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第四章①

 僕は、暗がりの中から窓の外を眺めていた。深夜に関わらず、月明かりで充分な明るさだった。森の中の木々はもちろんながら、時折巨大なコウモリやら、ウルフやらの姿が見える。その光景を目に、ふと、驚きもしない自分自身に驚いてしまった。そこまでの長い期間をこの世界で過ごした訳では無いけど、いつの間にか環境に慣れてきていたらしい。しかし、未だ慣れないこともある。僕の持つ力の大きさと、それを使役する内面の弱さが酷くアンバランスで、いつもチグハグーーそのうち過ちを犯してしまうのではないかと、毎晩恐れているのだ。

 力を使わないわけにはいかない。ただ、この過大な力で仲間を傷つけてしまわないように、強くならなければいけない。ここはゲームよりも、ずっとずっと過酷な世界で、何もかもが現実なのだ。

 心の中の葛藤は、その晩消えることは無かった。多分、明日も、明後日も悩み続けるんだろう。


ーーーーーーーーー


 夜が明けた。

 この世界の朝日を浴びることにもすっかり慣れてしまっていて、元の世界より少しだけ強い日差しは、寝起きの目覚めにはピッタリだと感じるようになっていた。


「さて、出発の準備だ」


 四人が集まるには手狭なリビングに、全員が集合した。なぜか机の上には無数の武器や防具が置いてある。いずれも鉄製や革製などだ。僕たち三人はそれを何に使うんだと疑問に感じていたが、それを尋ねる前にシシリーが話を始めた。


「それでは早速、昨日話した通り、あなたたちの大まかな所在がギルドへバレていることについて、応急措置ではありますが対策をします」


 そう言うと、シシリーは三枚の紙を取り出して机に置いた。


「やることは簡単。この紙に皆さんの魔力を注いでもらうだけです」

「……それだけ、で大丈夫なんですか?」

「まあそんな反応になるよね」


 シシリーの自身有りげな声を前に、僕たち三人は顔を見合わせてしまった。物知りのソウですら理解できていない様子だった。シシリーはと言うと、困っている僕たちの様子を見て、笑みを浮かべると、えへん、と咳払いした。


「仕組みを伝えますね。今、ギルドに預けているギルド登録証には、皆さんの魔力が刻印されています。そして、ギルド本部には重力魔法の魔力を注いだ特殊な魔導紙があります。その上にギルド登録証を置くと、登録証の持ち主と引き合うよう僅かに動くので、それを観察するだけで皆さんのおおよその方角がわかってしまうのです。但し、今お渡しするこの魔導紙に皆さんの魔力を"全て"注いでもらうと、ギルド登録証と引き合うのはその魔導紙になる。すなわち、魔力を注いだ魔導紙は、魔力が尽きるまで皆さんの代わりに後を追われてくれるのです。鳥にでもくくって遠ざければ、あなた達の居場所は分からない。失った魔力は、目的地に着いてから回復させれば影響も少ない」

「着いてからの影響は少ないかもしれないけどさ、その話だと、道中魔力を使えないってこと?」


 僕の質問を聞いたソウは怪訝な表情になった。当然アリシアも不本意そうな顔をしている。


「もちろん、魔力を使えないというデメリットがあるけど、探知系特技で探知されづらくなるというメリットもあるわ」

「でも、もし戦闘になったら――」


 アリシアが言いかけたところで、シシリーが机をコツコツと叩いた。そして机いっぱいに手を広げた。


「そのための、この武器よ。魔法がなくとも、実態ある武器を使って、あとは特技でなんとかしなさい。低スキルレベル持ちにしては宿命とも言える当たり前の手段なんだから、たまにはそんな気分も味わってよね」


 シシリーはニヤリと笑みを浮かべているが、僕たち三人は誰一人として笑えていなかった。シシリーは緩めていた表情を真面目なそれに戻した。


「今のは冗談よ。でも、いざ魔力不足になった時の戦い方は経験しておいて損はないはずよ。それに、私のような人の気持ちが少しでも分かれば、普段の戦い方にも幅が出るかもしれないし。さあ、いずれにしても迷っている暇はないわ。それぞれ紙を持って、意識を集中させて」


 シシリーが促すと、アリシアとソウは渋々魔導紙を持った。僕もそれに倣って魔導紙を両手に持ち、目を閉じた。紙へ魔力を流し込むイメージで、全身全霊を込めるとーー体中の熱が奪われるような感覚がして、その感覚はすぐに消失した。


「……終わったようね。後は適当な動物に結えて放しておくわ。任せといて」


 魔力が抜けた不思議な感覚に戸惑ってしまいそうだったが、シシリーに魔導紙を渡した。そして僕たちは各々武器を手に取る。

 アリシアは槍。ソウは剣と盾。僕は短剣。


「そういえばさ、ソウはギルドへ加入してないから、魔力を探知されることはなかったんじゃない?やる必要あったんだっけ?」

「さして理由があるわけじゃない。ただ、万に一つの可能性を潰しておきたかっただけさ」


 ソウの表情に曇りはなかった。クルエスへ隙を見せないという、思いの現れなんだろうと理解した。


「さて、目指すは王都フローリアか。それまでの道中、かなりの難所が続くはずだぜ。懐かしいな。ガキの頃は相当キツかったが、今でもそれなりにキツイはずだ。心して掛からねぇと」

「あー、それなんだけど」


 シシリーは、気合十分屈伸を始めたソウへ戯けた表情を向けた。


「クルエスが来てよかったと思ったことは何も無いけど、唯一、閉鎖的だった村に風を吹き込んで、あり得ない変化を起こしたーー実は、王都への街道ができているのよ。道なりに進めば、二日もあれば王都にたどり着くはずよ」

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