第四章②
「アリシア、体は本当に大丈夫?」
「お陰様で、すっかり回復しました」
アリシアはその場で足踏みをしてみていた。もしかしたら強がっている部分があるかもしれないけど、昨日よりは断然マシな状態になっているようだった。
「シシリー、じゃあ、世話になったな」
「感謝は要らないわ。でも、必ず帰ってきてね。全て終わったら、必ず」
それを聞くソウは、何も言わずに頷いた。それを見たシシリーは、僕とアリシアへ振り向き頭を下げる。
「彼、向こう見ずだからこれからも迷惑をかけると思うけど、どうかよろしくお願いします」
「むしろ助けてもらっています。ソウは、とても強いので、頼りになる」
「俺の頼りが要らなくなるくらい、さっさと強くなってくれよ」
ソウは悪戯な表情で僕に返した。ごもっともだ。僕はソウに頼りっきりだから、もっと強くなる必要があるのだ。
「それじゃあ気をつけて。お母さんにあったらヨロシクね」
歩き出したアリシアとソウにシシリーが手を振る。遅れを取った僕も、それを追って小走りで駆ける。少し進み三人で振り返ると、シシリーは未だ大きく、大きく手を振っている。これは今生の別れではないはずだ。でも、独り郷里に残るシシリーのことを想うと、ソウには必ず帰ってもらわなければならないーー
またひとつ、胸に決意を抱えると、僕たちは、整備されて、まっすぐに延びる道を歩んでいった。
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「ソウのお母さん、どんな人なんでしょうかね。研究者ですし、ソウのような失礼な性格ではないと思いますが」
シシリーが見えなくなり、改めて向き直ると、アリシアが興味深そうにソウへ訪ねた。
「そんな性格って、俺に失礼なこと言ってるの分かる?ま、母さんはそうだな、普通の人だよ」
「ソウの言う普通は分からないけど、そんな人が『賢者の石』なんてものを使って研究なんかしてるの?」
「……元々、頭もいいし魔法のセンスも周りの大人より抜群に上だった。俺の先生でもあったしな。でもよ、クルエスなんかに高待遇な抜擢されといて、納得はできねぇよ。故郷が滅ぼされるってのに、自分だけ助かって……!」
ソウが怒りの表情に変わった。その気持ちはーー正直立場が違いすぎるけど、痛いほど理解できた。
「気持ちは……すごく分かるよ。でもさ、シシリーは救ってくれたよ。クルエス側で研究に携わっているのも、何か理由があるはずだ」
「それも、そうか……あー、ありがとうな。そんな普通じゃないような母親でも信じてくれて」
「ソウがいるから信じることが出来てる」
ソウは笑みを浮かべると、僕とアリシアに向き直った。
「ま、今どこにいるかは分からねぇけどな。見つけたら紹介してやるよ――時にお前らって、『賢者の石』がどんなものか知ってるか?」
突然、ソウが目を輝かせて饒舌になった。『賢者の石』とは、昨晩、シシリーが口にした単語のことだ。ソウのお母さんは、それを利用して何かの研究をしているとーー名前からして大層なものなんだと分かったものの、シシリーもその詳細は知らないようで、話は聞けず仕舞いだった。
「俺もそこまで知っているわけじゃないんだけどさ、別の名を『人間界の秘宝』と言って、無限の魔力を保有しているって代物らしいぜ」
と言ったところでソウはポリポリと頬をかいた。
「……それこそ母さんの受け売りだし、それ以上は知らないんだけどな。で、フローリアのどこかに封印されていたって話なんだけど、恐らくそれをクルエスが見つけて、今は利用されてる」
話を聞けば聞くほど、クルエスは何者なのだろうかという疑念が増していく。彼の目的は、野望は一体何なのだろうかと考えてしまうばかりだった。得体の知れない相手にどう向き合っていくのか、不安を抱くばかりだった。
「今の俺たちには、居場所がバレていないっていうアドバンテージがある。相手は魔導紙を信頼しているはずだから、俺たちが王都に来るなんて思ってもいないはずだ」
僕の不安をかき消そうとしてくれているのか、ソウが落ち着いた声で話した。
「でも、それだけじゃ不安だろ?」
僕もアリシアも頷いた。やはりアリシアも僕と同じように不安を感じていたらしい。
「王都に協力者がいるんだ。そいつを頼る」




