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最終章③

 目を開けると、真っ白な空間にいた。地に足がついている感覚はあるものの、上も、下も、前後左右どこも真っ白だった。


「ここはどこだろう?」

「おや、お主もいるのか」


 僕の独り言に、さっきまでは周囲にいなかったはずのグレンが反応した。振り返るとグレンがぽつんと座っている。僕は人間の姿だし、グレンはいつもの赤黒い巨竜の姿へ戻っていたのだ。


「光に包まれたと思ったら、真っ白い空間ですね。契約は切れたみたいだけど、何か分かります?」

「いいや、ワシも知らんな。現実でないなら精神世界とでも言うのだろうかな。それにしても何が干渉してこんな場所にーー」

『ハル、グレン。改めて、この世界を救って頂きありがとうございます』


 僕とグレンが困っていると、唐突に念話のようなもので声が聞こえた。高く、透き通った女性の声でーー聞き覚えがあるように感じた。それに加え、僕たちの背後に気配を感じたので振り返った。そこには、全身半透明の女性が立っていた。何かしら煌めいていて、それはまるでーー女神のように感じられた。


『そう身構えないでください。私はグリント。過去に存在していたはずの、一匹の竜。今は人間の姿を借りていますので、これは仮の姿です』

「おお、グリント様……なんと麗しゅう姿で……」


 グレンが跪いた。僕もそれに倣って膝を付く。


『お止めください。あくまで私は現世から離れた身。この様な形でしか姿を現せないのです。しかし、せっかくの機会ーーこの場を借りて、少しだけ、昔話をさせてください。大半は既に失われた古の物語ですが』


 そう言うとグリントは僕たちの前に歩みを進めた。


『遥か昔――世界は、現代とは比べ物にならないくらい、殺伐としていました。人間も、ドラゴンも、魔物も……お互いはもとより同種族でも争っていたのです。とても平和とは縁のない荒れ果てた世界でした。そんな折、混沌の時代の真っ只中に私は生まれ落ちました。ただ、私は運良くスキルに恵まれており、この身一つで世界を平定できるであろう力を有していたのです。しかし、現実はそう上手くはいかないもの。力だけでは平定なぞ程遠く、私の生涯では同族を取りまとめることが精一杯でした……そのため、他種族との共存は未来の世代に託すことにしたのです。そこで、私はあなたの身に付けている"それ"に』


 グリントは、僕が首から下げている"言語変換の魔導石"を指差した。


『種族間の争いは専ら、"言葉が通じないこと"が原因でした。会話が出来なければ話し合いも何もできませんから。そこで私は、自身の命を"言語変換の魔導石"へと変えました。それを後進に砕かせ、世界中あらゆる種族へと共有したのです。それで少しは平和になるものと思っていました。しかし――』


 グリントは悲痛な表情になり、言葉を溜めた。


『時が経とうと、世界は平和とは程遠い状況でした……絶えず戦争は起こり、むしろ言語が伝わるが故に起きた争いもあったのです。そんな様子を魔導石の欠片にほんの僅か宿った精神体で眺めていました。力のない私には、それしかできなかったーーこの国に争いの火種が増えつつあるのに、です。しかし、転機が訪れました。とある欠片を通じて、争いを憂い、世界の平和を願って、時空間魔法を唱えようとする人間がいることに気がついたのです。その魔法とは、『異世界からの人間の召喚』と、『光のドラゴンから力を引き出し、召喚した人間に与える』という二種類でした。好機と見た私は、その魔法に干渉して力を増幅させ、人間に力を宿らせた――』


 僕は生唾を飲み込んだ。まさか、それが――


『そう、その人間がハル、あなたなのです』

「なぬ、お主は異世界人だったのか」

「……ごめん、言ってなかったよね。僕は"日本"っていう国から来た異世界人。隠したかったわけじゃないけど、混乱させちゃうと思ってさ」


 グレンは多方面からの情報に混乱していた。しかし、グリントはお構いなしに話を続けた。


『本当は、ドラゴンの里へ直接転生させ、ドラゴン達に手伝けさせようかと思っていましたが、世界に散らばった私の魔導石に反応して、ずれた位置に転生してしまったようなのです。しかし、これもまた数奇な運命で、あなたはその日のうちに私の魔導石の欠片を手にしました』


 僕は胸元の魔導石に触れた。シスターがこれを僕に渡していなければ――旅はそこで途絶えていたかもしれなかった。数奇な運命――言いえて妙だと感じた。


『ハルさんには酷な旅をさせてしまいましたが、どの困難も乗り越えて来られた。そして、その旅も、間もなく終わりを迎えます』


 グレンがハッとした表情で僕を見た。僕ですら、クルエスを倒すことに精一杯で、元の世界に帰ることなんか忘れていた。


『私の力を使って元の世界に帰るのならば……本日深夜に大規模な流星群が流れますので、その時を見計らい、首から下げた魔導石に魔力を込めてください。魔導石へ残った私の魔力を媒介に、ハルさんの魔力を辿る形で、元の世界、元の時間軸へ帰還することができるでしょう』

「もし、使わないなら?他の方法は?」

『ーー高度な時空魔法を唱え、それにより帰る他ありません。しかし、精密ではない故、何事もなく元の世界に帰れるかは……分かりません。また、本日を逃すと、次の大規模な流星群は一年後となります。魔導石の魔力は常に消耗していますので、その時に必要な魔力を残しているかも未知数です。そのため……確実に帰還されたいなら、"本日深夜"までに決断ください』


 僕は、グリントが震える声で念押ししているのだと分かった。何が僕にとって一番なのか――どれを取っても難しい選択には違いない。


『そしてグレン』

「は、ハイ」


 突然振られたグレンは狼狽えた。


『従士契約を酷使したことで、あなたの有するスキルはほとんどが失われるでしょう。ただ、ハルの中にあった"私の力"をあなたへ移し替えましょう。ハルにはもう必要ありませんからね……当時の面影もないほどに掠れた力ですが、ないよりはマシなはずです』

「あ、ハイ。ありがとうございます!」

『私からの話はこれで全てです。何か聞いておきたいことはありますか?』

「大丈夫……です」


 そう言うと僕は目を伏せた。ずっと僕の夢に出ていた人と話すことができたけど、話足りないことは沢山あるし、知りたいことも山程ある。これっきりかもしれないという寂しさもある。でも、それらが余りに多すぎてーー言葉にならなかった。

 ふいに視界に光が差してきた。眩しさを感じて目を瞑る。体が軽くなる感触を抱き始めると、足が地面から離れた。


これで、お別れなのか――


「グリントさん、ありがとうございました!世界はまだまだ続くけど、今日のことは沢山の人に伝えます。この世界に、もっともっと平和になってもらえるように!だから、少しだけ、少しだけ安心してください!」


 ふいに胸に溢れ出した言葉を、勢いで言い放った。言いたいことをしっかり伝えられたのか分からない。でも、最後に見えたグリントは、それを聞いて、確かに頷いてくれていたのだ。

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