第四章④
街の大きな入口、メインゲートの外側に、集荷場はあった。馬車に運ばれてきた荷物はそこで一度荷下ろしをされて、中身や届け先を確認した後に王都の中へ運ばれていくらしい。僕たちの侵入方法としては、商人として集荷の依頼をして、受付が荷の確認をしている隙に荷物に紛れ、荷物としてこっそり忍び込むという荒業だった。そしてソウ曰く、『俺しかできねぇ裏技』とのことだった。
「そんじゃ、荷物を頼むよ。どでかい水瓶三つさ」
あらかじめ水瓶に隠れていた僕とアリシアは、その声を聞きながらソウの演技する行く末を聞いていた。
「水瓶……?あんた商人かい?たったこれだけの品をお届けか?」
早速怪しまれてしまった。確かに、周囲には大所帯を連れた団体しかいなかったから、個人客だと目に付いてしまうと思っていた。
「あれよ、これは魔力水。貴重だからさ、個人契約でこっそり卸しているのよ」
ソウは事前に考えていたのだろうか。話は流暢で、咄嗟に出てきた台詞とは思えなかった。
「まあいい。じゃあ一つずつ運ぶぞ……ん、これ、本当に水が入ってるか?水が波打つ感覚がないが……いや、確かに水の感覚か」
受け付けの男は、一度は持ち上げたアリシアの入る水瓶を下ろすと、おもむろにその中へ手を入れたらしかった。が、恐らくアリシアは即席で水魔法を生成。男は水に手を触れたらしく、事なきを得たようだった。
「おい!勝手に品物へ触れないでくれ!」
「すまんすまん。これから運んでくぜ」
受け付けの男は平謝りのままアリシアの入る瓶を運び、続いて僕が入る瓶へ手を付けた。
「おっと、俺はこのあとすぐ用事があるから、あとの一つもよろしくな!大将!」
「おおよ、やっとくぜ」
二人のやりとりが終わると、何事もなく馬車に乗せられた。間髪入れずに、ソウの入っていると思われる水瓶も隣に置かれると、僕たちは水瓶の荷物として荷車でゴトゴトと運ばれてゆく。商人たちの喧騒から離れていくと、ホッと息をついた。ソウは上手くやってくれたようだ。受け付けの男もまさか、目を離した一瞬でソウが水瓶と入れ替わったとは思わなかっただろう。
魔法って便利だな――
何度目かは分からないが、僕はつくづくそう思ってしまうのであった。
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馬車に乗って時間を置かずに、連日の疲れからウトウトしてしまっていた。乗り心地は最悪だが、眠気が勝ってしまったのだ。しかし、運転手と誰かが会話している音を聞いて、睡魔が遠ざかった。いつの間にか馬車は停止していたようで、そろそろ荷降ろしかと思っていたら、自分の入る瓶が宙に浮き、地面に置かれてしまった。
乗ってきた馬車の走る音が遠ざかっていく。街の郊外なのかもしれない。静まり返って喧騒は聞こえてこない。ソウとアリシアは何も音を発さず、心配になってきたときだった。不意に瓶が傾けられると、転がされ、そして持ち上げられ、家屋の中に運ばれた。僕たちの入る水便が三本並んで置かれると、そこでようやくソウが魔法を解除した。
「ーーいやあ、なけなしの魔力だったもんで、魔法が解けそうだったぜ。ハル、アリシア、出ていいぞ」
ソウの掛け声の下、僕たちはみな瓶から這い出た。
「生きた心地がしませんでした。私でなければ気づかれていましたよ?」
アリシアが憤慨している。恐らく、受け付けの男が手を入れてきた時のことを言っているのであろう。確かに、彼女が水を偽装しなければ、侵入がバレてしまっていたかもしれない。
「まあ、街に入れたんだから結果オーライだって」
「ーーおいおい、お前一人かと思ったら三人?何だって言うんだ?」
「へそを曲げないでくれよ。ザック」
ソウは、机の前に立つ長髪の男をザックと呼んだ。彼がソウの言う協力者らしいが、髪の間からは鋭い眼光が覗いており、それをひと目見て、修羅場をいくつもくぐり抜けてきた実力者なのだと理解した。
「金になるもの自体はあるからさ」
これまでに交わした取引や商談は一度や二度ではないのだろう。ソウは慣れた手つきで魔導石の入った袋をザックに投げ渡した。
「それは『特別器の大きいカラの魔導石』だ。特別に俺の魔力も充填してるから、割増で売れるはずだぜ。三人で来たことはそれでチャラにしてくれ」
それを聞いたザックは頭を掻いて、『お前のことだ。しゃあねぇ』と呟いた。
「で、今回の目的は何だ?いつもは金のやり取りで終わるが、リスクを背負ってお仲間も連れて来てるってことは、大層なことを考えてるんじゃねぇか?」
ザックの鋭い視線がソウに向けられた。ソウは真面目な顔で返答する。
「今日の分の寝床と、あとは道具の補給をお願いしたい。明日には出ていく」
「それだけか?余計な詮索はしねぇが、迷惑かける予定があるなら先に言っとけよ。だとしたらケツを蹴飛ばしてやるからよ」
ザックはカカカと笑い、ソウを指差した。
「冗談だ。夜も近い。直ぐに三人分の部屋と飯を用意させよう。欲しい道具があれば今言いな。明日の朝までに準備しといてやる。あとひとつ。この家は安全だ。自由にしていい。だが、外には出ないでくれよ。明日の観閲式に向けて兵士が大勢見回りしてるんだ。ま、こんな厳重な警備の中、誰が何を襲うっつうんだろうな。そんな奴はアホか、マヌケだ」
それを聞いて、僕たちの表情は、多分――引き攣っていただろう。誰も互いの表情を伺おうとしなかった。
そして、王都での一日が始まったのだった。




