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最終章②

「みんな、クルエスは……最期を遂げた。僕たちは――勝ったんだ!」


 僕が叫ぶと、みんなは拳を突き上げて声を上げた。

 それは、クルエスから解放された歓喜の声や、街を破壊せんとした悪しきドラゴンを打ち倒したことへの感謝が入り混じったものに聞こえた。

 仲間以外に色めき立つ群衆の数には驚いたが、みんなも街を守ろうと各々で戦っていたのだ。この街では誰もが勇者であって、誰が活躍したとか、誰が偉いとか……そんな優越はいらなかった。僕も、ただただ嬉しかったのだ。そんなみんなの心からの喜びが天候に乗り移ったのか、晴れ間が覗いているのに、雨が降り出していた。


「ちょっとー。もしかしてザブラス元に戻ったー?」


 不意に上空から声が降り注いできた。ベルの声だった。歓喜で満ちていた群衆は、一瞬で静まり返ってしまった。それもそのはず、ベルの後ろにはドラゴンが列を成していたのだ。何十匹ものドラゴンが空にたむろする光景は非常に壮観で、しかしこれが敵対されたものであれば、誰もが死を覚悟していただろう。敵意は感じなかったが、瞬く間に緊張感が街中に拡大した。


「人里に出てきたのは久しいが、なかなかの歓迎ぶりじゃのう」


 ベルの後ろを飛ぶ褐色の巨ドラゴンが、群衆が避けた地面に着地した。ドラゴンの里の先代――ブレアだ。他のドラゴンは変わらず飛んでいるから、代表として人間に歩み寄ったのだろう。


「おっと、みんなは言葉が分かんないと思うから俺の魔導石を置くぜ。これに向けて話してくれ」


 ソウが言語変換の魔導石を地面に置いた。マイク代わりにすれば互いの言語も気にせず対話できるということだ。


「私はドラゴンの里"ドネゴール"の長代行ブレアじゃ。まずは、愚ドラゴンのザブラスが皆様にご迷惑をおかけしたようで、そのことについて心からお詫びいたそう」


 ブレアは深く頭を下げると、お辞儀をしながらシスターが前に出てきた。人間の代表として話すようだ。


「まずは、お会いできて光栄です。ブレア様。私も同じく先代ーーかつてはギルドマスターを担っていたエリナと申します。こちらこそ、現ギルドマスターであったクルエスを発端として、ご迷惑をおかけ致しました。クルエスは、言葉巧みにザブラス様を誘導し、結果として相互に不利益をもたらしていたのです」

「そう言ってもらえると助かりますな。そのクルエスに翻弄されたのは人間、ドラゴン共に同じ。元々本日は、互いの種族を隔絶するため"不可侵条約"を破棄するつもりじゃったが、それも不要だのお」


 以前は"条約を破棄した上、さらには人間に攻撃を仕掛けて距離を置く"と話していたはずだった。言っている話が置き換わっているが、場を読んだ発言をしているのであろう。腐っても長年ドラゴンを率いるリーダーを務めてきたのだ。お互いの種族が腹落ちできるよう話を進めてくれるようだ。


「それに、"コレ"があったから混乱を招いたようだの。ドラゴンの秘宝"不死の魔導石"じゃ。この場で破壊しよう」


 そう言うと、ブレアは首に下げた袋を地面に置いて、袋を爪で差し貫いた。パキンと割れる小気味よい音。群衆からは、驚嘆やら歓喜やらが含まれる溜め息が聞こえてきた。


「我々の持つ"人間界の秘宝"も、先の戦闘で失われました。争いの火種は、もうこの世にはございません」


 シスターがそう言うと、群衆は何が起きているのか分からなさそうにしているが、アリシアやソウが大きく手を叩くと、まばらながらも拍手の音が聞こえてきた。


「さて、細かな話は後に詰めるとして、本日はこの愚ドラゴンと里の長グレン殿を連れ帰れば用は済むのじゃが……グレン殿が見当たらんのお。それより……先程から見えているその白い鱗のドラゴンは何者なのじゃ?はて、どこかで見た覚えもあるのぉ」


 ブレアは首を傾げて記憶を辿っているようだった。


「ブレア様、僕です。実はこのドラゴン、昨日出会ったハルなんです。グレンさんと従士契約をして、グレンさんの姿を借りたはずなんですけど、何故か光のドラゴンの姿になってしまって……」

「思い出した……初代里の長、グリント様じゃ」

『グリント?……グレンさん、知っています?』


 ブレアの動揺具合に驚きグレンに念話で聞いてみると、少し唸った。


『ワシはもちろん知っているが、ほとんど伝承よ。膨大な魔力と先見性で国中に散らばっていたドラゴンをまとめ上げた、天からの使者と伝えられておる古のドラゴンなのだ。光のドラゴンと聞いて不思議に思っていたが、まさかグリント様に力を授かっていたとは……光栄だ』


 グレンは感慨深い様子で、そんなにもすごいドラゴンだったのかと驚いてしまった。


「……この姿がグリント様ならば、グレン殿はどこかね」

「あ、だから姿はグリント様なんだけど中身にはグレンさんが存在していると言うか何と言うか……」

「どういうことだ?グレン殿が姿を見せられぬ理由があるのか?」


 なぜか理解に及んでくれず、急に雲行きが怪しくなってきた。グレンは僕と念話できるものの、ほかの人とはできないらしく、証拠を示そうにも示すことができないのだ。空を飛んでいるドラゴンにも混乱し始めた雰囲気が伝わったらしく、徐々に空が慌てふためいていった。


『グレンさん、まずいよ。この契約、そろそろ終わらないかな?』

『ワシも正確な時間はわからんのだ。むず痒い気がする故、そろそろとは思うのだが……む?』


 グレンが何かに反応した雰囲気を出すと、僕も何かを感じた。それは何事にも形容しがたく、全身の鱗を引っ張られていると共に、体の中から何かが膨らんでくるような、得体の知れない感覚だった。


「これは……そろそろ……契約が終わりそうです!」


 そう言うと、自身が眩く光りだした。明るさでは表現できない、閃光を目にしているような光だった。自分の体から発せられているのに、自分も眩しさを感じる。


これは、目を開けていられない――

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