第五章③
「これは……本当に洞窟の中か?」
「キラキラしてるこれは何かなー」
ソウとベルが感嘆の声を上げた。それに、多少は見慣れているはずの僕も、突然の光景に息を飲んでしまった。洞窟の中には、"この世界に存在するなどと思ってもいなかった装置"がいくつも並んでいたからだ。それは、何かを培養する用途なのだろうか、人間程度なら容易に入ることができそうな大きなカプセルだった。人間こそ中には入っていないものの、中に満ちている液体は水ではなくホルマリンか何かのようにも思える。更には、各カプセルの手元には、この世界で遂に見ることがなかった"機械"の操作盤が設置されていたのだ。
二人を前に冷静を装っているが、この光景は当然元の世界でも見たことはなく、相応に動揺してしまっていた。フィクションから知り得た知識が現実に展開されており、間違いなくそれが頭を混乱させている要因だったのだ。そして、この世界の時代を何十世代も先取りしていそうなこの研究所には、無数の謎が隠されているに違いなかった。
「……これさ、機械って言うんだけど、知ってる?」
「いや……初めて見たな。ハルの元の世界にはあるのか?」
「うん、何というか、機械の出っ張りを押すと、何かが動いたり止まったり――って、触っちゃダメだよ」
興味本位で触れようとしたソウを静止した。ベルも興味津々だったので、下手に辺りをいじらないよう胸に抱えることにした。二人の反応を見るに、機械はこの世界では異質なものだ。クルエスが持ち込んだのか、それとも別の第三者かはわからないけど、相当の知識や技術を有しているものと思われる。
「……それにしても、ここのカプセルは使われてなさそうだし、そもそも洞窟のサイズ的にグレンさんはここにいない。警備すらいないのが不気味だけど、奥へ進もう」
洞窟から始まった研究所は、すぐに下りのスロープへ差し掛かり、どんどんと下降していった。てっきり丘の内側の空間だけを切り取って整備しただけなのだと思っていたけど、この様子を見るに、村の真下――地面の下を手広く改造して建設された施設なのだと思われる。
さらに地下へ進むと、カプセルは見当たらなくなったものの、金属光沢の床や壁、何かしらの配管や空調、ガラス張りをされた独房のような部屋や、さらには壁に埋め込まれた巨大な水槽など、どこか見慣れた人工物が増えていき、ほぼ全面が目を背けたくなるほどの鈍色に包まれていた。地下にはまるで洞窟らしさは微塵も見られず、広い通路が伸びているだけの人工的な造形が、あまりに不気味だった。
それらに見慣れていないソウはもちろんのこと、ベルですら呆気にとられていて、声も出ない様子だった。そして、辺りを警戒しつつ通路を進んでいると、意を決したようにソウが言葉を発した。
「……この施設ではさ、俺の母さんが言うには、『抽出されたスキルの魔導石』をつくってるんだよな?ハイエルでは人の手で一つ一つ魔導石に魔力を注入して、『スキル10魔導石』をつくっていたはずだけど、原理が違うのか?なんでこんな施設が必要なんだ?」
それは僕も同じ気持ちで、てっきりハイエルのような簡素な村にグレンが囚われているものと思っていた。僕たちがハイエル村を訪れたのは黒いドラゴンであるザブラスに焼かれた後だったけど、この研究所のような人工物や、それに関連するものは一度たりとも目にしていなかったのだ。
「じゃあどうやってスキルを抽出して、魔導石に封じ込めているんだ?」
そもそもスキルの抽出とは、魔導石に魔力を注入する一般の製法とは異なるのか?"魔導石にスキルを注入する"というつくり方のイメージがズレているのか?
そして、この厳重な研究所……培養液の入ったカプセル……巨大な水槽……
「こりゃ何だ?」
思案する僕に、壁になぞって歩いていたソウが声を上げた。そこには、洞窟の入口から久しくカプセルが一台設置されていたのだ。中には培養液が満ちていてその液中にはーー男性が入っていた。マスクのようなもので口を覆われており、目をつむり水中に浮かんでいるのだ。それと併せて、気泡や様々な色の結晶が水中で吹き上げられ、舞っていた。装置は稼働していたのだ。さらに、光が点っている操作盤を見ると、"抽象完了"と表示されている。
「……まさか、スキルを、抽出され終わっている?」
僕は恐る恐る、操作盤で唯一点灯しているボタンを押してみた。すると、水流が止まり、気泡は消え、浮いていた結晶が水中に沈んだ――と思ったら、結晶だけが水中のポンプに吸われて、操作盤の下に置かれた容器へカラカラと音をさせながら落ちてきた。
「もしかして、この結晶がこの人のスキルの魔導石……?これが、スキルを抽出するということ?この人を――助けないと!」
僕は闇雲にカプセルを叩いた。どうにかガラスが割れないかと、無我夢中だった。
「おい、ハル、落ち着けって。俺には何がどうなってんのかイマイチわからねぇ!」
ソウも混乱している様子で僕に声をかけているようだったが、僕はそれどころではないと感じていた。しかし、ガラスを叩いたところで割れるはずもなく、次は手当たり次第操作盤のボタンを押していった。
「ソウも手伝って!だって、早くしないと、もしかしたらこの人は――」
「死んでるよ」
冷たく、生気の感じない声が研究所に響いた。
「やはり来たな。お前たち」




