第二章⑭
「ガガアアアアアアァァァ」
嵐の夜空を見上げると、赤黒いドラゴン――グレンが僕たち六人を見下ろしていた。暴風を打ち消してしまいそうに力強く翼をはためかせ、宙に居座っていたのだ。
籠もっていた戦いの熱が、瞬く間に冷めていく様を感じる。戦況は180度反転したのだ。
ドラゴンが人間の戦いに参入したら、その存在だけで勝利を引き寄せてしまう。種として絶対的な力を有しているのだと、改めて僕は実感した。
「お、おい、お前ら!ドラゴンに当てろ!これが例の奴に違いない」
アランがそう言うと、僕たちに向いていた全ての攻撃や敵意が上空のグレンへ向けられた。たちまち、無数の攻撃が彼に飛来していく――が、水も、炎も、雷ですらも、巨竜に当たることはなかった。いつの間にかグレンの前には火の障壁が生成されていて、何もかもを飲み込み無に帰していたのだ。それは、絶対王者の盾。
そこで僕は確信した。彼らでは勝てない、と。
人間がドラゴンに肩を並べることはできない、と。
そして、ドラゴンがこの世界の絶対者なのだ、と。
「これほどまでに力の差が……一旦、引くぞ。この三人はほっといていい」
アランがそう言うと、残る二人も早々に魔法を切り上げた。彼らは腐っても特級ギルドチームで、戦局を読むことには長けているのだと感じた。彼らは足早に森へと駆け込んでいき、たちまちのうちに、姿だけでなく存在すらも消え去ってしまった。
「お、おい。ハル!あのドラゴンと念話できるんだろ?『奴らを倒せ』って命令しろよ!」
倒れる僕に、ソウが焦りをぶつけてくる。確かに、さっきの三人を逃がしたら僕たちの居場所や行き先はバレるし、満身創痍で極めて劣勢であることすら伝わりかねない。でも、僕は、グレンに戦局の全てをーーまるで汚れ役だけを任せるような間柄には、絶対になりたくなかったのだ。
「命令とかの、仲じゃないよ。僕たちでなんとかするしかない」
「なんとかするって……どうするつもりだよ」
ソウが、答えを持たない僕に苛ついて胸ぐらを掴んだ。僕には抵抗する気持ちも、そんな力も無かったけど、アリシアがすかさず止めに入ってくれた。
「怪我人に何してるんですか!ハルさん、ポーションを飲んで下さい」
アリシアは、自分の鞄から小瓶を二本取り出すと、僕に飲ませてくれた。しかし、とても苦かった。えづいて吐きそうになる。これに薬効がなかったら、いくら栄養満点だとか言われても絶対に買わないレベルだ。
「薬が、足りません……負けることはないと高を括っていました。一方的にやられるなんて、思ってもいなかったーーハルさんの鞄からも薬を出します。あと、ソウ。あなたの分も出してください!」
僕はありったけの薬を、じゃぶじゃぶと飲まされているけど、確かこの効果は遅効性だから、しばらくは回復に転じないはずだ。
苦くてもう飲めない。アリシアに不満を伝えようとしたら、口が開かないことに気が付いた。
薬効の発現が遅すぎたようだ。万策尽きたと理解した。そう考えたら、視界が一気に暗くなってきた。意識が朦朧として五感が鈍くなっていることに気がついた。
まだまだ旅の途中なのに。序盤もいいところなのにーー
ワシニマカセロ!
誰かの声が聞こえた気がした。聞き覚えのある、陽気な声色だった。でも、誰に何を任せろっていうのだろうか。検討もできない。
トナリマチマデヒトットビ!
トナリマチ……隣街?それって、タナラタのことか?
言葉の解読に時間を要していると、なんだか体が宙に浮いた気がした。朦朧としているから、気のせいなのかもしれない。
フタリガオオアバレ。イキガイイ!
一体、何を言ってるんだ。ああ、もう駄目だ。そこまで言うならあとは何とかしてくれ。頼むーー




