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第二章⑪

 僕たちは走って裏門を離れ、近くの茂みに潜り込んだ。夜目は効かないが、振り返ると、先の戦闘跡で怒号が飛び交っているのが聞こえる。倒れた三人組の近くに他の警備隊が集まっているようだった。短時間で処理できてよかった。時間をかければかけるほどこちらが不利な状況に陥っていたはずだ。


「探索魔法だけの雑魚だったな。殺さずとも何とかなった。ただ、ここからが正念場だ。追手もあるはずだ」

「あなたの土属性魔法は強力でした。さて、夕日も沈んで時間帯としては逃走に最適です。夜のうちに距離を稼ぎましょうか」


 二人は既に今ではなく先のことを見据えているようだった。警備隊を集めてしまった僕は、ただ居た堪れない気持ちになってしまった。


「あの、申し訳ない。何でもないところで転んで……脱走が気付かれてしまって」


 そう言うと、アリシアとソウはお互い見つめ合って微笑んだ。


「真面目そうな顔でドジなんだと思って笑っちまった。どうせどこかでバレたんだ。遅かれ早かれって奴だ」

「むしろ、『追われているかもしれない』という焦りを感じながらこの先進むより、吹っ切れた気持ちになれましたので、私としては有り難かったです」


 二人は嫌味のない言葉を僕にかけてくれた。ただただ嬉しかった。でも、もう失敗はしない。したくない。


「ありがとう。でも、次は頑張るよ」

「大将はそう気張るなって。で、次の出方を相談したい所だが、まずは最短でタナラタの街を目指そう。北部の、王都フローリアっていう選択肢もあるが、何分徒歩だと距離が遠い。アリシアの叔父さんがいるってことだし、まずは真っ直ぐ東のタナラタへ進む。いいな」


 王都フローリアーーこの国の首都……になるのだろうか。いつか訪れることができればいいと思ったが、まずは今の僕たちがどうなるか、だ。ソウの問いかけには頷きで回答すると、ソウは話を続けた。


「あと、改めて俺の自己紹介やらも色々話してやりたいとこだが、追手のこともある。今は会話を控えて、落ち着いたら話したい」


 また頷いた。僕としても全く異論はない。道中の声で居場所がバレるなんて、そんなことはもちろん避けたい。


「じゃあ、逃走の行軍始めますか。先は長いんだ、のんびり行こうぜ」


ーーーーーーーーー


「ここで休憩する。30分経ったら行くぞ」


 僕たちは、闇夜の森の中を何時間もひた進んで、少し開けた場所に出ていた。野営地なのか、所々焚き火の跡とか何かのゴミの山だったりが放置されている場所だった。

 僕はベンチ替わりに使っていたのだろう、倒木に腰を下ろして大きなため息をついた。実は歩きながらも、密かにグレンと念話でやり取りをしていたのだ。森の中に潜む危険に集中しながら他愛のない会話をするのは、非常に骨が折れる行為だった。


「魔物に遭遇しなかったのは幸いでしたね。月も出ていて不用に明かりも使いませんでした」


 アリシアも息を整えながらも安堵している。確かに、闇夜で魔物と交戦しようものならまず危険だし、音で追手にその存在を教えかねない。


「この野営地を過ぎれば街道に出る。追手を考えると街道は使えないが、沿って進むことになるから必然的に魔物との遭遇率もぐんと減るはずだ。街道に出ちまえば街まですぐそこ。もう一踏ん張りってことだ」


 追手と魔物の両者に気を張ることは精神を削ってしまうので、その言葉を聞いて安堵した。そこでソウは、さて、と前置きした。


「……で、どっちから聞きたい?何であんたらに接触したのか。それとも具体的に何を反乱分子と言われているのか」

「先にいいですか?」


 唐突にソウが話を切り出した。僕も気になる話ではあったが、何よりも早くアリシアが割って入った。


「一昨日の夜、カタニアからサヌールへ馬車で移動している時、何者かの集団に襲われました。覆面をしていて顔は見ていませんが、その内の一人が強力な土魔法を使っていました。さらに、その集団は四人組だった。あなたはアジトで三人の仲間を待たせていた――あの時の襲撃者はソウ、あなたですよね」

「おー、気づかれてたか。その通りだよ」


 ソウは、軽快に回答していたが、僕は心底驚いていた。いや、アリシアが的確な推理をしていたのも驚きだけど、仲間としてやっていこうとしていた矢先だったのに、つい最近の襲撃がソウのものだったなんて、突然明かされた真実に着いていけていなかった。


「この後俺から順序立てて言うつもりだったのにさ。で、いつから分かってた?さっきのゴタゴタで土魔法を使ったからか?」

「仲間が三人だという話を聞いて疑念を抱き、土魔法を使われた時点で確信に至りましたーーそして、襲撃に失敗したため、改めてサヌールで接触したのですよね。いかがでしょうか」

「すげえな、アリシアは。説明の手間が省けた。その通りだよ」


 ソウが感嘆の声を上げて手を叩く。アリシアは表情を変えず続けた。


「さらに、クルエスが『ソウを泳がせていた』と言いましたが、ハルさん、これは推測でしかありませんが、一昨日の夜、護衛リーダーのサウルさんはあえて野営の準備をし、ソウ達の襲撃を誘ったのではないかと。そのため、あえて無防備となる夕食の場を設けたのだと思われます」

「確かに辻褄は合う……アリシア、改めてすごいな」


 アリシアの推理に、僕もただ感嘆の声を上げるしかなかった。


「そこで問題になるのが、なぜソウは私たちを狙ったのか、という点です」


 アリシアはソウをじっと見つめた。答えによっては何らかの手段も辞さないと、そう言わしめる様な表情だった。


「分かってる。嘘を吹き込むつもりは元々ないよ。じゃあ話すぜ……サヌールではいつからか、ドラゴンに関する特級依頼を受注したギルドチームは姿を消す。という噂が広まったんだ。時にチームの一人だけが。また、時にはチームごと神隠しに合うとな。噂が広まった時期はわからねぇ。ただ、徐々に噂では済まないほどの人数が姿を消していると判明した。そこで、俺はかのギルドマスター、クルエスが何か知っていると推測した」


 ソウは一息入れて続きを話した。


「とはいえ、出来ることは少なかった。直接クルエスに謁見することは叶わないからな。だから、俺は仲間の技能"聞き耳"スキルレベル10で、サヌールへ向かう馬車内の会話を片っ端から聞いて、ギルド本部に用事のある冒険者を襲撃。逃がしてやっていたってことさ。そのせいで目をつけられちまっていたようだが」

「目の付け所はよいのですが、やり方がとてつもなく手荒いですね」

「雑と言うか、知性に欠けるというか……ここだけ別人が作戦を考えたみたいだ」

「まあ、そんなことはいいだろ!ただ、お前らはいつもの奴らとは話が違った。馬車の中での話では、翌日、ドラゴン関係でギルド本部に招集がかかったんだと聞いた。特別な依頼だと直感した。だから、襲撃が失敗した後、何とか同行してクルエスヘ直談判してやろうと考えたってとこだ」


 そう言い切ると、口を閉じた。ことの全容を話してくれたようだが、何か引っかかるところがあるーー

「そういえば、何でクルエスが犯人だと推測したの?」

「それは――あー、ワリぃ、今は言えない。いや、言いたくない。いつかは話すから、それだけは勘弁してくれ」


 そんな風に話すソウは明らかに動揺して、困惑していた。


「ソウ、今言って頂けないと信用にも関わります。言って下さい。さもなければ――」

「アリシア。ここはソウの言う通りにしよう。準備ができたら、また改めて聞かせて貰えればいいから」

「でも、ハルさん!」

「大丈夫、ここだけは僕を信じて」


 僕は失敗してばかりだけど、アリシアには一旦引くようにとはっきり伝えた。ソウなら大丈夫だと、心の底から思えていたのだ。


「あとさ、さっきは良く分からなかったんだけど、ソウはどんな魔法が使えるの?」

「……おい、何か来る」


 僕が柔和な雰囲気を作ろうとした矢先のことだった。ソウが突然、声を潜め出した。辺りを見渡しても、僕には月明かりの視界に木々が揺れているだけしか見えなかった。


「確かにいます。三体。少ないです。ハルさんは森を燃やしかねないので、そこで待機を。ソウ、行けますか!?」


「あたぼうよ!『魔法』土属性、スキルレベル8。『技能』着装、スキルレベル10。守り全振りの鉄壁魔法、しっかり目に焼き付けな!」

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