第四章⑥
「準備は大丈夫?魔力水を飲んだら出発だよ」
僕がそう言うと、三人は一息で瓶の中に入った水を飲み欲した。そしてお互いに顔を見合わせると、引き締まった表情で頷いた。
「本当に行くことになるとはな。俺も現場に行くが、何かあったら頼ってくれ。何、ただの高見の見物さ。駄賃はいらねえ」
「ありがとな、ザック。じゃあ、行くぜ」
ソウの掛け声とともに隠れ家の扉を開き、改めて王都へと降り立った。太陽が頂点から僕らの頭を照らしている。快晴だ。雲一つない。
入り組んだ街を進み、そのまま僕たちは大通りへと進んでいった。歩くにつれて少しずつ人通りは増えていき、会場へ差し掛かったころには、皆前を前をと目指す人たちで、おしくらまんじゅうをしているほどに観客であふれていた。
「こんな人がたくさんいるのに、成功するかな?」
「大丈夫。誰一人として襲撃されるなんて思っていない。喧騒がでかけりゃでかいほどいい」
諭してくれるソウの言葉さえかき消されようとしている状況だったが、何とか目的地にたどり着いた。でも、相変わらずの人ごみで、むしろもっと近くで見ようとする見物客に押されて、揉まれて、どうにもならない状態だった。
「今にもパレードが始まるな。んでもって、昨日伝えた通り夕方になると目の前の大聖堂へクルエスがひとり残ることになる。決行まで時間はあるが、周囲の様子をよく観察しておいてくれ。俺は大聖堂への侵入口を探ってくる」
ソウはそんな言葉を残すと、人ごみに消えていった。その矢先、出先の快晴はどこへやら、天に雲が陰ってきた。嫌な雰囲気のまま、僕とアリシアだけが揉みくちゃな人ごみの中に取り残されてしまった。
アリシアとはなぜか気まずい雰囲気になってしまい、特に何を話すでもなく時間が過ぎていく。しばらくすると、人混みの向こうから一際大きな歓声が上がった。ソウの言った通り、パレードが始まったようだった。先頭を歩くのは、当然ながら、クルエス。軍服のようなかっしりした服を着、見物客へ礼を繰り返している。その次は、甲冑を来た女性。それ以降は、特級ギルドチームなのだろう。明らかにその風貌――筋骨隆々な人はもちろんのこと、目つきや立ち振る舞いなどから百戦錬磨にも見えるチームが何組も歩いて行った。そして、列の最後には、かの黒鉄のチームが歩いていた。最後尾を任されるとは、ギルドチームの中でも力があるということなのだろうか。もしかしたら、貢献度が高いのかもしれないし、逆に、単純に最も劣っているから最後尾ということも考えられる。いずれにしても、彼らはやたら目立っているように思えた。
「そろそろパレードも終わりに差し掛かっているのかもしれない。心の準備は大丈夫?」
僕は、隣にいるアリシアに問いかけてみたけど、彼女はまるで放心状態にあるみたいで、上の空だった。
「大丈夫?アリシア。怖かったりするかい?」
「あ……いえ、大丈夫です」
いつも気丈で冷静なアリシアだけど、昨日から様子がおかしい。戦闘を恐れているようには見えないけど、特に今日は顔が青白くて、心なしか手も震えているように思えた。
「もし体調が悪いなら言ってくれて大丈夫だから。もしそうだったら僕はソウと二人で――」
突如、周囲の大衆から歓声が上がった。何か目を引く出し物でも始まったのかと思ったら、それは一瞬で悲鳴へと変わっていった。
「なんだ……?まだ僕たちは手を出していないのに……」
パレードの方向へ目を向けようとすると、後ろから肩を掴まれた。僕の視線は一瞬で背後に引き戻された。
「おい、黒いドラゴンが現れた。広場が混乱してる」
ソウが、大きく息を吐きながら口にした。雨がぽつりぽつりと振ってきていたことに気が付いた。
「今が好機だ。大聖堂に急ぐぞ」
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黒いドラゴンは、端からクルエスと無関係だったのだろうか。でなければ、クルエスがイベントに乗じて黒いドラゴンに王都を襲わせるなんて、理由も皆目見当がつかないことをやらせるとは思えなかったのだ。『クルエスと黒いドラゴンは無関係』と思い替えた上、ソウは大聖堂へ突入しようと考えているのかもしれない。
いつの間にか、雨は豪雨へと変わっていた。黒いドラゴンは勢い付いたかのように、街中へ火を吐き、それに対していくつもの特級ギルドチームが応戦していた。まさに、大混乱な状況だった。
「クルエスは一人で大聖堂へ逃げ込んだ。今なら邪魔されずに話ができるかもしれねぇ」
僕たちとしては、またとない機会。それに、大聖堂には、誰一人として立ち寄ろうとする人はいなかった。そもそも周辺の人だかりは既に散会していて、人もまばらになっていた。当然ながら、その中に入る人が監視される様子も見えなかった。
僕たちは、慎重に大聖堂へ歩みを向けた。そして、ソウは慎重に扉を開け、三人でゆっくりと侵入した。そして、クルエスに対峙したーーはずだった。そこには、三人組がいたのだ。
それは、いつかの因縁の相手だったーー
「この前は仕留められなかったからな。ギルドに仇をなすものを、ぶちのめす!」
血走った目つきのアラン達、特級ギルドチーム黒鉄だった。彼らと再び対峙したのだ。




