◆冬・第二話「ディズニーの魔法と、心に灯るあたたか」
冬のディズニーで過ごした一日は、二人にとって特別だった。
子どもの頃と同じように笑いながら、どこか胸の奥に温かい痛みを残す。
宝くじの奇跡をきっかけに再び近づいた心は、静かに、確かに結び直されていた。
だが、この幸せな時間は、春と夏に訪れる“異変”によって一変する――
魔法のような日々は、嵐の前の静けさだった。
宝くじ当選の知らせから数週間。
それでも私たちの日常は、驚くほど静かだった。
豪華な旅行をするわけでも、高級品を買い漁るわけでもない。
ただ、少しおいしいものを食べたり、小さな贅沢を楽しむ程度。
そんなある日、おじさんから珍しく長めのメッセージが届いた。
《久しぶりに、ディズニー行かないか?》
胸がふわっと軽くなった。
おじさんとディズニーに行くのは、もう何年振りだろう。
母と三人で行っていた頃から数えると、十年以上の付き合い。
けれど、大人になってからは忙しく、彼氏と過ごす時間を優先していた。
「いいよ。行きたい!」
送った瞬間、胸が弾んだ。
■舞浜の朝
冬晴れの空の下、舞浜駅に着くと、見慣れたアナウンスが耳に入る。
改札の向こうには、ミッキーの帽子をかぶった子供たち、カップル、ファミリー……
昔から変わらない、夢と現実の境界がぼやける場所。
「おーい、こっち」
おじさんは、昔と同じ黒い上着にマフラー、手には荷物をまとめたリュック。
どこか懐かしい。
「久しぶりだね、ここ」
「だな。なんか……お前は変わったな。大人の顔してる」
「ちょっと褒めてるでしょ、それ」
「かもしれん」
照れたように口角を上げる。
そんな笑い方、何年ぶりに見ただろう。
■パークの魔法と、十年前の記憶
ゲートをくぐった瞬間、胸が高鳴った。
シンデレラ城の尖塔が青空に伸び、音楽と笑い声が広場に響く。
「今日はお前の好きなとこ全部回れ。金の心配もすんな」
「……そんな言い方、ずるいよ」
そう言いながらも、私の足取りは軽かった。
昔の私が、胸の奥で跳ねているようだった。
ポップコーンのフレーバーを迷い、ショップで可愛いぬいぐるみを見つめ、アトラクションの待機列でくだらない話をし――
すべてが懐かしく、そして新しかった。
(10年前は、おじさんが私を引っ張ってくれてたな)
(母が疲れて座っている横で、ずっと私と歩いてくれてたっけ)
ふと、胸が熱くなる。
■レストランでの、静かな会話
昼過ぎ、レストランに入って席につくと、おじさんが急に真面目な顔をした。
「……なぁ、お前」
「ん?」
「宝くじのこと、誰かに言ったか?」
「言うわけないよ。怖いし」
「そうか。それならいい」
ほっとしたように息をつくおじさん。
「心配性すぎだよ」
「……まぁな」
沈黙が少し流れた後、おじさんは続けた。
「俺は……お前がしんどい時にしか頼られんのかと思ってた」
「え……?」
「いや、悪い意味じゃない。ただ……昔、よく言われたんだよ。『都合のいい時だけ呼ばれる』って」
胸が締め付けられる。
「そんなつもりじゃない。私は……ただ、おじさんといると、安心するだけで……」
おじさんはゆっくり頷いた。
「分かってるよ。分かってるけど、ふと思っただけだ。変な話して悪かった」
「ううん……おじさんの気持ちも、大事だから」
その一言で、照れたようにおじさんは笑った。
その笑顔に、胸がぎゅっとなる。
■パレードの光の中で
夜のパレード。
色鮮やかなフロートがゆっくりと通り過ぎ、雪のようなライトが降り注ぐ。
音楽と歓声に包まれながら、私はふとおじさんの横顔を見る。
柔らかく光を受けた表情は、どこか寂しく、優しく、そして――
どこか遠くを見ているようだった。
「おじさん、楽しい?」
「……ああ。楽しいよ。なんか……救われる気がする」
「救われる?」
「お前が元気そうだからな」
そう言って微笑むおじさんの瞳が、ほんの少し潤んでいるように見えた。
冬の冷たい空気のせいなのか、それとも――
私には分からなかった。
■帰り道、舞浜駅で
パークを出て駅に向かう途中、私たちの足取りはゆっくりだった。
名残惜しさを誤魔化すように、どうでもいい会話をつないでいた。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
「おう。俺もだ」
「また行こうね」
「……ああ。行けるうちは、な」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
「……おじさん、やめてよ。変な言い方」
「悪い悪い。そういう意味じゃない。ただ……こういう日が続けばいいなって思っただけだ」
ゆっくり、静かに電車が入線する。
おじさんは最後にひとつだけ言った。
「今日は、お前を連れてきてよかった」
私はうなずくだけで精一杯だった。
ディズニー編では、二人の関係の“再構築”をしっかり描きました。宝くじで再会した二人が、ただ過去に戻るのではなく、大人として新しい距離感を作っていく流れを意識しています。また、心の奥にある不安や孤独を交え、後の大震災・ダンジョン発生時に「二人が互いに支え合う理由」に深みを持たせました。
この話を終えたことで、四季イベントは冬まで完了。次は春イベント2話→夏の地震発生へと続いていきます。




