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第五章①

「で、お前は何ができるんだ?そのナリで」


 ドラゴンの里"ドネゴール"の入口にて、ソウは青くて小さなドラゴン――ベルに話しかけた。ベルは岩の上に降り立ち、腕を組むと誇らしげに語り始めた。


「小さいからって侮らないで!魔法は普通の大きさのドラゴンと同じように使えるよ!体は小さいだけ!力もあるから、君たち二人くらいなら掴んで飛べるよ~。あれ、時間がないんだよね?早く行こうよ!」

「ちょ、ちょっと待って。出発前に少し整理させてほしいな」


 ベルは相当せっかちなようだった。今にも飛び立とうとしているが、なんとか引き止めてソウに向き直る。


「さっきもらった『言語変換の魔導石』と『治療の魔導石』はソウに持ってもらって、手元にあるポーションは僕がもらうね」

「了解。それにしても太っ腹だよな!国宝級の魔導石にドラゴンのお供ーーさすがというか、なんというか」


 ソウは二つの魔導石をかざしてニヤニヤしている。前から思っていたが、ソウの"国宝級"オタクは生粋の性だった。今のソウは、これまで見てきた中で一番のテンションかもしれない。


「でも、それと引き換えに背負った物も多いんだから」

「わかってる。俺たちがやることは『グレンを助ける』ことから変わってねぇ。それじゃあ、行くか!」

「『クルエスを倒してザブラスを連れ帰る』んだから、忘れないでね。あと、さ……ごめん。今更なんだけど、出発前に一つだけ……いいかな」


 僕は、ベルを呼ぼうとしたソウを引き止めた。前々から伝えておきたかったことがあるのだ。この戦いに出向いたらーー生きて戻れないかもしれない。そう考えてしまうと、今のうちに話しておきたかったことがあったのだ。


「できればアリシアにも言っておきたかったんだけどさ。例の『光のドラゴン』にも関わることでもあって」

「ああ、そのドラゴンのことね……母さんが力を借りようとしたって言ってた。でもよ、このドラゴンの里には存在しなかった。実際にこの世界にいるのかも分からねぇし、いたとしても世界中探してる時間はねぇ。俺たちはもう、そいつに頼らずクルエスに臨むしかない……ってことは俺たちには既知の事実。それを言いたいんじゃないよな?」

「それは、理解しているつもり。僕が言いたいことは、そのことじゃないくてーー実は、僕もこの世界に"召喚"されたんだ」

「は?」


 ソウは眉間に皺を寄せた。それに、理解も追いついていない様子だった。


「ソウに会った時、僕は『外大陸からこの国に来た』って言ったことを覚えている?」

「ちょっと待て待て。混乱してる……確かに言ったな、会った翌日だが。ハルが言語変換の魔導石も持ってて、あの時は本当に驚いたぜ」

「実際は、異世界から来たから言葉が分からなくて、とある人から言語変換の魔導石をもらったんだよ。その証拠は何も無いけど……いよいよクルエスとの戦いだと思ったら話しておきたくてさ。信じる?」

「……いや、まあ信じるけど。って、おい。俺が混乱してるの、わかるよな?」

「ありがとう。信じてくれるって。混乱するだろうって言うのもその通りだと思う」

「でもよ、そんな重要なこと、俺の母さんに言えばもっと詳しいことがわかったんじゃねぇのか?なんで聞かなかったんだよ?」

「それは……」


 そう、それは、聞いて、もし違ったら、ゾラに召喚されたのではないのなら、"誰に召喚されたんだ"と言う疑問が残るからだった。そして、その疑問を抱えたままクルエスと戦う勇気は、僕には無かったのだ。


「それはもう、いいんだ――でも、このドラゴンの里に来て、結局光のドラゴンがいなくて、ゾラが僕を召喚したかどうかは分からない。でも、分からないままの方が、真実を探しに生きて戻りたいって思えてさ。クルエスとの戦いが終わったら聞きに行くよ」

「それがハルの気持ちってんなら何でもいいぜ。で、アリシアはこのこと知ってたのか?」

「いやーー言えなかったよ」

「この先、アリシアに会えるとは限らないぜ。短い間でも、仲間だった……いや、今でも仲間に違いねぇ。会えるか分からねぇけど、もし面と向かえたら、しっかり自分の口で話してやれよ」

「分かってる。分かってるよ」


 わだかまりが一つ、解消された。でも、実は、心の内に留めている心残りがもう一つあったのだ。

 僕が召喚された身なら、もし、クルエスを倒すことが『世界を救った』ことだとするならば、その後の僕はどうなるのだろうかということだ。そのまま元の世界に帰れるのだろうか。帰るのには、別の条件がいるのだろうか。


――それとも、帰ることはできないのだろうか。


 僕は思いを振り払うように首を振った。戦いの前なのに、勝つこと、負けることを考えすぎている。まずは、グレンを助けなければその議論にも行き着かないのだ。


「……ごめん。気持ち、スッキリしたよ。それじゃあ、行こう」

「オッケー。じゃあベル、よろしく頼むぜ!」

「任せときなさーい!じゃあ両手に掴まってー、しゅっぱーつ!」


 僕とソウは、ベルの細い手先に捕まったと同時に体が浮き上がったーーと、思った瞬間、ベルが飛行する超高速の推進力に引っ張られた。片手で宙に浮く浮遊感。急速に緩んでいく握力。手を離したら最悪死ぬであろう恐怖感。それらを同時に感じながら、グレンが運ばれたと思われる"ミストラ村"へと移動していくのだった。

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