第四章⑩
「まず、ソウ。一目だけでもあなたに会いたかった。あなたがいなければ、私はリスクを冒してまでこの場所へ来なかった。そしてーークルエスにはもう何も関わらず、この国から逃げてほしいと伝えに来たの」
ゾラは、僕たちが予期しなかったことを伝えた。クルエスに挑んでいくつもりだったのに、逃げろとーーそう言うには何か理由があるはずだ。
「ち、ちょっと待ってくれ。何を言われようが気持ちは変えねぇって。クルエスから仲間を、ドラゴンを奪い返す。それで奴の野望をへし折ってやる。もう変更はねえ」
僕はソウの言葉を聞いて頷いた。何よりも仲間であるグレンのためーー僕と同じく、それが彼の原動力でもあるはずなのだ。
「……あなた方がどんな気持ちであっても、伝える内容は変わりません。全て聞いた後でどうすべきか判断してください」
ゾラは念押しをした。ただ、僕たちが知らないクルエスの一面がまだあるというのだろうか。少しだけ、いまだ見ぬ一面に恐怖を抱いた。
「まず、クルエスには巨大な戦力があります。ギルドマスターという肩書からもご存知と思いますが、数多のギルドチームーー中でも特級チームは彼の従順な下僕です。一声かければあなたたちたった数人を数百もの数と暴力で押し潰すでしょう。そして更に、『スキル10魔導石』を無数に保有しています。これは依存性や慣れの関係で扱える者は限られますが、戦力を後押しする要因の一つとなっています。そしてさらに危険なのが、私が研究している代物――」
ゾラはその名を口にすることも恐ろしいのか、躊躇いながら続けた。
「『抽出スキル魔導石』です。生物から『スキル』を無理やり抜き取り、魔導石として精製する禁断の手法……彼はそれで強力なスキルを集め――自ら使用しています。さらに、『人間界の秘宝』である『賢者の石』……無限の魔力を秘める魔導石を手中にしているーーどう?ここまで聞いて、まだ気持ちは折れないかしら?」
「ーーもちろん。確かに予想以上かもしれねぇが、少なくとも俺の気持ちは変わらない」
ソウは気合十分に言い切ったが、旅をしてきて分かっている。無理をして発言していると。でも、ゾラに聞いた話を持ってしても、僕の気持ちも変わらなかった。仲間を助けたいのだ。
そして、僕はゾラの話から一つ勘づいたことがあった。もしかしたら、ドラゴンの特級依頼中に消えたギルドチームは、そこで実験に利用されて、スキルを抽出されたのかもしれないのだと。ギルドマスターであれば、行方知れずになった冒険者の理由はなんとでも決められる。そして、それが事実ならばーークルエスは相当な数のスキルを保有している可能性がある。
「ソウ、あなたは強いのね……では、想像も含むけど、最後にクルエスのことをーー彼の野望を話します。それは、手中に入れた赤いドラゴンからスキルを抽出して、その最強とも言われるスキルを自身に使い、強大な力を得ようとしていることーー」
ゾラはクルエスの目的を話した。それが、彼がグレンを求めていた理由ーーただ驚いたけど、僕の中の、何より仲間を助けたいという想いはもはやブレることはなかった。
「その赤いドラゴンは――僕たちの仲間です。正直、抵抗できるか分からないけど、仲間のために、僕たちは戦います。仲間を私利私欲なんかに利用させない」
「俺も同じだ。それに、これまで助けてくれた人たちに顔向けできねぇ。シシリーも、『全て終わったら』帰ってきてくれと言ってたもんでな。中途半端には戻れねぇんだ」
「シシリーちゃん、無事だったのね……良かった。でも、覚悟はわかったわ。じゃあ尚更、少しでも為になる情報を教えないとね」
ゾラは顎に手を当てると、すぐに振り直ってこう言った。
「……存在するのかもわからないけど、助けになる者がいるかもしれないーーそのために行った私の行いは、非人道的な行為でした。いずれ罪は償うつもりですーーしばらく前に、隙を見て抽出スキル魔導石の『時魔法』とスキル10魔導石を組み合わせて、禁忌とも言われている『時空間魔法』を唱えました。どこかに存在する異世界から、この世界を救ってくれる者を召喚したのです」




