どうしようもない遊び人令息の真実の愛~茜に燃える罪~
なんて綺麗な女性なんだ。
初めての婚約者との顔合わせ。
花がほころぶように微笑むアデリディアにブルドは見惚れた。
金の髪に青い瞳、凄い美人である。
桃色のドレスがとても似合っている。
ブルドはガルドス公爵家の次男である。いずれどこかの家に婿に行かねばならない。
そろそろ婚約者を探さねばと、父と話して探していた所だった。
父ガルドス公爵はブルドに、
「エフェル公爵家のアデリディアと婚約を結んだ。歳は22歳。お前より5歳年上だ」
「5歳年上ですか?何でそんな年上の女を」
「アデリディアは第二王子と婚約を結んでいたんだがな。第二王子が急死してしまった。だから、アデリディアは新たに婚約を結ぶ事となってな」
ブルドは思い出す。ルイ第二王子って、凄く浮気者で、女性関係が激しい美男だったっけ?病で急死したと聞いたけれども。でもその婚約者の女性が何で自分に?
「ルイ第二王子はアデリディアの美しさに惹かれて、婚約者にと望んでいた。だが、ルイ第二王子が結婚出来る18歳まで結婚が伸ばされてきたのだ。だからアデリディアは22歳。この度、エフェル公爵から頼まれてな。幸い、お前はまだ婚約者がいない。だからアデリディアと婚約を結ぶこととなった。年上妻だが、エフェル公爵家なら婿入りの家として申し分ない。感謝するのだな」
と言われた。
ブルドもルイ第二王子同様、遊び人だった。
婚約者がいまだに決まっていなかったのも、遊びたかったからだ。
王立学園に特待生として入学してきたマリリアは遊び相手として相応しかった。
口元に黒子があり、胸が大きくて淫らだった。
「マリリア、愛しているよ。君の唇はサクランボのようだ」
「私も愛しているわ。ブルド様っ」
マリリアだけではない。ルリーや、サリーナ、平民の特待生ばかりを狙って、甘い言葉を囁いて遊びまくった。
ブルドは美男である。銀の髪に青い瞳。
名門ガルドス公爵子息で、彼が微笑めば、女性達は胸が高鳴り、惚れてしまうのだ。
マリリアと熱い口づけを交わした。マリリアと教室で淫らに交わった。
彼女の身体は最高だから。
ルリーとは手を繋いでデートをした。一緒にカフェに行って一つのグラスで飲み物を飲んだりして楽しんだ。
サリーナとは共に勉強した。サリーナは頭が良いので、共に勉強する相手としては申し分なかった。
色々な女性達と付き合い、傍に置いて学園生活を楽しんだ。
自分中心で世界は回っている。
そう信じていた。
エフェル公爵家の客間で父と共に、初めて5歳年上のアデリディア・エフェル公爵令嬢と会った。
美しさに目を奪われた。
柔らかな金の髪が窓から差し込む光に輝いて。
青い瞳がキラキラ光り、桃色のドレスが柔らかく彼女の身体を包んでいる。
緊張して自己紹介にどもってしまう。
「わ、私はブルドっ。ブルド・ガイドスと申します」
「ブルド様。わたくしはアデリディアですわ」
声も鈴を転がすような美しい声。
その美しさに、その気高さにブルドは夢中になった。
ブルドはアデリディアと二人きりになった時に、
「これからは君だけを見つめる。今までの私は色々な女性と付き合った。でも、あまりの君の美しさに心を奪われた。アデリディア。美しい」
「まぁ貴方様こそ美しいですわ。」
「有難う。婚約したんだ。これからは、女性と遊ぶ事はしない。絶対に」
「でも、殿方は遊ぶものだと。前の婚約者、ルイ第二王子殿下も女性関係が激しい方でしたわ」
「ああ、ルイ第二王子殿下は亡くなったのだな」
「急な病で。わたくし悲しくて」
涙を流すアデリディア。
ブルドはアデリディアを慰めて、
「これからは傍に私がいる」
アデリディアの流す涙が美しかった。彼女の為にもいろいろと頑張ろうと思うブルドであった。
学園に行くとマリリアが近寄って来た。
「ブルド様ぁ。マリリア寂しくて。放課後、教室で愛して欲しいの」
「私は婚約した。遊ぶ訳にはいかない」
「秘密にすればいいじゃない?私、秘密の関係でも構わないわ」
マリリアは魅力的だ。その身体は肉感的で。ごくりと喉が鳴る。
でも、貴族の男性は浮気の一つや二つと言われるお国柄だが、アデリディアに嫌われたくなかった。
「マリリア。ごめん。君との関係は終わりだ」
マリリアは泣いて縋ってきた。
「愛しているのよ。愛してっ」
彼女を振り払って廊下に出た。
他の女性達、ルリーや、サリーナにも訳を話して付き合いを断った。
ルリーは残念そうに、
「ブルド様とのデート楽しかったわ。婚約者が出来たのなら仕方ないわね」
サリーナも、
「どうか婚約者様とお幸せに」
と言ってくれた。
自分勝手だと思われるだろうが、今は大事な時期だ。
アデリディアに嫌われたくない。
翌日、学園が休みだったので、アデリディアに会いに行った。
アデリディアと共にエフェル公爵家の庭を散策する。
天使の姿をした噴水の前に来ると、アデリディアは、
「この庭もルイ様と一緒に歩きましたわ。ルイ様は我が公爵家に婿に来る予定でしたの」
「婚約期間は?」
「2年ですわね。ルイ様は急死してしまいましたから」
「愛していたのかい?」
「愛していた‥‥‥彼はとても優しかったから。わたくしは彼とこの公爵家を盛り上げていくのを楽しみにしておりましたの。それなのに」
ルイ第二王子の話になると、アデリディアは涙を流す。
その白い手を握り締めて、
「君を泣かせるルイ第二王子に嫉妬してしまうよ。そうだ。何かアデリディアにプレゼントしたい。どういうアクセサリーが好きなんだ?やはりアクセサリーがいいかな?」
「わたくしにプレゼント?なんて嬉しい。そうね。赤のルビーの首飾りがいいわ。赤い色が好き。わたくし情熱の赤が好きなの」
「赤のルビーだね。あまり大きいのはあげられないけど」
「構いませんわ。貴方からのプレゼントというだけでわたくし、とても嬉しいわ」
「他に君の好きな物を知りたい。教えて欲しい」
アデリディアは考えるように、
「花が好きよ。真っ赤な薔薇の花が。後、ほら空を見て。真っ青な空。あの青い色も好き。それから暮れ行く空の色も好き。茜色から、濃い藍に変わっていくあの空の色。なんて素敵な。なんて美しい」
「空の色か……それを思い起こせるような石を探してプレゼントしたいな」
「貴方はとても優しいのね。だから女性にモテるのだわ」
そう言われて、慌てた。
ブルドはアデリディアの手を握り締めて、
「今は女性とは付き合っていない。婚約者が出来たのだから。君の事だけを思う事にするよ」
「まぁ。嬉しいわ。わたくし、幸せになってよいのかしら?」
「幸せになっていい。何故?」
「だって、貴方より5歳も年上なのよ。それなのに……」
「歳なんて関係ない。アデリディア。私は君を見た途端、美しさに夢中になったんだ。アデリディアは美しい。私は君を一生大事にするよ」
アデリディアは嬉しそうに微笑んでくれた。
だから、信じられない。アデリディアがまさか……
ブルドが学園に行くと、マリリアに付き纏われた。
「貴方の事が好きなの。愛人でもいいから、傍に置いてっ」
「すまない。私は婿に行くんだ。愛人を伴って行くことは出来ない」
「あんなに教室で愛し合ったじゃない。私の事を好きだって言ったじゃないっ」
「君との事は遊びだ。そもそも、私は貴族だ。ガルドス公爵家の息子だ。君との関係は遊びに過ぎない」
「酷すぎるわっ」
泣きながらマリリアは走り去った。
本当に遊びだった。
マリリアの身体が良かったから。自分は最低だ。
マリリアに金でも渡して改めて謝罪をしようか。
そう考えていた矢先。
マリリアが殺された。
マリリアの死体が街で見つかった。
身ぐるみ剝がされて酷い有様だった。
若い娘が治安の悪い場所に踏み入った結果だと言われた。
何故、治安の悪い地区に一人でマリリアが行ったのか?あまりにも謎で。
二日後、アデリディアとエフェル公爵家のテラスでお茶を飲んでいた時に、アデリディアはにこやかに、
「あの女、始末しておきましたわ」
「え???始末しておいたって‥‥‥」
「当然じゃありませんか。貴方に付き纏っていたのでしょう。これから先の事を考えて始末しておいたのですわ」
頭が真っ白になった。
マリリアは殺された?殺したのはアデリディア?
アデリディアは優雅に紅茶を飲みながら、
「邪魔者は始末する。これが公爵家の在り方ですわ」
「まさかとは思うけど、ルイ第二王子も???」
「さぁどうでしょうね。あの方が急死したのに、わたくしが関係していたかどうか、それは貴方の想像に任せますわ」
確かに、ルイ第二王子を殺したのがアデリディアだとしても、王族殺しは死刑である。
言わないであろう。
ブルドは聞いてみた。
「アデリディアはルイ第二王子を愛していたのか?」
アデリディアは空を見上げて、
「あの人と一緒に、空を見たわ。あの人は青い空が好きだと言っていたの。暮れ行く夕焼けの空も好きだって。わたくしも空が好きになった。でも、あの人は色々な女性に空が好きだって言っていた。色々な女性の手を握って、色々な女性に愛を囁いて、色々な女性と関係を持って‥‥‥色々な女性と、でもっ。わたくしは空を嫌いになれなかった。あの人が好きだから、あの人が好きな空だから。あの人がわたくしに愛を囁きながら、空を見上げて、空の美しさを語ってくれたから。だからわたくしも空が好き。ずっとずっと死ぬまで空が好きなのだわ」
ああ、この令嬢は、傷ついている。ルイ第二王子に裏切られ続けて傷ついている。そう感じた。それと同時に、もし、自分が彼女を裏切ったら殺される。命の危険を感じる。
でも‥‥‥
アデリディアを抱き締めた。
「私は君の事を裏切らない。婚約する前は色々な女性と遊んだ。でも、これからは君一筋に愛する事にするよ。愛しているアデリディア。君が空を好きであり続けても構わない。でも、私が好きな物を君も好きになってくれると嬉しい」
二人の人間を殺しているアデリディア。でも、私は‥‥‥
アデリディア。君の事を愛し続けるよ。
その後、アデリディアとブルドは結婚した。
二人は仲睦まじく、息子にも恵まれて、幸せに暮らした。
今日も、日が落ち空が茜色に染まる。
年老いた妻アデリディアの身体を抱き締めながら共に夕焼けを見つめる。
アデリディアが口を開いた。
「わたくしを愛してくれて有難う。わたくし‥‥‥ルイ殿下を。地獄に落ちるわね」
「地獄なら一緒に行ってあげるから。愛しているよ。アデリディア」
ブルドは思う。もし、神様が自分を見ていたら、
マリリアに対して酷い男だと人は批判するだろう。
ルイ第二王子を殺したアデリディアを愛し続けて頭のおかしい男だと思われるだろう。
でも、自分の人生に悔いはない。
愛しい妻の額に優しくキスを落とすブルドであった。