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エピローグ

「北山さん。改めて異常は見られませんので、退院可能です。一ヶ月お疲れ様でした。この後は事前にお伝えしている通り、お昼までに所定の手続きを行って退院ください。ご家族のお出迎えはありますか?」


 担当の主治医は、表情を変えずにてきぱきと説明してくれた。


「家族は散々見舞いに来てくれたので、今日はいないんです。平日ですし」

「そうですか。それでは引き続きお体には気を付けてくださいね。失礼します」


 そう言うと、主治医は部屋を後にして、僕は病院の個室に取り残された。室内は一気に静まり返って、窓から吹き込む風にカーテンがなびく音が聞こえた。僕は、再びベッドへ横になった。


「あれからもう一ヶ月か」


 脳裏に十二日間の出来事が浮かび上がった。これまで体験してきたどの経験よりも濃くて、苦くて、喜怒哀楽を感じた十二日間。ただ、こちらの世界に帰還したタイミングだけは文句を提言したい。確かにグリントは"元の時間軸に戻す"と言っていたが、まさか竜巻に飲まれた直後の僕に戻されるとは思っていなかったのだ。当然ながら、僕は混乱したまま三階建てのビルほどの高さから落下。痛みで悶えているところを下校中の同級生に見つけてもらい、そのまま病院送りとなったのだ。

 落下地点が田んぼだったので、幸いなことに軽症で済んだが、不幸なことに将来の笑い話になることは必至だろう。それに、当たりどころが悪ければ命にも関わっていたはずだ。いつか、もしグリントに会うようなことがあれば文句を言ってやりたい。


「いつか、会えたら。か――」


 覚悟をもって別れを告げたはずなのに、毎日のように遥か異世界の仲間を想ってしまっているのだ。

 でも、それは当面心の中に閉まっておこうと思っている。清算したい過去――自分一人で乗り越えようとしていた勉強や部活を、仲間と共に乗り越えてみたい。そんな自分に期待してみたいのだ。


「じゃあ、頑張りますか!」


 ベッドから起きると、荷物が詰め込まれたリュックを背負った。そして、最後に、ベッド脇の小棚を開いて、魔導石が結えてあるネックレスを取り出すと、首から下げた。

 異世界での経験。仲間との旅。そこで成し遂げた出来事――全てが糧で、全てが今の僕を成している。


大丈夫。全部やり切ってやる。今の僕なら何でもできるはずさ――


 窓から吹き込んだ風が、初夏を感じさせた。僕の新たな旅も、これから始まるのだ。

あとがきを活動報告へ書き残しています。本章『ハルとドラゴンの冒険』はこれにて完結となります!閲覧ありがとうございました。

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