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目覚めたら女の子で、親友に再会した

 意識が、白い光の濁流にのまれる。これが僕の最期なのか。


(そんなの、嫌だ……!)


 まだ死にたくない。こんな、誰にも気づかれず、ただすり減って消えるなんて──そんな終わり方、絶対に嫌だ。この世界は、もっと自由なはずなのに。


(獅音……くん……)


 高校生の頃に出合った、不良の男。まともに授業は受けないし、遊んでばかりだった彼。普通の人は、あまり関わり合いたいと思わない類の存在だった。でも、僕はその自由な生き方に惹かれた。


 人の視線ばかりを気にして、自分から何かをやりたいなんて言ったことがなかった。だから、自分のやりたいことを選んで生きている、彼みたいになりたくて、勇気を出して友達になって、それから大学を卒業するまでずっとつるんだ。


(あの頃、だけだったな)


 自由を感じられたのは、後にも先にもあの時だけ。卒業してからは仕事ばかりで、すっかり疎遠になってしまった。


 そんな終わり方、ありえない。


 もう、限界だった。一人ぼっちだった僕には、助けを求めるなら、獅音くんしかいなかった。


「獅音くんに、会いたい……! また、昔みたいに、隣に――!」


 強く、そう祈った。


 あの頃みたいにもう一度、居場所が欲しかった。


 リン──と、どこかで鈴の音が鳴った。


 ──◇──◇──◇──


 視界は白いままだった。しかし、冷たい蛍光灯のような光が、草原に降り注ぐ日差しのように暖かくなってくる。どこからか聞こえる小さな鳥の声や、風が木々をなでる音までもが、妙に馴染んでいた。まるでここが、自分の帰るべき場所だったように。


(ここは──死後の世界? それとも、また夢を見てるのかな?)


 あの時、確かに死んだ、と思う。生き返ったなんてことは、きっとないはず。怜はそう思った。


 体が揺れる。海の上に浮かんでいるように。穏やかな波に揺られ、太陽に照らされ、どこまでも心地いい大海原に投げ出されたようだった。


 その時だった。

 

 ふわりと、嗅ぎ慣れた香りが鼻をくすぐる。

 

 甘くて、少しだけ苦いような、懐かしい香り――。


 大学生の頃、親友がふざけ半分でつけ始めた、あの香水の匂いだった。最初は似合わないと思っていたはずなのに、いつの間にか、それが『彼の匂い』になっていた。


 遠くで、声がした。あの声だ。


 怜がゆっくりと目を開くと、視界の中央には見覚えのある男が居た。高校生の頃に出合った、自由が服を着たような存在。不良少年だった、雨津獅音だ。


 金髪、耳に開いたピアス、鋭い目付き、全然変わってない。でも、少し大人びた顔つきになっていた。最後に会ってから三年は経っているだろうか、きっと今再会すればこんな感じなんだろうと納得できる、大人っぽさがあった。


(そっか。もう、そんなに経つのか)


 ただ、生き延びていただけだったからだろう。社会に出てから、時の流れがあまりにも速くなった。大学の卒業式で獅音と別れたのが、つい先日のように思えた。


 彼はジーンズにパーカーというラフな出で立ちをしていた。さっきまでの、教室の光景は何だったのだろう。どうして目の前に彼が居るのだろう。そんな疑問は、獅音の存在が生み出す安心感で押し流された。


「良かった、目、覚めたか。気分は?」


 自分はベッドの上で横になっているらしく、上から彼が覗き込んでいた。これはあの夢の残滓なのだろうかと考えたが、今度は体の自由が効く。


 体を起こしながら、優し気な獅音の顔を見上げた。人によっては怖いと言われてしまう、彼の顔つき。怜には、その微かな機敏も簡単に見て取れる。心配してくれている獅音の声に、心がほぐれていく。


 分かっている。獅音が都合よく自分の前に戻ってくるなんて、ありえない。だから、きっとこれも走馬灯だろう。怜はそう考えた。


 体を起こしてあたりを見渡すと、そこは現代日本では珍しい、板張りの壁と天井。窓の外をちらりと見ると、見慣れぬ深い森の緑が揺れている。見覚えのない部屋だった。けれど、どこかで見たことのある気がした。


 窓の外の揺れる木々も、天井の板目のゆらぎも。まるで、誰かの見た夢をそのままなぞっているような、そんな錯覚すらあった。誰かの、でもどこかで知っているような——そんな不思議な記憶の匂いがした。


 ──◇──◇──◇──


 知らない家の中に獅音と二人きり。まるで状況が掴めないが、夢ならばそんなこともあるだろう。とりあえず、体調を心配してくれている獅音に答えた。


「うん、だい、じょうぶ……?」


 何の気なしに答えたつもりだったが、すぐに違和感を覚えて口ごもる。自分の喉から出た声が、まるで少女のように可愛らしいものだったのだ。反射的に喉へ手をやると、慣れ親しんだ喉仏の感触がない。夢の世界なら、自分の身体が幼いころに戻ることもあるだろうと、深くは考えなかった。


 それよりもずっと、言いたいことがある。


「獅音くん、会いたかったよ」


 数年ぶりの獅音との対話に、怜は胸が高鳴った。まるで運命の人に再会したかのような感覚だった。狭い牢獄から救い出してくれる勇者に出合ったような、そんな感覚でもあった。勇気があれば、抱き着いてしまいたいくらいに。


 しかし、獅音は怜と打って変わって、怪訝な顔を浮かべ、怜の顔を見下ろした。そのままベッドから一歩引いて、怜と距離をとる。まるで、信じられないものを見たような表情だった。


「お前、なんで……いや、なんか……その言い方……」


 怜が想像していたものと違う、困惑した獅音の表情と声。


(なんで、そんな顔するの? 獅音くんだって、嬉しいでしょ?)

 

 獅音の反応に呼応するようにして、怜の心も冷えていく。それでも、ここで引いてはいけないと奮起し、震える声で答えた。


「……忘れたの? 怜、だよ。高校も、大学も、一緒だったでしょ」

「は……? お前が、怜? ――んなわけねぇだろ!」


 突然の怒声に、怜の肩がびくりと跳ねた。自分の体が幼くなってしまったからだろうか、彼が自分のことを怜だと気づいてくれる様子がない。そんなのは嫌だ。せっかくの走馬灯なのだから、どうか幸せな夢であって欲しい。でも、どうすればいいか分からない。


 黙ってしまった怜に対して、獅音は警戒心をあらわにしたまま、詰問するような口調で続ける。


「怜は、男だ」

「えっ……?」


 言っている意味が分からない。いくら男の中では小柄な方だとしても、たとえ小さいころに体が巻き戻っているとしても、男か女かを見間違われることなんてありえない。


 怜は獅音の言葉を、頭の中で何度も反芻した。目の前が暗くなり、視界が揺らぐ。自分が理解できない、何かがその身に起きているようだった。獅音はさらに続けた。


「お前はどこからどう見ても、せいぜい十五歳かそこらの女だろうが」

「えっと、何を言って──」


 獅音の言葉を信じられないまま、怜はゆっくりと、自分の体に視線を落とした。黒いスーツの上下に、白いワイシャツ、ネクタイ。大量の仕事に押しつぶされそうになりながら、なんとか家に帰ってベッドに倒れ込んだのを思い出した。今の自分の身体にはぶかぶかすぎるようで、やはり、身体が幼くなっているのだろうか。


(――いや、違う)


 見て取れるくらいにはっきりと、胸元が膨らんでいる。嫌な予感がした。顔から血の気が引いた。


「な、なんだお前……おい……」


 獅音はもう一歩後ずさって、距離を広げた。獅音からは、目の前に居るのが少女にしか見えない。寝ている彼女を起こしたら、急に血相を変えたのだ。正気とは思えなかった。


 しかし、その動きの端々に、どこか見覚えのあるものを感じていた。それが何なのかはピンときていないが、古い記憶が掘り起こされるようだった。


 ──◇──◇──◇──


 獅音の前に居ることも忘れ、怜は部屋をぐるりと見渡し、片隅に置かれていたドレッサーの前に駆け寄った。体に対して大きすぎるスーツのズボンが、お尻に引っかかって止まる。余ったズボンの丈が足にまとわりついて、歩きにくい。時折転びかけながらも、何とかたどり着く。


 ドレッサーは、どこか見覚えがあった。怜はその鏡の中を覗き込む。いつだったか、同じように自分の姿を確認したことがある、そんな気がした。


 そこに居たのは、獅音が言う通り、中学生か高校生くらいの女の子。怜の感情と同じく、唖然とした表情をしていた。アジサイ色の髪に、ぱっちりとした青い瞳。唇も肌も、まるで磨き抜かれた人形のように整っている。──どこからどう見ても、女の子だった。


(可愛いな、この子)


 素直に、そう感じた。まっすぐに見つめられて、恥ずかしさすら覚えた。怜は悲しいことに、女の子とまともに会話したことも、顔を合わせたこともなかった。あるとすれば、仕事関係だけだ。仕事モードになっているときには、相手の顔がどうとかなんて、考える暇がなかった。


 しかし、それが自分の姿なのだと気づくと、首筋を冷たいものが這った。 認めたくなかった。まるで知らない誰かに、自分の身体を乗っ取られたようだった。


「誰……これ……?」


 腰に手をまわせば細くくびれており、逆にお尻は丸みを帯びている。股間に手を当ててみれば、何もない。見慣れた自分の身体とは違う、明らかに他人の身体。誰かに作り替えられてしまったようだった。


 怜は、あまりの驚きに暫し呼吸を忘れた。それから何度も自分の身体をまさぐり、何度繰り返しても変わらないその感触に、目が見開いていくのを感じた。なんども自分の手で確認し、体の端々が痛いくらいになってようやく、思考が追いついてくる。


 怜が思わず、ごくりとつばを飲み込んだ。鏡の中の女の子も同じようにした。心臓がバクバクとうるさくて、何とか落ち着けようと深呼吸をした。また、鏡の中の女の子も同じようにした。これ以上確かめるまでもない。鏡の中の女の子は、今の怜の姿だ。


(ち、違う。こんなの、僕じゃない)


 まるで、着ぐるみを着ているようだった。朝霧怜、その人格は確かにここにあるはずなのに、視界のどこにも映らない。


 世界から『朝霧怜』という存在が消えてしまったようだった。呼吸が浅くなり、足に力が入らない。今にもその場に倒れそうだった。


(あんなに、頑張ったのに)


 男の頃の自分の姿は、決して好きだと言えないものだった。男のくせに小柄で、華奢で、男っぽくなかった。そのハンデを気合で乗り越えようとしてきたのに、その努力が無駄になってしまった気がした。何とか作り上げてきた自分の居場所が、全て消え去ってしまうのを幻視した。


 それでも、鏡の中に居る女の子は、確かに自分だ。その女の子以外に、自分の意識を覆っている皮は無かった。逃れられない現実に、喉の奥が詰まる。どうして女の子なのか。こんなことなら、最初から――。


(最初から、こんな姿で獅音に出合っていたら、良かったのに。僕は、こんな子に、生まれたかったのかな)


 涙がじわりと滲んだ。鏡の中の女の子から、目をそらした。どこか、あるべき姿に収まったような感覚がしたから。女の子になって良かったと、心のどこかで納得してしまった気がしたから。


 嫌だ。認めたくない。今更こんな体になったって遅すぎる。そう思いながらも、視線はもう一度、鏡の中の少女を探していた。拒絶と好奇が、胸の内でせめぎ合っていた。


 どうしたらいいのか、分からない。言葉にならなかった。それでも誰かに伝えたくて、獅音にすがった。


「獅音くん、どうしよう……女の子になっちゃった……」


 自分が女の子になったこと、それだけでは、こんなに取り乱さない。せっかく再会できた獅音に拒絶されるのが、何より怖かった。


 部屋の隅に立っている獅音の目の前まで、怜はふらふらと歩いて近寄った。獅音は一歩引いた。


 彼まで数歩のところまで来ると、記憶にあるよりもずっと見上げて、ようやく彼と目が合った。今の自分は記憶の中の自分よりもずっと身長が低くなってしまっているのだと気づき、目頭が熱くなってくる。男らしさを求めていたのに、今の自分はその欠片もない。むしろ、触れられれば壊れてしまいそうな、繊細すぎる身体だった。


 しかし、獅音は違うものを見ていた。目の前の少女の、オドオドとした自信のない表情と口調。おびえながらも擦り寄ってくる仕草。縋るような、不安げに揺れる視線の動き。


「まさか……いや、けど……」


 自分でも正気と思えない考えだった。しかし、彼女の仕草の一つ一つが記憶の中にある、一人の友人と重なった。どこか確信を持った言葉が獅音の口をついた。


「もしかしてお前……怜、なのか?」


 そのセリフを聞いて、怜の頬に涙が伝った。その場にペタリと崩れ落ち、鼻をすすりながら、震える声で答えた。


「そうだよ、怜、だよ」


 まるで染みついた動きのように、獅音の身体は勝手にその少女の方へと向かった。吸い寄せられるようだった。


 獅音の目の前にいる少女は、当然のように目を瞑り、頭を差し出した。髪の色は全然違うのに、あの友人と、目の前の少女が、獅音の中で完全につながった。


(この感じ――でも、そんなこと、ありえるのか……?)


 獅音はそうやって直感を疑いながらも、気が付くと、手が勝手に、あの頃みたいに怜の頭を撫でていた。


 大きな手が乱暴に頭を撫でる。その感覚が懐かしくて、怜は目を細めた。高校生の頃、数回だけしてくれた触れ合いに、とても良く似ていた。


(これ、夢じゃ、ないんだ)


 獅音が頭を撫でてくれる感触、頬を涙が流れる感覚があまりにもリアルで、怜はこれが現実なのだと、にわかに理解し始めた。頬に涙が流れた。獅音と再会できたことが嬉しくて、夢じゃなくてよかったと泣いた。


 その一方で、心のどこかで、変わってしまった自分をどう見られるのかが、ずっと怖かった。


 ──◇──◇──◇──


「本当にお前、怜なんだな」

「やっと信じてくれた? ……信じてもらえなかったら、どうしようかと思ったよ」


 ベッドに並んで腰かけた二人。獅音は今の怜の姿を何度も見返したのに、まだ半信半疑だった。一方の怜は、性別が変わったからか、どうにも座る姿勢がしっくりこなくて落ち着かない。

 

「普通、見た目どころか性別も違うやつが急に知り合いの名前を語ったところで、信じるわけがないだろ」

「まぁ、それはそうだろうけど……。まさか、高校時代にやらかした諸々を、自分から口に出す羽目になるなんて思ってなかったよ」


 獅音に迷惑をかけた、沢山の失敗。それを声にするだけでも恥ずかしかったのに、自分の喉から出る声の高さによって、気恥ずかしさがずっと増した。意図に反して裏声になってしまっているようだった。獅音と二十分くらいは話していたが、未だに慣れることはなかった。


 違和感があるのは、声だけではない。長い髪の毛や、ぶかぶかの服の中に感じる女の子の体の感覚──膨らんだ胸や何もついていない股間、細い四肢がくすぐったくて、じっとしているだけでも胸がざわつく。そんなことを感じていると獅音にバレたくなくて、なんとか気にしないようにすればするほど、逆に全身が過敏に反応してしまった。


 ある意味で狙い通りだったが、そんな怜の葛藤を知るかとばかりに、獅音は頭をボリボリと掻きながらため息をつく。

 

「しょうがないだろ。俺も、お前だって、校内じゃそれなりに名が知れてたんだから。二人だけの秘密なんて少ないんだし」


 怜は『僕の名が知れてるなんて』と思わず否定したくなったが、それをグッと飲み込んで、話題を先に進めた。

 

「それで……なんで獅音くんはここに居るの?」

「俺も気づいたら森の中だった。道なりに来たらこの家があって──中に入ったら、お前が寝てた」


 すっかり困り果てたといわんばかりの表情をしている獅音の視線の先、部屋の窓の向こう側には、深い緑の葉をつけた木々が揺れていた。自分も獅音も訳の分からない状況に巻き込まれているというのに、随分呑気にしているものだと、意味もない不満をぶつけた。


 謎の家で目を覚ました怜と、謎の森で目を覚ました獅音。どちらもそう変わらない立場のようだった。そんな状況で不満をぶつけるなんて獅音に悪いかと思ったが、怜の胸の内が口をついた。


「ここ、どこなんだろう。なんで僕だけ、こんな体になっちゃってるんだろう」


 怜の声が、静かな部屋の中に広がった。質素な部屋の中で傷心しているその光景は、今の怜の見た目も相まって、悲劇のヒロインのように見える。そんな怜に対して、獅音はぶっきらぼうに呟いた。


「分からん。なんで俺は外に放り出されて、お前はベッドの上で優雅に寝てたんだ。扱いに差がありすぎるだろ」


 獅音は不満げな表情を浮かべていた。その表情がちょっと造り物っぽくて、怜にはそれが冗談半分だと分かった。何となく安心感があった。獅音と一緒にいるからだろうと、怜は考えた。


「これから、どうすればいいんだろう」

「元の世界に戻るってのが一つ、怜の体は……そのままでもいいんじゃないか? めっちゃ可愛いし」

「よ、良くないよ! こんな体で戻ったら、仕事もできないし、免許だって……」

「……まあ、見た目だけ見りゃ、超絶美少女ってとこか。良いんじゃね?」


 いつもの軽口が、獅音の口から飛び出す。怜はそれを聞くだけで、あの頃に戻った気分になった。でも、その言葉の端々が、自分が女の子になってしまったことを思い出させて、怜は胸が痛くなった。


 あの頃の獅音との関係とは、決定的に変わってしまった、そう感じた。それが気のせいだと思いたくて、芝居がかったくらい大げさに『良くないって!』と反応してみせる。『獅音くんの言葉で遊ばれて、僕は怒ってるんだぞ』と表現する。

 

 その時、獅音の目がスッと細められた、ように見えた。背筋が、ぞくりと震えた。息が詰まった。しばらく、時が止まった気がした。


(獅音くん、なんで、そんな目で僕を見るの……?)

 

 その目は、まるで怜を試しているようだった。獲物を見定めているようにも見えた。どこかで見たことがあるような、しかし記憶の中にいる獅音とは確実に違う目付き。


 それからすぐに、獅音はケラケラと、冗談っぽく笑った。けれど顔は笑っているのに、その目だけはまだ笑っていない気がした。


(笑ってるん、だよね? なんか、怖いよ……)


 獅音の視線は、どこか遠く──怜の奥にある『何か』を見透かしているようだった。怜は獅音に合わせて、大げさに笑った。こうして笑い飛ばせば、きっと何とかなる。昔から、そうやってやり過ごしてきた。同じことを繰り返す怜とは対照的に、獅音はどこか変わってしまったように見えた。


 大学を卒業してから、何かがあったのだろうか。怜が知っている獅音とは、どこか別人のように見えた。自分を引っ張ってくれた、頼もしい彼とは思えなかった。


 獅音の視線の奥にある何かを、怜はまだ理解できなかった。ただ、どこかで『離さない』という強い意志を感じた。

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