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第五章④

 カプセルの中にいる男は、死んでいる。そう言い放ったのは、通路の奥に立っていた緑髪の男だった。その目は虚ろで、視線は僕たちの誰とも合っておらず、僕たちの向こう側を見ているようだった。以前見かけたときは、もっと血色がよかった気もするが、その顔には確かに見覚えがある。


彼は、クルエスの左腕、マルゴに違いないーー


「言っただろ。そいつは死んでる。スキルを全て抽出され終わってるからな」


 マルゴはカプセルに目を向けると、冷たく言い放った。相変わらず視線が合わないものの、彼はそんなことにはお構い無しの様子だった。


「お前は何を知ってるんだ?スキルを抽出されると、死ぬ?」

「あー、そいつは特級ギルドチーム大蟹ハンマークラブのリーダー、ランスだ。主なスキルは、水魔法7、強打8。近距離タイプ。仲間は三人。チームの魔法バランスがよく、小規模な依頼を中心に手堅くこなしていく方針。で、こなした依頼は――」

「待てよ!そんなことを知ってるのかと聞いてんじゃねぇ。スキルを抽出されるとどうなるんだよ!?」


 ソウが青筋を立ててマルゴをまくし立てた。すると、マルゴは呆れた表情で僕たちを見回した。


「だから、死んじまうんだって。世の中の全てのものは"魔力"を保有してる。そして、生物はそれと共に、生命の源泉でもある"スキル"をもっている。もし、魔力が一時的に底をついても、生体機能に一定の制限がつくだけ。でもな、特殊な方法で生物からスキルを全て引っこ抜くと――スキルの魔導石が手に入る代わりに、死ぬ。そう、スキルは生命力そのものなんだ。そのカプセルに入ってる奴も、スキルを全て抽出され終わってる。そこに落ちた結晶がスキルの魔導石さ……ただ、生憎まともなスキルを持ってなかったらしい。小さな結晶ばかりだろ?レベルの低いスキルばかりだ。気になるならやるよ。飲み込みゃ使えるようになる」

「魔導石を、飲み込むだって……?お前は人の心がないのか」


 笑みすら浮かべず淡々と説明するマルゴに、ソウは怒りを露わにした。僕も、ロボットのように説明するマルゴへ、胸糞悪い気分を抱いた。


「こんなもの使うかよ!……ハル、ベル、聞いたか。だとしたらグレンもスキルの抽出をされている途中かもしれねぇ。さっさと救わないと……グレンの命が危ねぇ。が、見たところ警備はあいつ一人。さっさと倒して先を急ぐぞ」

「僕もそう思う。道を譲ってもらおう」

「正面突破しちゃおっか〜」

「……おいおい、誰がどこを通るって?仮にもクルエス様から扇の要を預かっている身だぞ」


 マルゴは腕を組んでこちら側を見ている。そして彼は初めて感情を表した。何か裏がありそうな、冷徹な笑みを浮かべていたのだ。


「……俺が一人だからって油断してるだろ。お前ら」


 すると、マルゴは唐突に腕を突き出して、火炎球を放ってきた。突然の攻撃に僕たちは横っ飛びで避ける――火炎球は背後のガラス壁に直撃して、爆裂した。ガラスは大きな水槽の一面だったらしく、中に溜まっていた水が勢いよく溢れて出てくる。さらには、それと共に施設全体も明滅し始める。設備が大破したことによって警報を伝えるアラームが起動したようだった。


「ち……壊しちまった。まあこの施設もすぐに用済みになるんだ。ちょっとくらいいいだろう」


 マルゴは口角を上げながら、僕らを舐め回すように見た。一方のソウは、危機感を露わに叫んだ。


「二人共、こんな所で時間を食ってるわけにはいかねぇ……一対一で十分だ!俺が仕留める」

「舐められてるじゃねぇか……俺が一人なのはなぁ……周りにいる奴をみんな壊しちまうからだよ!」


 そう言うと、マルゴはさっきよりも大きな火炎球を生成して、こちらへ投げてきた。


「私が守るから、今のうち行こう!ハル!水護盤ウォーター・シールド


 ベルが僕の懐から飛び出して、小さな手を前にかざすと、僕を優に覆い隠す程の丸い水の盾が出現した。直後、火炎球が水の盾へ当たると、火炎球は消失したが、熱で盾の大半も蒸発してしまっていた。ベルは水の盾を消すと、僕を促した。


「……!あの人間の魔法、かなり強いよ。さあ、行こう!」

「ソウ、気を付けて!」


 僕は、飛び立とうとしたベルの後ろ足を掴んだ。ベルは、マルゴから距離を取るようにして飛行するスピードを上げた。


「させねぇ!俺の火炎球で撃ち落としてや――」

「……お前の相手は俺だよ!」


 気性荒く叫ぶマルゴに、ソウのゴーレムが背後から覆いかぶさっていた。羽交い締めにされたマルゴは、火炎球を生成し損なうと通路に響き渡る声で叫んだ。


「お前ら、こいつを殺して、追いついて、皆殺しにしてやる!すぐに行くからな!」

「追いつくのは俺だよ!ハル、グレンに会ったらヨロシク言っといてくれ!」


 振り返ると、ソウの姿が薄暗い通路の中に消えていった。僕は、ベルと先を急いだ。

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