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第五章②

「もう……死んだかと思った。腕も痛えし、俺たちを殺してぇのか」


 ソウが青い顔をしてぶつぶつと喋っている。が、僕も同感だった。腕力の限界で何度死を感じたことか。


「でもたどり着いたじゃ〜ん。スゴイ、スゴイ!」


 ベルは僕たちを褒めようとしているのか、機敏に宙を舞っている。確かに目的地であるミストラに、極めて短時間でたどり着けたのは収穫だった。太陽が沈みかけているものの、日没までにたどり着けるとは思ってもいなかったのだ。


「それにしても、ベル、お前魔法使わなくても飛べたのか」


 ソウが疑問を投げかけた。確かに、グレンは魔法で雨風吹かせた状態でなければ飛べないと言っていたはずだった。一方でこのベルは、身軽にも僕たち二人分の重量を抱えたまま空も飛んでみせたのだ。


「それは体の大きいおじい様方だけなの!私は軽いから翼だけで飛べるんだよ!」

「ベルの力はとても頼りになるよ」


 僕がそう言うと、「凄いでしょ!」と言いながら、またくるくると宙を回転した。確かに小柄とはいえ侮れない力があるし、変に目立たない。それに、狭い所にも付いてきてくれそうなので、心強さもあった。

 僕は地面に降りるベルを見、村がある方角を見据えた。降り立った所は、上空から村が見えるギリギリの距離の、森の中。村まで多少は歩くものの、ギルドチームやクルエス直属の護衛が村内を防衛している可能性を考えて、安全策を取ったのだ。


「人間は殺したくないけど、悪いやつなら私やるよ〜。氷漬けにしたり切り刻んだり」

「お前可愛げな格好で言う事怖えよ。何だかんだクルエスは油断できねぇんだ。俺たちがグレンを助けにミストラに来るってことはバレてるはずだから、この先の守りは相当なはずだ」

「だから、いざとなったらベルにも助けを借りるはずだよ」

「必要ならちゃんと言ってね。私、加減知らないから〜」

「だから怖えって……」


 雑談と共に、僕たちはミストラへ歩みを進めていった。ベルがいてくれたおかげで、僕とソウの足取りも軽快だった。強力な助っ人のおかげで何とかなるのではないかと、楽観的な面持ちになっていた。


「やっとミストラだ」

「思ったより開けた村だね」


 茂みの隙間から眺めたソウが、緊張感漂う口調で呟いた。僕もそれに倣って覗き見ると、確かに村なのだろう民家が並んでいて、何人もの人々がその間を歩いていた。その先には大洋も見えて、小高い丘にある立地なのだと察した。


「歩いてる人は……やけに村人っぽくないよな。まさか全員侵入者の監視を……?」

「みんな、恰幅いいし、成人みたいだね。仕事をしているわけでもないみたいだし、あっちこっち歩き回っているだけだーー村全体がクルエスの手の内なのかも」

「村の全容が見えたわけじゃねぇけど、全員俺たちの敵なのかもしれねぇな。殺しは……避けてぇけどどうするかな。隠れて探るには無理がある」


 みなが敵といっても、善意でやっている冒険者が大半を占めているのかもしれない。グレンの居場所も隠されているはずで、状況も分からないのに、強引に探りに行くわけにもいかなかった。


様子を探りつつ、仕方ない場合には武力行使で正面突破するしかないか――


「ソウ、もう少し周囲の様子を――」

「じゃあ、私がみんな倒してくるね〜」


 唐突に口を開いたベルが、思いがけず茂みを突き抜けていった。


「あっ、ちょ……っと……」

「指示する余裕もない、のか……」


 ソウが手を伸ばしたが既に遅かった。

 村の方からは「ドラゴンが出たぞ!」という叫び声に始まり、何の魔法なのか水やら風やらが吹き荒れ、断末魔があちこちから聞こえたと思ったら、ベルが戻ってきた。ソウは――頭を抱えてうずくまっていた。


「大丈夫。多分誰も死んでないよ!さあ、グレンのおじさんを見つけに行こうよ!」


 僕は、心強い味方がいて良かったと思うと同時に、この先を思い大きくため息をついた。


ーーーーーーーーー


「さて、入口はやっぱりここだよね?」


 僕が指さしたのは、村を見つけた森の反対側。小高い丘の麓は切り立っていた崖になっていて、そこに金属製の大きな扉が取り付けられていたのだった。扉は海に面しているので、すぐ近くからは漣が聞こえてくる。


「一通り見て回ったけど他に入口らしいもんはねぇからな。ここだけ守りも多かったし。それにしても……住民が誰もいねぇ。住民総動員だったハイエルとはまた違う印象だ」

「住民じゃ手に負えない難しい研究をしていたのか、それとも情報が漏れないように徹底していたのかも。僕たちを警戒していたわけじゃなさそうだったけど、不気味だね」


 ソウと手分けをして村を探索したところ、やはり、ベルが倒した相手には村人らしき人は含まれていなかったのだ。みな十分な装備で、来訪者を手荒に歓迎する準備を整えていた。


「例に漏れず違和感のある村だけど……いずれにしてもこの先に進めばわかる」

「門を守っているリーダーが鍵を持ってるのも間抜けというか、チグハグというか……隠しとけばいいのによ」


 今のところあっけなさ過ぎて不安になる一方で、もしかしたら、すんなりグレンを見つけて脱出出来るかもしれないと、楽観的な淡い期待をも抱いていた。

 そして、この先に何が待っているのかと、猛る気持ちを抑えながら、観音開きの扉を開いた。

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