第四章③
「もうすぐ日没か」
僕は、二人に聞こえないよう呟いた。当初の予定では、出発から二日後に王都へ到着する予定だった。しかし、今は出発から二日後の夕暮れ時。それなのに、王都への距離はもうしばらくありそうだ。明日に控えた観閲式へ間に合わせるために、休憩もまともにとらずひた進んでいたものの、それでもペースとしては遅れてしまっている。
遅れてしまった原因としては、街道はギルド関係者が通る可能性もあるので、そこから少し逸れて頻繁に森の中を歩いていたことと、時折姿を見せる魔物を魔力無しで倒しながら進んでいたことであろう。魔力のない身でも、技能を駆使すれば魔物を倒せるということは嬉しい誤算で、今まで魔法を過信しすぎていたんだと思い知らされた出来事でもあった。しかし、それと反比例して僕たちの体力は減っていき、疲労は既にピークを超えていた。しばらく前から誰も口を開いておらず、疲れのこもった吐息を聞いていたくらいだ。
「まて。また検問だ。最後だといいんだが」
突如、先頭を行くソウが僕とアリシアを制止した。検問……ソウが言うには、王都からハイエルへの街道を建設するに当たり、クルエスが設けたのであろうとのことだった。クルエスの腹心だけが街道を利用して、その他冒険者は利用できないよう、徹底的に管理しているのだ。それに加え、ギルドマスターの権限を活用してハイエル方面の依頼を遮断するなど、ハイエルの現状を外部へ漏らさないよう、徹底した管理を行っていたはずなのだ。
「仕方ない。また森の中を大回りして行くぞ」
ソウの掛け声で森の中へ歩みを進めた。また行軍が遅れ、体力もごっそり削られてしまう。あと少しで目的地へ到着するはすだという、希望的観測だけが今の僕たちを突き動かしていた。
「あれは何でしょう」
アリシアが森の奥を指さした。それを聞いた僕は、目を細めて木々の間の先へ焦点を定める。
何か、淡い光が見える気がする――
僕たちは枝をかき分け、草葉を払い除けて進んでいくと、視界がひらけて大きな空が広がった。眼前には崖があり、その下方には、いくらでも見下ろせと言わんばかりに円型の街がどっしりと構えていたのだ。よく見ると、円型を成していると思っていたのは城壁。カタニアで見た壁よりも遥かに高く、厚みがあるように思える。万が一でも王都が陥落しないよう、どこよりも重々しく、堅牢な造りになっていた。それに囲まれている街から、仄かな光が空へ放たれていたのだ。人間の人生を表すかのような、淡く華やかな光が――
そう、僕たちは『王都フローリア』に到着したのだった。
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「それで、この中にはどうやって入るつもりなんですか?」
アリシアが城壁を見上げて言った。それにつられて僕も見上げてみると、遠くから見るより余計に高く感じた。真下からじゃ頂上の位置なんて分からないし、『登って侵入するぜ!』なんて言われた日には呆れて物も言えなくなってしまうと思う。でも、それほどに城壁には死角がなかった。許可証なしでこの内部に侵入しようなんて、僕なら絶対に思わない。
「協力者の力を借りる。そのためには、まずはこっちが尋ねて来ていることを、内部のそいつへ伝える必要がある。付いてきてくれ」
そう言うソウの後を辿っていくと、城壁に向かって流れている小川に辿り着いた。それは飛び越えられなさそうな川幅で、水流は城壁の下へ流れ込んでいるようだった。推測するに、水路として城内に流れ込んでおり、住民の水源として活用されているのだろう。
「まさか、水路を泳いで中へ?」
僕が見たままの思いを言うと、ソウは満面の笑みを浮かべた。まるで、してやったり、と言いたげな顔だった。
「言ってくれると思ったぜ。でも違う。この水路の中には鋼鉄の鉄格子がいくつも張り巡らされていて、例え魔法を使ったとてバレずに、かつ安全に侵入するのは不可能だ。そこで、これを使う」
ソウはポケットから小さな石を出すと、それを水路へ放り投げた。
「こいつなら流れに沿って街の中まで流れていってくれる。俺の魔力をほんの少しだけ充填した魔導石の欠片さ。あとは、俺たちが所定の方法で荷物に紛れれば、勝手に協力者の下へ運んでくれるってわけさ」
「……あなたを信じていますけど、そもそもその協力者とやらは信用できるのですか?」
アリシアが懸念を示すのはごもっともだ。この国は、僕が思っているよりもギルドの影響力が大きい。それ故、お尋ね者となった今は仲間になり得る間柄は作りづらいし、出来たとしても疑ってかかるしかないのだ。
「俺の仲間は、お前たちとシシリー、グレンだけで、それ以外に信用できる奴はいない。ただし、金の損得勘定で動いてくれるやつならごまんといるのさ。金さえしっかり払えば裏切らないし、余計に払えば付加価値もつけてくれる」
アリシアは渋々しつつも頷くと、それ以上何も言わなかった。
「金はねぇが、シシリーの元を立つとき"故郷の名産"をもらってきた。俺の魔力も注入してある。これは高く売れるぜ。言いたいことは、わかるな?」




