第一歩が、静かに踏み出された。

『初めてのディズニー、初めての家族みたいな時間』


約束の日の朝、私は緊張で早く目が覚めた。薄いカーテン越しに見える外の光さえ、今日はいつもより明るく見える。母は少しソワソワしながらも、珍しく口紅を丁寧に塗っていた。その姿を見て、私は胸がじんわり温かくなる。

母にも、こうして外に出て笑える日があるんだ――そう思うと嬉しかった。


アパートの前に降りると、そこには灰色のワゴン車が停まっていた。

運転席から降りてきたのは、メル友のおじさん――村瀬さん。

思っていたより優しそうな雰囲気で、丸い眼鏡の奥には柔らかい笑顔があった。


「千秋ちゃん、はじめまして。今日はよろしくね」


緊張しながらも会釈すると、彼はほんの少し照れたように笑った。母も穏やかに微笑み、3人で車に乗り込む。車内には、ふわっと甘い消臭剤の香りが漂っていた。


高速道路に入ると、村瀬さんは楽しそうに話しかけてきた。

「ディズニーってさ、実は隠れミッキーがいっぱいあるんだよ」

「え、隠れミッキー?」

「そうそう。探し始めると止まらなくなるよ」


母は横で頷きながら、

「この人、いつもこうなの。楽しそうでしょ」

と少し呆れたように言ったけれど、その声はいつもより柔らかかった。


やがて広がる巨大な駐車場、色とりどりのカチューシャをつけた人々、見上げるようなシンデレラ城――

テレビでしか見たことのない光景が現れた瞬間、私は息をのみ、足が止まった。


「千秋ちゃん、初めてだよね。いっぱい楽しんでね」


言われなくても、胸はずっと高鳴っていた。


最初に乗ったのはアトラクションではなく、母の提案でゆったり回るボート系のものだった。「絶叫系は苦手」と母が言うと、村瀬さんは「じゃあ今日はのんびりコースにしようか」と自然に合わせた。

そのさりげない優しさに、私はますます警戒心を解かれていく。


パーク内を歩きながら、村瀬さんはこっそり私のほしい物を探ってくる。

「千秋ちゃん、あのストラップ好き? 買おうか?」

「えっ、いいです! お金ないし……」

「今日は連れてきた記念だから」

母が苦笑しながら止める前に、村瀬さんはレジへ向かってしまった。


その瞬間、私は気づいた。

――この人は、私を“喜ばせること”を、一番に考えてくれている。


昼食のハンバーガーを食べた後、パレードを見るために場所取りをした。陽が傾き始める頃、カラフルな光と音が流れ、キャラクターたちが現れる。母は静かに目を細め、村瀬さんはまるで子供のように手を振っていた。


ふと、その手の振り方を見て思った。

もしかしたら、この人は誰とも家族を作らず、一人でここに来ていたのかもしれない。年に何度も。独り身で。


だからこそ、今日が嬉しいのかもしれない。

私も――嬉しい。


帰りの車の中、疲れすぎて母は眠り、私はぼんやり窓の外を見つめた。

村瀬さんがふと、小さな声で言った。


「千秋ちゃん。今日、来てくれてありがとうね」


「……私のほうこそ、ありがとうございました」


しばらく沈黙が続いたあと、

「また来ようね」

その言葉は、なぜか胸の奥に深い余韻を残した。


この日を境に、私は“ただのメル友のおじさん”を、少しだけ特別な存在として意識し始めた。

そしてこの日から、私たちの不思議で温かい関係は、ゆっくりと始まっていく。

第2話では、わたしが初めて「家族」と呼べる温もりを感じた日を描きました。母と二人の貧しい生活の中では得られなかった、安心と喜び――それを自然に与えてくれる存在が村瀬さんでした。彼の無邪気さと優しさは、わたしの人生に欠けていた「寄り添う大人」の姿そのものです。次回、第3話では、アキバやマンガの話題をきっかけに、わたしと村瀬さんが“二人で出かけるようになるまで”を描きます。

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