第五章⑭
「闇壊砲」
クルエスは僕に向けて口から黒い熱線を放出した。突然の攻撃に驚いたものの、身を翻してかわすことができた――と思った瞬間だった。ほんの僅かに掠った後ろ脚の付け根に、強烈な痛みを感じたのだ。
『痛っっ……少し掠っただけなのに!』
『闇魔法は水の形態派生故、触れた箇所を侵食させる力を持つ。飛沫ほどの攻撃にも触れるんでないぞ!』
『そんな無茶な……でもそれって、避けてばかりじゃいけないってことだよね』
クルエスが再度頬を膨らませていた。先程受けたブレスに対抗するよう、僕も同じように魔法へ集中した。
「闇壊砲」
「光貫砲」
互いに撃ちあう形になった。魔法の接面は光と闇がぶつかり合い、半透明の炎となって拡散している。威力はほぼ拮抗。撃ち負けるとクルエスのブレスをモロに受けることになってしまう。それを避けるためにも、僕は持てる力を振り絞ってブレスを放つ。
威力はほぼ互角か。いや、これは――
瞬間的に光が炸裂し、煤が立ち込める。僅かではあるがこちらのスキルレベルの方が上回っているらしく、威力には分があった。
「よし、これならクルエスも――」
『避けろ!』
グレンの念話を受け、瞬間的に高度を上げた。元いた空間を、黒い熱線が通過していく。煤に紛れてクルエスが再度ブレスを放っていた。
「少し、掠ったぞ。ただーー惜しかったな。威力はそちらが高いかもしれないが、私には底なしの魔力がある……さあ、どこまで耐えきれるかな」
クルエスは、僕の攻撃が当たったのであろう前足をぺろりと舐めると、闇に紛れて姿を消した。こちらの攻撃の威力が高いといっても、それはわずかな差に過ぎない。撃ち合いになったとしたら、魔力の上限がないクルエスに分があるのだろう。
「くそ……光浮球」
クルエスの余裕に焦りながら、燦と輝く光源を生成した。まずは暗がりに紛れたクルエスをあぶり出す必要がある。さらに、生み出した球は僕の体長よりも大きいため、背後からの接近も防いでくれるだろう。
「ーーそこだ。光連弾」
光に影が揺らいだ。一点砲火で、光の弾丸を狙い撃った。が、影は揺らめいただけでクルエスに着弾しなかった。
これは、フェイク――
「こちらの『技能』はまだ紹介できていなくてなぁ――」
「……っっ!光護盤――」
真隣の悪寒にすかさず盾を生成した。しかし、それより一足早くクルエスが爪が振るっていた。生成途中の盾は、十分に強度を発揮しないままに裂けていきーー鋭い爪が後ろ足を抉った。
「ぐぅぅ……」
鮮血が滴り落ちる。ただ、盾はなんとか勢いを軽減してくれたようで、受けた傷は致命傷ではないし、飛行にも影響はしなさそうだった。しかし、失った体力と無為に消費していく魔力、そして体中に増える傷の数ーーそれらと相なすように気力が徐々に奪われていく。
残りの魔力は半分ほど。長く戦闘できない。これから、どうする?
『お主、奴をどう倒すかイメージはできているか?』
『イメージ?』
遅れをとっている僕に、グレンが念話でアドバイスをしてくれるようだった。息切れしている僕は、その声に集中する。
『闇魔法と光魔法を比べると、威力は僅かにこちらが上だがほぼ同等。さらに相手は多彩なスキルを持っておるようだ。では、こちらは相手を上回る強みを活かして戦うのだ』
『強み……』
ヒントをもらった。ただ、その言葉を反芻する前に、クルエスは再度闇に紛れていく。
僕の強みは何だ?これまでの経験、特技、魔法、技能――
「油断しているな――これで終わりだ」
先程とは真逆の隣にクルエスの気配を感じた。今回も、盾を生成したのでは間に合わない。それに、反撃としてこの方法が最善か分からないけど、思いついたままに試していくしかなかった。
「閃瞬眩」
体全体から魔力を爆発的に放出させて――思い切り輝かせた。
「ぐっ……何だ……目が……」
クルエスは咄嗟に目を背けると爪を空振りさせた。そしてすぐに僕から距離を取った。
「くそ、チンケな攻撃をしやがって……闇壊砲!」
僕の目眩ましに焦ったクルエスは、咄嗟に攻撃態勢を取ると、僕に向かって熱線を放った。僕はその攻撃目掛けてーー速度を落とさず飛行した。
「馬鹿め。そのまま直撃して塵と化すぞ」
「無策じゃない。そして、僕の強みはーー諦めないこと。何でも試してみることだ!光堅縄」
僕は、間一髪でクルエスの攻撃を避けて――いや、やはり掠ってしまったが、痛みに堪えつつ光で生成した縄を投擲した。
「何を小癪な!」
クルエスが僕の動きを見て、距離を取ろうとその場から翻った。それを見た僕は、縄をコントロールして、クルエスの後ろ脚へ絡ませる。
「投擲のスキルが役に立った……これがないとうまくいかなかった」
縄を手繰り寄せてクルエスの元に近づく。クルエスも縄を切ろうとブレスを吐くが、僕の魔法の方が僅かに威力が高いので、切れることはなかった。縄を切断するのに諦めたクルエスは、僕に向けてブレスを放つが、後ろ脚側で視認し辛い僕を、うまく狙って当てることは難しいようだった。
数度のブレスを避けて最大限に縄を手繰ると、ついにクルエスのすぐ真後ろへ到達した。クルエスはというと、何かしらの魔法を放つ準備をしているようだった。表情に陰りはない。ピンチとは思っていないらしい。
「ふふ、その縄は光魔法だろう。魔法は同時に一種類しか唱えられないと、ギルドで習わなかったか?私を攻撃しようと別の魔法を唱えれば、この縄は解除される。そして、お前が次の手を繰り出す一瞬のうちに……お前を攻撃する。そして、逃げる間もない内に八つ裂きにしてやる。ここまで追い詰められて……屈辱だ――お前は、何度も、何度も、何度も、引き裂いてやる!そして、人間も、ドラゴンも何もかも滅ぼしてやる!そして私はドラゴンの秘宝で不死となるのだ!」
クルエスのことばは、冷静に受け入れられた。何を言われようが僕は大丈夫だと、胸に手を当て自身へ言い聞かせながら、首元に手を当てた。"それ"の温かさは、鱗に覆われた掌でも感じることができた。
「魔法は、一種類だけじゃない。魔導石があれば複数種類唱えることが出来る。仲間がいたからこの戦法で戦えるーーこれは、たった一人で戦ってきたあなたには不可能なやり方です。そう、これまでの積み重ねが今……あなたに牙を剝いているんだ!」
クルエスは目を見開いて僕を見た。僕は、胸元の"水"と"風"の魔導石に力を込めた。
「水風竜爪!」




