第五章⑨‐ex(アリシア、ソウ、ベル)
「おーい、ベル!ってアリシア!?それに黒いドラゴン――ザブラスも倒れてる!!俺がいない間に何がどうなったんだ?」
通路の先には驚き顔のソウがいた。今、ホールにはベルと、本来いなかったはずの私。そして今しがた倒したクロエとザブラスがいるのだ。この状況、何から説明したらよいものかと頭を捻る。
「あの、私も、チームで決めた信念を貫きたいと思って、一緒にクルエスを倒します……それに、私も彼に、大きな借りがあったのです。一時は離れてしまったけど……もう一度チームとしてやらせてください!」
「――もちろんだ!詳しくは後で教えてもらうぞ。で、なんとなく察したんだけどさ、もしかしてハルだけ一人で先に進んだのか?」
「その件ですが、まず前置きを聞いてください。実は、この施設に来るまでに私はソウのお母さんと話をしていたのです。そこで、彼女は光のドラゴンの召喚を試みたのではなく、『光のドラゴンの力』と、『それを宿す人間』の二種類をこの世界へ呼び寄せたはずだと仰っていました。そして、ハルさんがその力を有した異世界人であろうことも……グレンさんの命にタイムリミットがあるかもしれず、また、戦局を見てハルさんのみ先へ進んでいます」
「母さんと……?え、ハルが……?驚くことばかりだけど、まあ、納得した。することにした!最近、こんなことばかりだなーーそれでアリシアとベルで、この女とザブラスを倒したと」
私は頷いた。ソウもやっと状況に合点がいったらしく、首を縦に振った。一方、それを見たベルはまた、満を持した顔で声を上げた。
「二人の話は終わったかな?それじゃあ今度はザブラスの番だ。あんたには聞きたいことが山程あるんだよ〜!」
ベルは疲労感を全く見せない素振りで宙を舞った。ただ、ザブラスは顔を向こう側へ向けており、なんの反応もしない。それでもベルはお構いなしに続ける。
「まず、あんたは悪い人間と共謀して人間の国に混乱を与えた。間違いないね。あんたが人間を攻撃すれば、人間はその仕返しでドラゴンを攻撃する。そうしたら、あんたが独断でやったことなんて知らないドラゴン達は人間を攻撃しちゃうでしよ。あんた、里には居場所がないと勝手に思い込んで飛び出していったのに、不可侵条約を壊したら、里からも、人間の土地からも排除されちゃうんだよ?そこまで考えてなかったでしょ?」
「……だって……あいつ、クルエスは、協力すれば『賢者の石』をくれるって言ったから……持ち帰ったらみんなの目が変わるかなって思って……」
「そんな甘い話があるわけないじゃない!なんて浅はかなの!先のことも考えずに昔からいつもいつもみんなに迷惑かけて!反省しなさい!」
そう言うと、ザブラスは小さくなって後ずさった。私たちの、これまでの黒いドラゴンの凶悪なイメージが崩壊していった。
これてはまるで、悪ふざけをした小さな子供――
そして私は理解した。やったことは許されないけれど、彼も心の隙をクルエスに付け込まれて悪用された被害者なのだ。そう思うと、小さくなっているザブラスが憐れに思えてきた。
「――ベルって、ザブラスの何なんだ?」
二人の関係性を前に耐えかねたのか、ソウがベルに尋ねた。
「弟みたいなもんよ。心配だったから姿を見ようと来てみたら、いいように使われてるし……グレンのおじさんにも会いたかったのに、悪い人間に捕まってピンチだし……ザブラスは本当プライドばっかだし、グレンのおじさんもお人好しすぎるし……みんなサイテー」
「ベルも大変だな?ーーっておい。おい、ザブラス、どうした?」
ソウが、突如そわそわし始めたザブラスに声をかけた。どこか焦っているようで、独り言のような物も呟いている。すると、ザブラスは突然こちらへ向き直って、申し訳無さそうに口を開いた。
「あの、ごめんなさい、僕、実はあいつと契約してて……行かなくちゃ」
そう言うと、ザブラスはハルが先に進んだ通路を這って進んでいった。
「は?待ちなさい!」
呆気にとられたベルは、叫びながらその後を追いかける。
「ソウ、私たちも行きましょう」
ソウも頷いて先を急いだ。悪い予感がする。この先には――間違いなくクルエスがいるのだ。
全ての出来事の元凶となった悪魔が。




