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第一章⑭

「そういえば、魔導石ってどうやってできているんだ?」


 カタニアの街を出発し、一つ目の採取依頼”ブルースプラウト”を探しながらアリシアに尋ねてみた。


「私はこれまで触れたことがありませんので、聞きかじった話でしかありませんが」


 アリシアは自信のなさげな前置きをして、話を続けた。


「あらゆる万物――石や水の無機物をはじめ、草木などの自然に存在するものにはごく僅かに魔力が備わっています。ただ、この国のどこかでは、稀に大きな魔力を有したものが産出されるらしく、それが素体となります。そして、魔導石の場合は石材の素体へ魔力を注ぎ込むと、魔導石が生成されるらしいです」


 僕は、なるほどと唸りながら、首に下げたネックレス状の魔導石を取り出した。


「魔力を注いで魔導石ができるなら、これって魔法が封じ込まれているってことなのかな?"言語変換の魔導石"なんだけど、言語を変える魔法なんてあるんだ」

「魔法の種類は一般4種とその他特殊属性という分類になりますが、スキルレベルで魔法の形態が変わることもあります。例えば、私の例で言うと、水魔法のスキルレベルが9だと、氷魔法へ形態を転換可能です。また、魔法と技能の組み合わせによっても魔法の形式が変わりますね。私で例えますと、魔法と技能の相性から水の剣などの近接武器の形式にすることが多いですね……脱線してしまいましたが、複雑な形態・形式の魔法を媒体に生成された魔導石なのかもしれません。もしくは、一部の希少な魔導石は遺構から産出されることもありますので、その類いかもしれません。相当希少で、時には"国宝級"と呼ばれるようです。あまり見られないものらしいので、ハルさんの魔導石は前者だと思うのですが……」


 僕はもう一度唸り、ネックレスをしまった。もしかしたら、この言語変換の魔導石は相当貴重なものなのかもしれない。


「あと、もう少し補足をしますね。効果の高い魔導石は、相応のスキルレベルの方が作っているので、希少価値が高くなる傾向にあります。さらに、魔導石に魔力を注ぐと、その魔力を使い切るまで別の魔力を注げないのです。一度でも使うと残量が読めなくなってしまうということになります。危険と隣り合わせの冒険ですので、基本的には残量の読めない魔導石は持ち歩かず、使い次第買い替えることになる……など、魔法を魔導石に頼ることによるデメリットは存外多いのです。メリットとしては、通常魔法は同時に単種しか生成できませんが、魔導石を使えば二種以上の同時生成が可能となります。不意打ちには良いということでしょうかね」

「色々と参考になったけど、魔導石が使い切りになっちゃうんだとすれば、この言語変換の魔導石もそのうち使えなくなっちゃうのかな?」


 僕の生命線が、明日にも切れてしまうのではないかと思うと焦ってしまった。


「いずれは魔力を使い切って空の魔導石になってしまうでしょうね。ただ、安心してよいかと思います。見たところかなりの魔力量を保有していそうですので、使い切るには相応の時間が必要かと思います」

「それは安心した……でも、旅が終わるまでもってくれればいいけど」


 もし、この魔導石がなければ、僕は途方に暮れていただろう。どうにもならず孤児院で暮らし続けていたかもしれない。


「旅は、そうですね、お互い納得する形で終われたらいいですね――さて、そろそろ一つ目の依頼は終了してよいでしょうか?」


 アリシアはそう言うと立ち上がった。改めて彼女を見ると、目的の植物を片手いっぱいに持っていて、何かの間違えじゃないかと見返してしまった。僕はまだ、数本しか収穫できていなかったのだ。そしてアリシアは僕を見て、表情が一瞬だけ強張った。”できないやつ”の烙印を押されてしまったのでは、とドキリとした。


「私は依頼の対象を見慣れていましたので。フォローできておらず申し訳ありません……ただ、二人のものを合わせれば依頼のちょうど分は採取できているはずです。時間もありますので次の依頼をこなしましょう」


 アリシアの分だけで二人分の依頼が達成できていそうなのに、僕が足を引っ張ってしまっている。でも次はしっかり挽回してやろうと気合を入れた。

 収穫したものを鞄にしまうと、依頼書で次の目的地を再確認する。紙面には”シャドウマッシュルーム”という名前と、特徴、生息場所が書いてあった。目的地はこの場所から近く、そう時間もかけずに到着できるはずだ。


「確か、街の南にある森の中に洞穴があって、その中に群生しているんだよね」

「そうです。歩けば早々に到着するはずです」


 アリシアの言葉通り、小一時間もかからずにその洞穴にたどり着いた。そこは、小高い小山の側面が大きく抉られており、洞穴というよりは山の裂け目のような場所だった。洞穴の中には陽光も差し込んでいるため、明かりも必要ない。


「じゃあさっそく探そうか。見たところ、この辺りには見当たらないけど――」

「待ってください!」


 洞窟に足を踏み入れた僕を、アリシアが強く静止した。僕はそれに驚きアリシアに振り返った。


「魔物が、います。街にも近いので、そこまで強くないはずですが」


 強くはないと言いつつも、慎重に洞窟の奥を見据えたアリシアが先に進んだ。


水硬剣ウォーター・ブレード、生成します」


 アリシアは慎重に歩み進みがてら、魔法を発現させていく。昨日見たときよりも一段と刀身が長いように感じる。そんなアリシアの様子を見ていると、暗がりに何らかの気配を感じた。小さくてゆるりと動き、半透明で陽光を反射させる滑らかな見た目――


「小さな、スライム……それも沢山いる!」

「7、8匹ほどでしょうか。ハルさん、連携しましょう。私が障害物の少ない左側から攻めますので、ハルさんは岩場の多い右側を。火力調整はお任せします」


 そう言うと、アリシアは単騎乗り込んだ。最左にいるスライムへ瞬く間に近づくと、水硬剣ウォーター・ブレードで一閃した。すると、そのひと振りを受けたスライムは、跡形もなく消滅した。


昨日、安易に触れなくてよかったーー


 アリシアの攻撃の威力を間近で見て、身震いしてしまった。昨日、もしその刀身に触れていたら指が吹き飛んでいたのかもしれないのだ。

 そんなことを思い返していると、僕に近づくスライムの姿が見えた。アリシアを避けて、僕に近寄ってきていたのだ。


「僕だってやるんだから……はあ!」


 掌に力を込めて炎の球体を生成する。昨日は大爆発を起こしてしまったから、ある程度力を抑えるイメージだ。掌からは、こぶし大の火の玉が生成されて浮かび上がった。


「いっけえ!」


 投擲のイメージはできていた。4匹のスライムの重心になり得る場所へふわりと投げ込んだ。赤い火の玉は、ゆるゆると弧を描いて地面に衝突し――そして大きく炸裂した。

 大きな土煙が立ち上り、洞穴が揺れる。天井からは石の塊がボロボロと落下してきた。

 予想外の威力に驚きつつ、薄まる土煙の中、目を凝らすと小さなクレーターができていた。それに加え、当然のように、スライムの姿は全て、跡形もなく消え去っていた。


「……さすがです、ハルさん」


 アリシアも戦闘が終わったようで、こちらにやってくる。


「初めてでしたけど、うまく連携――というか分担かもしれませんけど、何とかなりましたね」


 ハルさんのおかげです。と大きくお辞儀をしてきたので、それを静止して、お互い頑張った、ということで場をなだめた。


「それじゃあ、目的のものを探そうか。入口側は……僕のせいで見当たらないから、少し奥を探そう」


 荒れ果てた地面を見て申し訳なく思った。威力は十分だから、やっぱり火力調節が僕の一番の課題なのかもしれない。


「あそこから奥に行けそうですね。少し狭いですが、天井から光が漏れてきていますので、何とか探索できそうです」


 屈んで通れそうな通路をアリシアが指差すと、僕は頷いてその道を確認した。案外狭いと思いつつも膝をつき、通路を進み出した瞬間だった。洞穴内に、唸りのような、遠吠えのようなものを聞いた気がしたのだ。


「……今何か聞こえた?」

「複雑な地形をしているようですので、風の通る音かもしれませんね。でも、狭い道です。注意しましょう」


 アリシアは特に気にならなかったらしく、先の唸り声に聞こえた音は気のせいだったのかもしれないと思った。それと共に、狭いからこそ大きい魔物は入ってこれないだろうという安心感も抱き始めていた。


「少し広い場所に出るかも。あ、これが例のキノコかな」

「ちょっと、足元危ないです」


 開けた空間の隅にキノコのようなシルエットを見かけた時だった。突然足元からがらり、と音が聞こえて、体の重心が下方へ落ちた。その瞬間、アリシアが僕の袖を掴み、引き上げようとするも、落下の勢いのまま二人ともども宙に浮いた。


足場が、崩れたーー


 突然のことに手足は空をかき、体は自由落下を感じたーーと思ったら、斜面に足が付いた。しかし、急勾配に勢いは止まらず、踏ん張る余裕もないままに体勢を崩して斜面を滑り落ちた。僕を引き上げようとしたアリシアも巻き込んでしまったようで、大小さまざまな石と共に僕たちは斜面を転がった。そして、水平な地面まで転がるとーーやっと勢いが止まった。


「いてて……アリシア、大丈夫?」

「……はい。ですが、不意打ちのようでしたね」


 もしかしたらさっき放った僕の魔法で、脆かった箇所が崩落したのかもしれない。いつもいつも、不器用な自分に嫌気がさす。次はもっとうまくやりたいし、やらないといけないのだと気持ちを奮わせる。

 ただ、不幸中の幸いなことに、お互いを見回すと、それぞれ怪我はないようだった。僕はそれにホッとすると、崩落した場所の天井を眺めた。


「あ――あの……ハルさん」

「なんとか登って、いったん洞穴から外に出よう。依頼のことは脱出してから考えた方がいいか」

「ハルさん!」


 アリシアが、声を荒げて僕を呼んだ。てっきり僕の失態に口を出されるのかと思っていたから、異様な様子のアリシアに驚き、すぐさま振り返った。

 彼女は、暗がりの奥を見ていた。そこには光が差し込んでおらず、洞穴というよりは深淵へと繋がっている洞窟の入口に思えた。


「何か、いるの?」


 僕は、暗がりの奥に生き物の気配を感じて身震いした。アリシアは既にその正体に気付いているようで、一歩、また一歩と後ずさっている。僕も、少しずつ暗がりに目が慣れて、ぼんやりとその輪郭が見え、そしてーーその息遣いも耳に届いた。


ーーーーーーーーー


 鋭い眼光。棘々しい鱗。赤黒い体皮。自由自在に宙を舞う長い尾。そして、背中に生える巨大な両翼ーー

 僕は、それらの特徴を有した生物を、他に形容することができなかった。そこにいたのは、まさに"ドラゴン"だったのだ。


 逃げ出したい気持ちに支配されつつも、ドラゴンの悠然とした振る舞いを仰ぎ見た。その体躯は人間では到底太刀打ちできない腕力の強さを物語っており、それと共に、落ち着いた佇まいは、内に秘める魔力や精神的なものの全てが秀でているのだと感じさせた。

 その一方で、この場に漂う凛とした空気感ーー恐らくドラゴンの余裕によるものなのだろうが、嫌味な印象は微塵も感じられなかった。


 とはいえ僕は、遥か高所から僕らを見下ろすドラゴンを前にして、足がすくんでしまっていた。

 敵対しようものなら、僕たちなんか軽く消し炭にされてしまいそうだったのだ。口内に貯めている炎がちらりと見える度に、薄暗い洞窟が瞬きするように照らされ、丸焼きにされる自身の姿を思い浮かべてしまう。

 今にも炎を吐こうとしているのかもしれない。何か失態をして、怒りの琴線に触れてしまっていたのだろうか。記憶を振り返ると、先の僕の魔法が原因かもしれないと勘付き、冷や汗が一筋流れた。


「どう……されましたかね?」


 少しでもなだめられないかと、駄目元で、恐る恐る声をかけてみた。すると、ドラゴンの表情が驚きのそれに変わった。縦長の瞳孔が瞬く間に細くなっていく。


間違いない。やっぱり、怒らせてしまっていた――


 顎先から汗が滴り落ちた。そして、僕の袖が二度、三度と引っ張っられて、隣から驚きの声で「どういうことですか」と囁かれる。彼女の恐怖と焦りの感情が、直に伝わってくるようだった。


何とか挽回しなくては――


「あの、あなたは、僕の声が分かるんですか?」


 恐怖が伝わらないよう、少しだけ強がって聞いてみた。でも、それが明らかに分かるような、上擦って震えた声になってしまった。

 しかし、そんな僕の情けない声を聞いたドラゴンは、笑みを浮かべるように口角を上げた。そして、洞窟内に響くように低く、でも柔らかく穏やかな声で僕に語りかけた。


「十分だ、契約をしよう」

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