第二章⑪-ex(5日目)
遡ること約一時間ーー僕はグレンと念話をしていた。例の、"毎日の定例会話"だった。
『先程は力を分けていただいてありがとうございました。おかげで、なんとか難局を乗り越えることができました』
『それは何よりだ。で、何を話そうか』
『あの、とはいえ今結構キツイ状況でして……既に先程話はしましたし、そこそこで切り上げさせてもらえるとありがたいのですが……』
『そうはいかん!しっかり話をせねば!』
なんでそこは頑固なんだ……今日も引かないだろうな……何を話せばいいのかーー
『それでは人間の暮らしを知りたいぞ。さあ、話せ』
今日は何の気まぐれなのか先にお題を出してくれた。とはいえ相当にアバウトで何を話せば興味を持ってくれるのか頭を捻る。
『そうですね……これもまた僕の国の暮らし特有なんですけど、暮らしていると暑かったり、寒かったりっていうことがありませんか?』
『いや、そんなことは一切ないが』
『……まあ、あったとするじゃないですか。その時に、そう、とある空間だけ季節を変えてしまう装置があるんです』
『季節はその時々で楽しむものだろう。それを変えてどうするのだ』
『暑い寒いの話ですって。一旦季節の話は置いといてくださいよ……』
何だか話していると疲れてきてしまった。何の話をしようとしていたのかわからなくなりそうだ。
『……とにかく、人間は体温調節が苦手なので、温度を変える術を持っていて、僕はいつも使ってしまっていると、たったそれだけの話です』
『なるほどな。人間は体温調節が苦手、と』
主題から逸れた話が気になったらしい。それにしても、大した話でもないのにえらく疲れてしまった。こんなやり取りが明日からも毎日続くのかと思うとため息が出そうになる。
『お主、今日はなぜ早く切り上げようとしているのだ?』
僕は、それを聞いてドキリとした。へそを曲げられでもしたら、どんな行動を取るか分からないからだ。話を長引かせない程度に理由を言うしかあるまい。改めて考えると、既に伝えた話だし理解は早いかもしれない。
『えーっ、と……実は今大変なことに巻き込まれていまして……今日、あなたに会ったことをギルド本部へ報告したら、捕獲を提案されてしまったんです。それを断ったら理不尽にも独房に入れられてしまって』
『それは……大変だったな』
ここまでの話は今日の夕方に伝えていた。この反応は、忘れてるだろ。力も分けてくれたのにーー
『まあいいです。それで、報告したらなぜか僕たちが悪者になってしまったんですよ。何とか逃げ出すことはできましたが、僕たちは今追われていて、森の中を彷徨っています』
『ほう、森の中と。どこだ?』
『いや、分からないです。あまり地理に詳しくなくて。"サヌールの街の東の森"としか……東のタナラタって街まで行きたいんですよ』
『なるほどな。ワシも今、近くにいるかもしれん。迎えに行こうか』
『いや、そんな車じゃ無いんだから』
『車とはなんだ』
『……またの機会にお話します!迎えになんか来られたら目立って目立って駄目です!とにかく、今日はこれで終わりましょう!では、また明日!』
そう言うと、半強制的に念話を終了した。ちょっと強引になってしまったけど、大丈夫だろう。多分ーー
ただ、心配だからと様子を見に来られたら大事になるな……そうなったときはーー腹を括るしかないかもしれない。
厄介な大きな爆弾をひとつ抱えてしまったかもしれないと、僕は大きなため息を付いてしまったのであった。




