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第四章⑪

ゾラが僕を異世界へ呼び込んだのか?


 突然の話に僕は混乱した。ゾラの話を聞く限り、『この世界を救って』と僕をこの世界に誘った言葉は、彼女の行為に結びつくのだ。僕の内心の驚きと裏腹に、ゾラは冷静に説明を続けた。


「ですが、私は『クルエスとそれに仕える闇のドラゴンに対抗できる光のドラゴンよ、力を貸してほしい』と願い、魔法を唱えたのです。しかし、光のドラゴンと思われる存在は未だ目にしていない――魔法は失敗だったのか、もしくは、成功したものの姿を現していないのか、どちらかなのです。私の見解としては、強さの象徴とも言われる『光のドラゴン』の力を借りなければ、到底クルエスには抵抗できない」


 ゾラは、ドラゴンに力を貸してもらうべく、その姿を顕現させようと魔法を唱えたとのことだった。と、言うことは、僕が召喚されたわけではないのだ。本当に僕と何も関係がないのか……とも勘ぐったけど、ゾラの話に過剰に期待して、裏切られるのも避けたかった。

 でも、どうしても、話の真偽だけでも確かめたかったのだ。


「召喚したのは本当にドラゴンだったのですか!?あと、今はどこにいるんですか!?」

「おい、どうしたんだ。気になるのはわかるけど、突然食い付いて」


 ソウは食い気味の反応が気になったようで、変に怪しまれないよう僕は体を引いた。


「単なる期待でしかないけど、ドラゴンのはずよ。でも、呼び出された場所は分からない――けど、一つ思い当たる節があるとすれば、"ドラゴンの里"ね。ドラゴン族が光のドラゴンを先に見つけて、匿っているかもしれない。その"里"の場所こそ分からないのだけど……」


ゾラが僕をこの世界へ呼び込んだのではないと、割り切っていいのかーー


 確証はないけど、ドラゴンの里に行けば何かが分かるはずだと思った。そして、過去にグレンは"ドラゴンの里"の行き方を教えてくれていたのだ。


「――と、そろそろ戻らなくちゃいけない。宿舎から離れていることに気づかれてしまう。でも、クルエスはそんな小さなことは既に気にしていないはずよ。力を得て、そして時を待たずにこの国の支配者となる未来が見えているのでしょう。付け入る隙があるとすれば、そんな彼の"慢心"よ」


 ゾラは踵を返すと、玄関の扉を開いて振り返った。


「ソウ、皆さん。今日は会えて良かったわ。皆の覚悟と想いを感じることができました……ソウ、あわよくばまた一目見られたら……いえ、皆様、それでは、さようなら」


 ゾラは伏し目がちに言い残すと、隠れ家を後にした。あっという間の出来事に、ソウは寂しさすらあまり感じていない様子だった。


「……さて、グレンを救うためには"ドラゴンの里"とやらに行ったほうがよさそうだな。本当に"光のドラゴン"だかがいるかは知らねぇが、敵には黒いドラゴンもいるんだ。強力な助っ人は頼りになる」

「前のグレンさんの話では『竜の刻が人間の刻と交わる地』からひたすら西に行けば里に辿り着くって言われたと思う。何かの言い伝えなのかな……?」

「その話かーーうーん、前も聞いたけどさ、何を言っているのか、俺も分からねぇんだよな」

「ーーん、それって噴水広場に刻まれてる碑文に……"竜の刻が人間の刻と交わる地"って書いてあったと思うぞ……いや、間違いない」


 この世界に疎い僕はもちろんのこと、ソウにもピンとくる物がなく、話が暗礁に乗り上げそうなところでザックがアシストしてくれた。


「この街が起点なのか?ってーーことは、この王都からまっすぐ西へ行けばドラゴンの里に行き着くってことか。さすが、ここに住んで長いだけあるな!ちなみに、その碑文ってどういう意味なんだ?」


 ソウがザックに問いかけると、彼は頭を捻った。一方で、しばらく口をつぐんでいたアリシアが口を開いた。


「ーー私もザックさんの話を聞いて思い出しました。かつて、この王都で人間がドラゴンと"不可侵条約"を結んだのです。碑文にはそれが書き記されているのです。この王都は平和の象徴。その約束の地だと」


平和の象徴――人がドラゴンを一方的に捕えるようなこの王都は、もはや平和が揺らいでいるのではないだろうかーー


 僕は王都の現状を顧み、暗い気持ちになってしまったところで、アリシアが話を続けた。

 覚悟を決めたのだと、そんな表情だった。


「私は……そんな平和を脅かす人へ加担してしまいました。私には、共に歩みを進める資格はありません。二人とは一緒に行けない。ここで……お別れです」


ーーーーーーーーー


 荷物を整理したら、僕とソウは深夜のうちに隠れ家を発った。グレンが運ばれた"ミストラ"という村へ一刻も早く辿り着くためにも、まずはドラゴンの里へ向かう必要があるのだ。また、観閲式へ行くために魔力水も飲んでしまっているので、ギルド側が僕たちの魔力を感知して居場所を探っているかもしれず、長居は禁物なのだ。


「アリシアとは……本当に別れるしかなかったのかな」

「さあな。でもアリシアなりのケジメだったんだ。その決断にとやかく言うことは出来ねぇ。戦力は減っちまったけど、俺たちは出来ることをやっていくしかねぇんだ」


 アリシアにはこの旅を通じて、色々なことを教えてもらった。彼女がいなければ先へ進むこともできなかった。もっと、三人の旅が続くものだと思っていたーーでも、クルエスに絆を断ち切られてしまった。

 アリシアは何も悪くない。だからこそ、僕はクルエスが悪しき根源なのだと証明したいと思っている。彼女の尊厳のためにも、僕は先へ進む足を止めることはできないのだ。


「じゃあまずは、王都を出るぞ。当然ながら、南の大門は警備が厳しくなってる。行きと同じ方法で出ることは出来ないだろうな。そこで今回は水路を使う。水源の流入口には鉄格子が組まれているんだが、放出口側にはそれが無いんだ。単純に水の流れに沿って進むだけさ」


 そう言うソウに付いてくると、噴水広場にたどり着いた。ソウの言う通り、噴水の中には人が通れそうな水路が沈んでいるようだった。


「さあ、出口だ……が、結構息を止めとかなきゃならねぇぜ!ハル、こんな所でくたばんなよ!」

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