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◆冬・第一話「年末の秋葉原と、運命の200枚」

冬。

宝くじの奇跡は、静かで、あまりにも優しかった。

それは人生を変えるほどの大きな出来事なのに、二人の心はただ少し温かくなっただけ。

けれどこの“ささやかな奇跡”は、後に訪れる異常な世界――ダンジョン元年の始まりを、生き抜く力へと変わっていく。

まだ誰も、それに気づいていなかった。

冬の気配が本格的になってきた12月。

仕事納めまであと少しという頃、私はふとおじさんに「久しぶりに秋葉原行かない?」とメッセージを送った。


彼氏との同棲を解消して実家に戻り、精神的に少しだけ疲れていた私は、気がつくと“昔と同じ場所”を求めていたのかもしれない。


《行こう。年末だし、いろいろ見たいのあるだろ》


即返信。

変わらないその温かさに、胸の奥が少しほどけた気がした。

■年末の秋葉原


12月30日。

秋葉原は寒風にも負けない活気に満ちていた。

商店街のアーケードからはアニソンが流れ、中央通りには人の列が絶えない。

私たちは昔よく行った専門店を巡り、漫画の新刊や限定グッズを手に取りながら、いつものように感想を交換した。


「これ、去年買い逃したやつ」


「じゃあ買っとけ。どうせ後で欲しくなる」


「……おじさん、私より記憶力いいよね」


「オタク歴が違う。年季だ」


隣で笑うおじさんを見て、思った。

――高校の時のあの頃と、何も変わっていない。


いや、違う。

変わっていないのは時間ではなく、私たちの距離感なのだ。

■宝くじ売り場の前で


買い物をした帰り道、電気街口の駅前に近づくと、その一角で異様に人が集まっているのが見えた。


「宝くじ、か……年末ジャンボ」


おじさんが足を止めてつぶやく。

売り場には長い列ができていて、番号を書いた黄色い紙を持ったスタッフが呼び込みをしていた。


「記念に買ってみるか」


「え、宝くじ? おじさん買うの珍しくない?」


「普段は買わん。でも……なんとなく、今日はいい気がする」


その直感めいた言葉に、私は思わず笑った。


「直感って、おじさん意外とそういうの信じるんだ?」


「信じてみたくなる日があるんだよ、たまには」


そして、さらりと信じられないことを言った。


「200枚、買おう」


「……え!? 二百!? ちょっと待って高いよ!?」


「いいの。今日は俺のわがまま」


普段、自分のためにはほとんどお金を使わないおじさんが、強めに“欲しい”と言ったのは珍しかった。

私は最初こそ困惑したが、不思議と断れなかった。


(たまには……いいのかな)


そして二人で、連番200枚の束を受け取った。

おじさんが提案した。


「それぞれ100枚ずつ持とう。最初の番号の写真だけ撮っておけば照合できる」


「……うん!」


スマホで写真を撮り合い、薄く重い宝くじの束を半分ずつ分け合う。

その瞬間――

胸の奥に、言葉にできない“何か”が灯った。

■年越しLINE


年越しのカウントダウンを過ぎた頃、スマホが震えた。


《明けましておめでとう。今年もよろしくな》


おじさんらしい、そっけないけど温かいメッセージ。


《そういえば宝くじ、今日結果じゃない?》


《え、そうだっけ? 調べよう》


私たちはLINEで会話しながら、ネットで番号を照合し始めた。

100枚の番号を一つずつ、慎重に、時に笑いながら確認する。


「かすりもしないねー」


「まぁそんなもんだ」


ところが。


《……あれ?》


おじさんから送られてきたスクリーンショットには、見覚えのある番号が青枠で囲まれていた。


「……これ、1等……?」


心臓が、一度止まった。


おじさんからすぐにメッセージが来る。


《前後賞も全部当たってる。10億……だな》


《おじさん、おめでとう!》


《……いや。これは二人で買っただろ。だから半分の5億、お前のな》


画面を見たまま、私は動けなかった。


(なんで……どうして……)


宝くじを買ったのはおじさんだ。

金額の大きさを考えれば、全部おじさんのものだ。


なのに。


《俺はいい。お前に必要だろ。人生、やり直すって金がいる。こういうのは……分け合うほうが、面白いだろ?》


涙が落ちた。

新年早々、意味もなく泣きたくなるほど胸が詰まった。


「……ありがとう、おじさん……」


声に出したその言葉は、誰にも届かなかったけれど、確かに私の中で未来の扉をひらいた。

■その後の日々


宝くじが当たったからといって、私たちの日常が大きく変わったわけではない。

派手な買い物もせず、贅沢な生活をするわけでもなく、むしろ以前より慎ましいぐらいだった。


「寄付の電話、来てない?」


母に何気なく聞かれたことがあった。

噂では、高額当選者には怪しい団体から寄付の依頼が来たりすると言う。


でも、私には一切来なかった。


(……全部、おじさんが受けてくれていたのかもしれない)


そう思った時、胸がぎゅっと締め付けられた。


冬は静かに、確実に終わりに向かっていた。

けれど、私の人生は確かに――新しい光を手にしていた。


その光が、半年後にあんな非日常に飲み込まれるとは知らずに。

宝くじ編は、この物語の大きな転換点のひとつでした。おじさんの“優しさの本質”が一番よく出る場面なので、彼の価値観や関係性の深さを丁寧に描くよう意識しました。宝くじの奇跡は確かに劇的ですが、二人はそれを“日常の延長線”として受け止めているところがポイントです。ここで大きく生活が変わらなかったことが、後のダンジョン発生時におじさんが冷静な判断をできる理由にもつながります。

次は冬イベント第2話「ディズニー編」。ここで二人の絆がさらに強まります。

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