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最終章⑤

「え、なんか二人とも……酔っ払ってる?」


 ソウはどこか覚束無い足取り。ベルはというと、ソウの頭へしがみついているけど、ずり落ちそうなのに翼をはたはたと力なく動かすだけ。そして、酔いを裏付けるのは……二人共、顔が真っ赤だったのだ。そう、推理するまでもなく、誰がどう見ても二人は酔っ払っていた。


「そりゃ、はじめは王宮に忍び込んでこっそり楽しむつもりだったんだぜ?なのに、直々に招待されてさ。こんな規模の祝の席なんか、初めてだからさ。楽しくてつい、なー」

「楽しい気持ちは分かるけど……ベルは何で?お酒飲んだの?」

「いやさ、なんかドラゴンって熟れた果物食べると酔っ払っちゃうんだってよ。知らず知らずのうちにしこたま食ってたらしいぞ」

「そゆことー」


 二人はケラケラと楽しそうに笑っていた。すると、急にソウが真面目な表情になって、頭にしがみついているベルを掴み上げた。


「俺さ、ブレアに魔導石返し忘れてたんだよ。"言語変換の魔導石"と"治癒の魔導石"をさ。ベル、明日返しといてくんない?」


 酷い酔っ払い方だった。これが巷の絡み酒……とは少し違うかもしれないけど、大胆な口利きでベルに尋ねると、「オッケー。任せといて〜。でも一緒に行こー」と、なぜか旅を道連れにしようとして、「当たり前じゃねーか。一緒に行くぞ。お、そう言えばシシリーにも顔見せないと。付いてこいよ」と、ソウも一緒に行くことになったらしい。おまけに目的地も増えている。


「酔っぱらいの気持ちはよくわからない」


 僕は、楽しんでいる二人をよそに傍観していたけれど、ソウは突然僕に向き直って真顔で喋りかけた。


「ハル、お前も一緒に行くよな」


 酔いに溺れたせいでの真顔だと分かっているけど、その顔は僕の気持ちを見透かすような、迫真の表情だった。


「あ……えと、僕はさ、グレンさんにスキルの大半持ってかれちゃったし、足手まといだよ。一緒には、いけない」


 ソウは、ボリボリと頭を掻きながら口を開いた。


「俺はな、同情してハルを誘ってんじゃねえ!お前と一緒に旅をしてぇから聞いてんだ!」

「う、うん……多分、大丈夫……」

「よし、それならいいんだ」


 会話にソウの本音を聞いた気がした。でも、僕の返答を聞くと、ふにゃふにゃしながらベルを再度頭に乗せた。


「よ〜しっ!もう一杯飲んでくるぞ〜!」

「お〜!」


 僕が何をするでもなく、二人はバルコニーから去っていった。場は再び、しんと静まり返った。

 ソウは、旅の共を誘ってくれていた。でも、僕の今の力は、火魔法のスキルレベルが4。高く見積もっても5程度らしい。グリントの力をグレンに移したら、ごく普通か、それ以下の一般人ステータスになってしまったのだ。

 旅を辞めて元の世界に帰る理由として、スキルレベルの低さで納得するようにしていた。でも、『それは関係ない』と、はっきり言ってくれる仲間がいたのだ。


「それが帰る理由だとしたら、一番カッコ悪いよね」


 僕も、理解しているのだ。いくら弱くても、旅は続けたいのだと。


「旅の続きを後押ししてくれる仲間がいる――」

「あの、少しよろしいですか」


 陽気な二人とは打って変わり、今度はアリシアが開け放たれた扉から僕を見ていた。


「大丈夫ですか?あまり顔色が良くないみたいですけど」


 アリシアが僕の顔色を気にして、近づいてきた。


「心配ないよ。大丈夫」

「少し、相談に乗って頂きたくて……少し中庭を歩きませんか」


 バルコニーから見下ろす先には王宮の中庭が広がっている。中庭は、今日に限り開放されているのだ。


「僕でいいのであれば、喜んで」


 そう言うと、アリシアはほっとした表情になった。


ーーーーーーーーー


 中庭は、見下ろした時と同じく人気がなかった。巡回している衛兵こそ僕たちを訝しげに見るけれど、何を言われるでもなく距離を空けてくれる。この場で会話を誰かに聞かれる心配はなさそうだった。パーティ会場からは時折歓声やら、笑い声やらが聞こえるけれど、騒音というほどでもなく、比較的静かな環境だった。


「それで、相談って何だろう」


 中々話を切り出さないアリシアへ、意を決して尋ねてみた。彼女の雰囲気から言い出し辛そうな印象は伝わっていたものの、僕が助け舟を出さなければ話が進まなさそうだったのだ。


「えと……先の会場では、ずっと旅の始まりのことを考えてしまっていました。たった十日程前の話ですけど、この濃密な旅はーー孤児院の軒先で始まったんですよね」

「そうだね。まさかここまでの大冒険になるとは思ってもいなかったよ」


 僕もその日のことを思い出していた。異世界に来てたった二日。そこで自分と同じくらいの歳の女の子と早々に、しかもたった二人で旅立つとは思いもしなかった。


「そして、半日も経たないうちにドラゴンの襲撃を目撃して、旅の目標はそこでイメージしました。『ドラゴンが引き起こしている事件を解決したい』と。目標を達成すれば、私のような孤児も減るだろうと考えていたのです」

「僕も、いきなりラスボス……いや、ドラゴンなんてものに遭遇するなんて思っていなかった。本当に驚いたよ」


 目に焼き付いているのは、焼けた村。怪我を負った人々。ザブラスに人を殺す意思は無かったとはいえ、凄惨な現場だった。


「でも、ドラゴンの事件を追うに連れて、これまで信じていたものの多くが虚構だったのだと知りました。また、逆に私の無知や自身の持つ力への驕り……それらが周りへ迷惑を与えていたことにも悩みました」

「うん。僕も国を支えているはずの機関が悪なんだということには、心底驚いたよ」


 この事件の本当の怖さはそこにあったと思う。信じて然るべきものに裏切られることの怖さを。


「両親についての真実も知ることができました。結果として敵も倒せました。この十日ほどで……私の旅の目的を、達成できました。出来てしまったのです」


 アリシアは涙を浮かべていた。嬉し涙というわけではなさそうだった。


「ーー以前、なぜ旅をするのかあなたへ聞いたときに、『この国の見聞を広めたい』と仰っていましたよね?この旅で、見聞は広まったのですか?まだ時間が必要なのですか?それとも、あの言葉は嘘で、"元の世界に帰ってしまう"のですか?」


 元の世界に帰る話は、グレンは知っているものの、アリシア含め旅の仲間には伝えていなかった。ただ、僕が異世界人で、"世界を救う"使命があることは旅の仲間は知っていた。だからこそ"元の世界へ帰還"することを勘付かれてしまうかもと覚悟はしていたけど、それが今で、その相手がアリシアだとは思っていなかった。


「この世界に召喚されて、世界の危機を救ったあなたは、居残る理由がなくなった今、元の世界へ帰ってしまうのではありませんか?でも、帰らないという選択肢が……もし、残っているのであれば――」


 アリシアは歩みを止めた。次に口にする言葉が喉につかえているようで、それを促そうとしたとき――


「あなたを、私の旅の目的にさせていただけませんか」


僕が、旅の目的?アリシアは何を――


 僕はことばの意味を理解できなかった。僕自身が目的になるとはピンとこないし、考えもしていなかったのだ。


「私は、この旅で、世の中のことを余りに知らなかったのだと痛感しました。まだ世界は広い、と。まだ沢山のことを見て、知る必要がある、と。でも、私一人ではダメなんです。ハルさんと一緒でなければ」

「……ソウが、いる」

「ソウは、仲間ですが……私はあなたが――」


 アリシアのことばに、僕も胸が苦しくなった。『まだこの世界にいたい』と言いたかったけど、僕の口からは、その大事な一言を伝えられなかった。いや、他にも何か伝えたいことばはあったはずだった。でも、何を言っても嘘くさい言い訳になってしまいそうで、頭の中の単語は一つたりとてことばにならなかった。


「……ありがとうございました。私は先にパーティ会場へ帰っていますね」


 僕の返事はないと判断したのだろう。アリシアは一礼すると、踵を返した。小走りで、小さな背中が遠ざかっていく。そんな女の子に掛ける言葉すら、思い浮かばなかった。

 僕は、自分の想いを話せない最低なやつだ。でも、何も話さずにいるのも嫌だった。僕は何も変わっていない。変わろうと思っていたはずなのに――


「お主、アリシアのことをどう思っておるのだ」


 僕の悩みを吹き飛ばさんと如く、隣から鼻息の荒い声が聞こえた。

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