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第二章⑦

「すいません、お伝えしていませんでした。たった十年、一世一代でのし上がった、ギルドマスターのクルエス様です。国中のギルドを束ねるギルド本部を統括しており、数多の魔法を操ることから、歴代最強と称されることもあります」


 アリシアは小声で耳打ちしてくれた。となると、僕以外の皆は、今日、ギルドマスタークルエスと話をする腹積もりだったに違いない。ほんの少しだけ、僕は言いようのない疎外感を抱いてしまった。


「正確には12年だけどね――では、よろしいかい?」


 クルエスはこちらに笑顔を向けて促した。僕はクルエスがどんな人なのか何となく理解できたつもりなので、ひとまずは話を先に進めてもらうことにした。


「話を戻すね。君たちの話は大筋聞いているよ。カタニアの街近くで赤いドラゴンと遭遇したんだって。間違いないかい?」

「間違いありません、洞穴があって、その地下が空洞になってたんです。二日前の昼頃のことでした」


 クルエスはうんうんと頷き、興味津々の顔つきでさらに聞いてきた。


「ドラゴンは、どうだったかい?怖くなかった?本来人里ではお目にかかれないけど、最近、人間が襲われることも多くてさ、見慣れない人が目の当たりにするとどう感じるのかなって思って」

「そうですね……怖いとは、思います」


 ただの雑談なのだろうかと思いつつ返答すると、アリシアとソウも僕に続いた。


「私も、別の所でも村が襲われるのを見ました。ドラゴンが、人類とドラゴンの不可侵条約を蔑ろにしているーーなんとか被害を食い止めたいのです」

「私も右に同じです。この身を持って被害を受けました。危険性は理解しております」


 ソウの話を聞き終えると、クルエスはまた頷いて椅子から立ち上がった。


「ありがとうーー皆、ドラゴンに対する気持ちの大小はありそうだけど、同じ方向を向いているのだと感じたよ。そこでひとつ、提案をしたいんだ。今回直接話したかったのは他でもない、君たちが遭遇したという赤いドラゴンを、そう、私は……捕らえたいと思っている。その協力を君たちへの"特級依頼"として受けていただけないかと思っているんだ。すなわち、"特級ギルドチーム"に仲間入りしないかってことだね」


特級依頼?いや、そもそも捕まえる?あの、巨大な体躯のドラゴンを?なぜ?


 当然ながら僕は混乱。隣を見ると、アリシアも困惑している。ソウについては、誰よりも大きく狼狽えている様子で明らかに取り乱していた。


「驚くのも無理はないよね。でもね、このままではドラゴンによる人類への攻撃は増えていく。その前に、ドラゴンを捕獲して尋問するんだ。うまくいけば相手が何をしたいのかーーあわよくば攻撃の計画などがわかるだろうね」


その通り――なのか?そもそも不可侵条約とかがあるわけで、既にドラゴン側がそれを破っているわけだけど、かといって人間側もそれを破っていいのだろうか。何かの誤りで互いに行き違いがあれば、たちまちに戦争に発展しそうな気もする。でも、何よりーー


 世界の平和やあれこれを考えたものの、僕の本心としては、グレンを、とても悪いやつだとは思えなかったのだ。そんな彼を捕まえて、何をされるか分からないのに引き渡すなんて、とても考えられることではなかった。人間を攻撃するドラゴンがいることも承知の上で……グレンを捕えることには、とても賛同できなかった。


「……アリシア、ソウ、ごめん。色々考えたけど、あのドラゴンを捕まえるなんて、考えられない。依頼は受けられないよ」

「ハルさんがそう言うとは――かく言う私も、何が正しいのか判断出来ていませんが、ドラゴンとの争いを発展させてしまうリスクを考えると、捕獲という方法は避けたほうがいいのではと……他の手段を探れないのでしょうか」

「……私はハルさんに従います」


 僕たちが各々回答すると、クルエスは渋い表情をした。


「一度接触した君たちがいれば、そのドラゴンは間違いなく油断する。成功すれば、世界平和へ一役買うことになるんだよ!」

「それでも、やっぱり僕は――できません」


 クルエスの顔を直視できなかったけど、言い切った。とてもじゃないけど、グレンを騙すなんてできない。もしかしたら、逆に僕がグレンに騙されているのかもしれないけど、それでも僕は彼を騙したくないのだ。安い信念だけど、僕を支える芯の部分を、どうしても売りたくないのだ。

 ただ、僕の回答のせいで、場に緊張が走ってしまったのも事実だった。ヒリつく空気感の中、アリシアが焦る気持ちを前面に出しながら場を繋げた。


「あの、そもそも人類とドラゴンの間には、不可侵条約があると思うんです。それはお互いに『危害を加えない』というルールなのだと思いますが、今回ご提案頂いた捕獲作戦は、厳密には抵触してしまうのではないかと思います。それも踏まえて、私は依頼を受注できないのではないかと……考えています」


 アリシアは緊張感を醸し出しながらも、納得できる回答をしてくれた。しかし、クルエスはため息をつくと、頭を掻いて先程より強い口調で言い放った。


「君たちは頭がいいのか悪いのか……これがうまくいけば条約はどうとでもなるのに。仕方ない、強制したくなかったのだがはっきり言おう。これは依頼ではない。ギルドマスターからの指示なのだよ。依頼を受ける以外の選択肢は無いんだーー分かったかい?依頼を、受けるね?」


 クルエスは苛ついた様子だった。もしここで"指示を受けない"と言ったらどうなってしまうんだろう。


まだ旅が始まったばかりなのに、もしやギルドから除名されたり、追放されたりしまうのだろうかーー


 クルエスの要望に応えつつ、自分たちの理想を叶えることはできないのかと、正解を探す押し問答を頭の中で繰り返してみた……が、当然、都合よく妙案は思い浮かばない。

 しばしの沈黙の後、クルエスは静かに息をついた。苛つきが落ち着き、開き直った表情をしているように思える。


「うーん、説得できないか。うまくいかなかったな。仕方ない、お前ら、後はいつものように処理しといて……そうだ、確かあっちはもう頭数足りてるから、通常処理で大丈夫」


 クルエスは、両隣にいた二人の側近へ何かの指示を出すと、その二人は無表情のままこちらへ向かってきた。


「そうやって指示通りに動かない人たちを切り捨てていたんだな」


 ソウが突如として僕の前に進み出たと思ったら、怒りに満ちた口調で吐き捨てた。先程まで狼狽えていた様子とは一変、怒りをはち切れんほどに募らせている。優しげな紳士の雰囲気からは想像もつかない、鬼のような形相をしていた。


「君は確か、反乱分子のリーダーやってたよね。しばらく泳がせていたけど、いい機会だし三人まとめて処理しちゃおうか」


反乱分子?何のことだ?ソウは何かを隠している?彼は一体ーー何者だ?


「――――!」


 ソウのことを考えるより速く、誰かが何かを叫んだ気がした。その言葉の意味を理解する前に、視界が一瞬にしてブラックアウトした。

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