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第三章⑤

『そこそこの手練れが追ってきているようだ。心してかかるのだな』


 グレンは言葉少なに念話を終えた。グレンが”そこそこ”と表現する相手は、僕らにとって相応の相手である可能性が高い。


「グレンさん曰く、既に後を付けられているらしい。手強い相手かも」

「追手の気配は何となく察していました……私としては早い内に前回のリベンジができるので、それで結構です」

「右に同じ。むしろ経験を積むいいチャンスだぜ」


 重々しい雰囲気になってしまうかもと思ったが、杞憂だったようだ。二人ははにかみながら答えてくれた。


「――時にハルさん。改めて魔法について、私の振り返りも兼ねてお話させてください」


 アリシアは表情を硬くすると、改まって話を始めた。


「以前、"魔法は意志さえあれば誰でも使うことができる"とお伝えしたことは覚えていますか?」


 唐突な話に戸惑ったけど、確か出会ってすぐの道中にて、魔法全般の話をしてもらった時に聞いた内容のはずだ。僕は頷く。


「その説明には続きがあるのです。それは、"スキルは想像力で発現する"のです。確か、ハルさんの魔法は"火"、技能は"投擲"ですよね。この二つの単語だけを見てしまうと、どうしても『火の球を投げつける』イメージとなりがちですが、火と言っても幾つも形式があるはずです。基本要素としては、例えば炎、熱、明かり……などでしょうか。スキルレベルの高さは、ただ威力を数値化しただけではなく、それらのイメージを具現化する能力の高さも示しているのです。そのため、スキルを具現化するための"想像"が強さに直結します。例えば、私は水魔法を氷魔法へ派生できますが、自身の相応のスキルレベルにかまけて、あまり磨いてきませんでした。だからこそ……一緒に成長しましょう」

「その通りだぜ、アリシア。まー、俺にも同じことが言えるな。大体ゴーレム作るか石弾でちゃちゃっと済ませちまっていけど、自分を見直すいい機会かもしれねぇ」


 アリシアとソウがアドバイスをしてくれた。想像力――言うには簡単だが、具体化するには難しそうだ。


「スキル関係なく得意なこと、好きなことと結び付けると、イメージしやすいかもしれません」


 アリシアのアドバイスで、ひとつ思い当たるとすれば、中学からやっている"陸上競技"だろうか。確かに、イメージしやすいかもしれない。道中、色々な可能性を確かめていこう。


「さて、そろそろ中腹ってとこか」


 ソウが辺りを見渡しながら言った。相変わらず木々は生い茂っているものの、徐々に傾斜が厳しくなってきている。すると、鳥の囀りの間に水が流れる音が聞こえてきた。それは後ろを歩く二人にも聞こえていたらしく、三人で目を合わせることとなった。貴重な水を補給できるかもしれない。


「こっちから音が」


 僕が向いた先に何やら気配があったので、枝をかき分けてみると、そこには小川があった。走って飛び越えることは出来ないくらいの川幅だが、幾分か水深がありそうだ。また、支流もあるのか、透明な水面からは清流のせせらぎも聞こえてくる。


「少し休憩にしようか。みんな、ここに川があるから、水分補給を――」


 二人を呼ぼうと振り返った瞬間、背後から水をぶちまけるような音が聞こえた。何者かの存在を背後に感じる。


川に、潜んでいたのか――?


「ハルさん!伏せて下さい!氷放拳アイス・グラスプ!」


 突然のアリシアの叫びに驚き、反射的にしゃがみ込んだ。アリシアは猛然と僕の下へと駆け寄り、さっき僕がいたはずの空へ拳を振り上げた。

 すると、何かが吹き飛んだり潰れたりという音はしなかったものの、瞬く間に周囲を冷気が立ち込め、首筋をなぞった。しゃがんだまま恐る恐る背後の様子を見ると、何かが宙に浮いている。

 魚だった――尖った牙が無数に生えており、鱗は逆だっている。そいつが、氷漬けになっていたのだ。川から飛び跳ねて来たのだろうけど、水面を弾いたときの飛沫は全て凍り付いており、体と共に川へ固定されていたのだ。


「キラーフィッシュ、だな。噛みつかれたら、食い千切られるまで二度と離されなかっただろうぜ」

「気を付けてくださいね。これまでは運良くほとんど魔物に遭遇しませんでしたが、雄大な自然が広がっている土地ほど、魔物は出現しやすいのです」


 余りに綺麗な場所だったので、安全なのだと勘違いしてしまった。あくまで異世界であることを忘れてはいけないと、改めて心に誓った。


「さあ、今の戦いについて魔法の補足説明だ。相性ってやつよ」


 ソウは川辺から水をひと掬いして、それを飲みながら話始めた。


「今のは魚系の魔物。水に濡れているわけだ。そんな敵は凍らしちまうのが定石で、確かにそうすると手っ取り早い。一方で、火系では水を纏った相手に威力が落ちる。相性としては水には火ではなく氷ってことだな。それと、参考までに、昨晩の戦いで俺のゴーレムは水で剥ぎ取られそうになった。これは相性土には水。こんな形で、相対しない相性があるのさ」


 アリシアも腰を下ろして水を掬うと、それを口に含んでいた。


「スキルレベルで強行できることもありますが、紙一重の戦いになるのであれば、相性は重要な要素になりますね」


 僕も二人を真似て水を口に運びながら、魔法について咀嚼してみた。魔法の形態、相性……スキルレベルの高さは、魔法の威力にだけ影響しているものと思っていた。しかし、魔法の形態を派生させられる。加えて、相性を活用すれば、一方的に有利な展開をも作り出すことができるのだ。

 火力でゴリ押すことが魔法の強さと思っていたので、目から鱗な知識だった。


「さて、休んだうちに入らないかも知れねぇが、出発しようぜ」


 僕たちが立ち上がったとき、何かが川の下流から聞こえた。犬の遠吠えのような、鋭く遠くに届く鳴き声だった。狼の魔物にしてやられた経験のある僕には、これを聞く度に苦い思い出が反芻される。


「追撃者ですね。さあ、引き続き登りましょう」

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