第二章⑤-ex(4日目)
ソウへ台本の内容を伝えると、僕は宿の一室へ向かった。今日は馬車に乗っていただけだったのに、異世界に来て一番疲れた一日だったかもしれない。そして、このあとにも疲れる工程がひとつ残っていることを思い出し、辟易としながらベッドへ倒れ込んだ。
『おい、ワシだ。一日なぞあっという間だな。さあ、何か話せ』
グレンは僕に休息を取る時間を与えてくれないようだ。それにまた頭を使わせる話の切り出し方にがっくりとしてしまったけど、彼に聞いておきたいこともあったのだ。
『あの、そもそもですよ。なんで僕と話をしたいんですか?』
『この世界で弱さを知ることは、難しいからだ』
『はい?』
『気にするでない。では話すがよい』
僕の質問を一蹴すると、グレンは僕に話を切り出すよう促した。返答を待つ荒い鼻息が聞こえてくるーー会話を待たれている。会話を始めてもいいけど、ヒントでいいから話題が欲しい。
『あのー、こちらも知り合いがいない中お話できて非常に嬉しいんですが、何かお題というか……テーマを出して頂けませんか?さすがに何を話せばいいのか分からなくて』
『なんだ、話なぞいくらでも出て来よう。例えば、そうだな、人間の食べる飯について話せ』
本当になんでもいいのか……でも食べ物か……この世界で食べたものといえば、硬いパンばかりなんだよな。
『あの、僕この国に来たばっかりであんまり食事知らないんですよ。どうしましょうか』
『なら故郷の飯でもいい』
それならいくらでも話ができる。でも伝わるのかな……?
『そうですね……僕の故郷には"カレーライス"なる食べ物がありまして』
『ほう』
『二種類の食べ物を一つの皿によそうんです。それを同時に食べて、異なる味わいを楽しむ、というか』
『どうせ食べるなら分ける必要もなかろう』
『いえ、一度に調理できないし、そういう食べ物なんですって』
『なぜ一度に調理できない?やろうとしないのか?』
ちょっと待ってくれ。イチから全て話さないといけないのか?それに話が発散して収集がつかないーー
『とにかく、一度に食べると美味しいんです!あと、そう、味は辛い。それこそ、火を吹くような感覚だと思います』
勢いで例えてみたけど、そんな感覚は伝わるのか?
『なるほど、食べると火を吹く感覚になるのか。よく理解したぞ』
伝わった……のか?なんか間違って伝わっているような気もするけど、まあいいか。
『ちなみに、グレンさんは普段何を食べているんですか?』
『ワシか?そうだな、腹が減っている時、近くにいた動物やら魔物だな。丸ごとバクっとな。人間のように味やらなんやら細かいことは気にせん』
『気にしないのはグレンさんだけな気もしてきました』
『あと、これは勘違いするな。人間は食わんからな。安心しろ。ガッハッハ』
『それはそれは……いいことを聞けました』
『では明日も期待しているからな。ガッハッハ』
そう言うと念話が切れた。本当に、何の話をしたかったんだ……
これが取り繕った性格だったら相当な食わせ物だぞ……
脳をフル回転させた、僕の四日目の仕事が終わったのだった。




