第二章③
「襲撃?誰が?」
僕がそんな気の抜けた返事をしたら、皆が僕を見た。その視線は『戦闘に備えろ』と言っているーーそれを見、一気にアドレナリンが放出された。戦いが、目前に近づいているのだ。緊張感をひしと感じ、闇夜に目を凝らした。
「三人、いえ、四人います」
護衛隊リーダーのサウルは、暗闇の先にいる何者かの気配を感じとったらしい。僕には全く分からないから、何かしらの技能で把握しているのかもしれない。
「私は接近戦しか対応出来ません。一先ずはこの近辺の護衛に専念します」
アリシアを見ると、既に風の盾を身に着け、襲撃者の出方を伺っていた。
「向こうは動きませんね……こちらの出方を待っているようです。ならば、こちらから一気に畳みに行きましょう!風動壁」
サウルが魔法を唱えると、闇夜の中から無数の渦巻く風音が聞こえ出した。
「これは、本来は風の壁で自身を守るための魔法ですが、"波動"の技能で自在に動かせます。襲撃者が逃げられないよう、外側からこちら側へ引き寄せます」
サウルが解説すると、遠くに聞こえていた風音が近づいてくる。それに加えて、何かを切り裂く音も含みだした。暗闇に溶けていた襲撃者の輪郭も、薄っすら見えてきた気がする。
「あとは部下にお任せを。可能であれば、ハルさんも援護をお願いします」
そう言いながらサウルが手を振ると、部下が一斉に魔法を放ち始めた。遠隔魔法の連撃で一網打尽にするつもりのようだ。
「さすがに……これだと僕はいらないよ」
さすがの火力に僕は圧倒されて、加勢も何も見ているだけしかできなかった。
やがて、魔法が着弾するときの爆音が収まり、徐々に土煙も収まっていった。地面にはクレーターがいくつも出来ているので、襲撃者は一溜りもなかったはずだ。捕まえて尋問するのだとしても、姿が残っているものなのかーー単なる野盗だったとしたら、抗う間もなく息絶えてしまっていたかもしれない。
「ちょっと待て……何だあれは」
僕の心配をよそに、土煙の中からは、僕の背丈から余裕で一回りは大きいであろう土の人形が姿を現してーーこちらを見ていた。手足の太さは人間のそれと比較にならないほど太く、分厚い胴体とずんぐりむっくりな土色の体躯――まさに、ゴーレムがこちらを見ていた。
「襲撃者はあの裏に隠れているようです」
「次は、私が行きます!」
間髪入れずアリシアが叫ぶと、ゴーレムの前に飛び出した。そして、いつの間にか切り替えていた水の剣、水硬剣で斬りつけたーーが、お決まりの炸裂が発生しなかった。代わりにガギギ、と金属を削るような音がして、ゴーレムの表面に太刀筋通りの傷跡が残った。
「私の剣が通らない……かなりの硬度です」
アリシアが引くと、ゴーレムが歩み始めた。まだ何かをするつもりらしく、場の全員が身構える。
「お二人は下がってください。引き続き攻撃します」
サウルはそう言ったものの、これまでの威力の魔法を撃ち続けた所で、頑丈なあのゴーレムを倒せるとは思えなかった。それよりも、"僕であれば"攻撃が通用かもしれないと思ったのだ。スキルレベル10の威力なら、倒せないまでも退けるくらいには局面を変えられるかもしれないと直感した。
「僕だって……皆、気を付けて!火滅球です」
右腕にありったけの力を込めた。昨日ギルドで生成したサッカーボール大の火球をイメージする。そして、熱量迸るそれを、ゴーレムへ投げ込んだ。
動きが緩慢なゴーレムは、それを回避する事なくーー体に受け止めると、大爆発を起こした。
「うお!」
例のごとく、自陣を含めて四方へ土片や土煙が吹き荒れた。感触からしても、ゴーレムを四散させた感触はあったが、様子が分からない。
「ーー残念ながら、逃げられていますね。私の風の壁も無傷で突破された模様です」
もうもうと舞う煙が収まる前に、サウルが冷静に告げた。襲撃者はこの場を脱していたらしい。サウルの言葉に間違いはなかったようで、土煙が収まると、そこには荒れた平地と静かな闇夜があるだけだった。
「一体、何がしたかったんだ?」
「分かりません。ただ、かなりのやり手であったのは確かです。それでもーーハルさんはさすが噂の火力をお持ちだ。あなたがたのお陰で危機を脱しました。しかし、このまま落ち着いて野営とは行きませんので、まずはここを離れましょう。荒れたこの地は後続の隊が処理しますので」
僕とアリシアはサウルから促されるままに馬車に乗り込むと、即座に出発した。興奮冷めやらぬうちに馬車は再び闇夜を駆けていくーー
「野党にしては強すぎます」
拳を握りしめたアリシアが呟いた。スライムを消し去るほどのスキルレベルを有するアリシアの力を持ってしても、傷しか付かない相手がいるのだから、この世界は……広い。
「俗世間からあぶれるような夜捨人は、主にスキルレベルが低くて一般社会に馴染めなかった方が多いのです。そのような方々が野党を組み、低いスキルレベルを補う……そして、十人を超える集団で旅人を襲撃することが大半と聞きます。でも、今回は少人数であり、かつスキルレベルも高いと、全くの逆でした」
確かにアリシアの言う通り、単なる野党ではないような気がした。持ち物を奪いに来たというより、何らかの意図を持って野営を襲撃しに来たと考えられるのだ。ただ、今は――
「何とか撃退出来たんだ。突然のことで驚いたけど、次は捕まえてやろう」
「そう……ですね。次はこうはいきません」
気落ちしている励まそうとアリシアに声をかけて、彼女も少し奮い立ったときだった。
『おい、聞こえるだろう。今から念話するから、心しておけ』
すっかり忘れていたドラゴンとの念話は、唐突に始まった。恐らく、これ以降は僕のほうが気落ちしてしまっていたはすだ。




