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第三章⑧

 放たれたハンマーは、リーラを掠めて崖の奥深くへめり込んだ。地響きをも引き起こすほどの衝撃で、崖上から岩石も落ちてきた。

 リーラは、ただ掠めただけにも関わらず、きりもみしながら大きく吹き飛び地面に落ちた。確認せずとも、立ち上がってくることはないのだと感じた。


『ワシ、どうしてたのだ?』


 突如、グレンが念話で驚いた声を上げた。それまではリーラの魔法が原因で、ずっと時を止められていたのであろう。グレンは何事かとあたりを見回している。


「やるな……ハル。言っただろ。”スキルは想像力”だって」


 ソウが僕の元へやってきた。確かに、事前にアリシアとソウのアドバイスがなければうまく魔法は発現していなかったかもしれない。

 "火魔法"は、炎だけじゃなかった。"溶岩"へと派生させることができたのだ。また、僕の『技能』である投擲は、”投げることがうまくなる"スキルなのだと思っていたけど、実際は”投げるまでの準備から投げるまで”に作用していたのだ。ぶっつけ本番だったものの、あとは当時の経験ーーハンマー投げのイメージを重ねて魔法を具現化しただけだった。

 スキルは想像力。どこまでが適用範囲なのか、イメージを模索し続けることが必要なのだと、身を持って実感した。


「さすがです。ハルさん。過去は吹っ切れましたか?」


 アリシアも肩を押さえながら歩いてきた。肩からはおびただしいほどの出血があり、抉れた傷口が見えた。


「まずは傷口を……やっぱり、過去は変えられなかったよ。でも、今を変えられたのは、未来を見ていたアリシアの言葉のおかげだと思う」


 アリシアにポーションを渡しながら言葉をかけた。恥ずかし気のある内容だけど、僕にとっては紛れもない事実だった。


「感傷に浸るのもいいけどよ、一難去っただけだ。頂上まであと少しあるけど、そこまでいけばどん詰まりだ。逃げ道はないぜ」


 ソウはアリシアの傷口を包帯で縛りながらも、相当に焦っているようだった。確かに、これで大団円という状況ではないことは確かだ。逃げ道を確保できただけで、逃げ出せたわけではない。


『グレンさん、もうすぐ頂上ですけど、本当に空を飛べるんですか?』


 いてもたってもいられなく、困惑中のグレンへ念話した。


『魔力がなくて人間に後れを取ってしまったか……ん、空を飛べそうかどうかは、知らん。山に登れば天候は荒れると思ったのだ。風雨が強まれば、ワシも飛び立てよう』

『まさか、天気が悪くないと飛べないんですか……?』


 僕は、それを聞いて愕然した。てっきり、山頂から滑空でもするのかと思っていたのだけど、そうではないらしい。言葉尻から推理すると、グレンは”雨風の環境下であれば飛べる”ので天候の荒れがちな山頂を目指していたようだ。

 あと、そもそもドラゴンは、"雨風を生み出す魔法を使いながら飛ぶ”ものだと勘違いしていた。

 以前からグレンの性格は場当たり的だと思っていたから注意していたものの、今それを発揮されるとは思っていなかった。


「み、みんな、とりあえず山頂を目指そう。そうしたらグレンさんも飛べるはずだって……」


 二人を混乱させないようにと、仕方なくアリシアとソウに嘘を伝えつつ山頂をめざすことにした。罪悪感が残るが、二人は疑念も抱かずついて来てくれる。実際に風は強まり、太陽も雲中へ姿を消しつつあるので、もうしばらくすれば天候も急変する……はずだ。


「待ちな……行かせない、よ」


 突然、背後から息も絶え絶えの声が聞こえた。先ほど倒したはずのリーラがこちらを見ていたのだ。ただ、肩で大きく息を吐き、足を引きずっているところを見ると、相当の重症のようだ。おまけに脇腹の衣類は先の溶岩が掠めたせいか、炭化して黒く変色していた。


「っっ……待って、僕たちはもう戦いたくない」


 なだめて解決できないかと思ったけど、リーラの表情を見たらーー彼女は笑みを浮かべていた。その瞳には、揺るがない勝利が見えているように思えた。


「あんたらを行かせたらクルエス様に立つ瀬がない」


 リーラはそう言うと、腰巻の鞄から何かを取り出した。小さな魔導石だった。僕が身に着けているそれよりも一回り小さい、軽く手に収まるほどの大きさに見える。


「こいつで時魔法のスキルレベルを強制的に底上げして、強力な時魔法を放つ。は、はは。マルゴが来るまでここで待ってようぜ~」

「ふざけんな!待て!」


 ソウがリーラの元へ駆け寄ろうとするが、明らかに間に合わなかった。リーラは歪んだ笑みを浮かべながら魔導石を拳に握った。


まさか、僕たちの、負けなのか――


時止全オール・ストップ

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