第一章⑫
「あんな火魔法の威力、今まで見たことねぇぜ。ただ、スキルレベルは10が最大だから、『どんな威力でも10である』ことしか書けねぇ。すまんな!」
感嘆の口調で結果を伝えられ、周囲がざわつきながら僕のスキルレベル測定は終わった。『火』『10』と書かれているギルド特注の紙を受け取り、どちらかと言うと良い結果であったはずなのに、ぼくの心境は複雑だった。スキルレベルは高い数値で嬉しかったものの、取り扱い注意が過ぎるのだ。アリシアとチームでやっていく以上、うまく戦力になるのかと不安になってしまう。
少々がっかりしながらアリシアの下へ戻ると、彼女はまだ金髪女性職員と話をしていた。
「……それでは、黒いドラゴンはイブレの村を東へ飛び立ったと。なるほど……実は、イブレ村からちょうど東部に位置しているこの街にも同型と思われるドラゴンの目撃情報があり、もしかしたらさらに東のサヌールへ向かったのかもしれませんねーーそれでは報告ありがとうございました」
ちょうど報告が終わり、振り返ったアリシアと目が合った。多分、僕の気まずそうな雰囲気が伝わったんだろう。ほんの少し眉をひそめると、アリシアが先に話を始めた。
「……ドラゴンについて報告は終わりましたので、ギルドへ登録したら、遅いですが昼食にしましょうか」
「なんかごめんよ、そうしよう」
アリシアと共に入口右手にある登録受付へ向かう。その受付は他よりも明らかに人が多く、ギルドへ登録しようとする国民が多いのだと、僕は改めて認識したのだった。そして、アリシアは受付前で振り返った。
「えっと、遅くなりましたが、ギルドへ登録する前に、そのメリットを伝えておきたいと思います。この国で生きていくのに最も保障が手厚いのが、ギルドへの加入です。一度登録すれば仕事の仲介、測ったスキルレベルを元にした適材適所な仕事の斡旋など、至れり尽くせりとなるのです。個人で信用を作っていき辛い社会なので、大抵はギルドを介して職につくのが一般的ですね。また、あらゆる職種を取り扱っているのも特徴の一つです。先日のウルフ『討伐』はもちろんのこと、『護衛』、『調理』、『植樹』等々何でもあり、『ギルトに行けば食いっぱぐれない』と言われるほどです」
「……僕はどうするか考えていなかったけど、アリシアに合わせるよ。加入する」
「それがいいと思います。ハルさんはスキルレベルが高いので、もしかしたら高額報酬の特級依頼を斡旋されることがあるかもしれませんしね」
アリシアの一連の話を聞いて、僕はなるほどと思った。ギルドに僕の『正式な数値のスキルレベル』が登録されれば、それがある意味実力の信用手形にもなり得るのだ。信用を得るためにスキルレベルの測定を行っておけば、ギルド側は仕事を手配、冒険者側は斡旋される仕事の幅が広がるなど、お互いにメリットがあるということだ。
旅をしていくにはお金が必要である事は揺るぎないので、ギルドには登録すべきだろう。そのうち、他のスキルも実技試験を受けて、ギルドに登録しておくことになるかもしれない。ギルドに縛られることがあるかもしれないけれど、それと引き換えても登録することのメリットの方が多そうだと感じた。
「はい。それでは、ハルさんの分も私が登録しますね」
そう言うと、アリシアは受付に向かい、いくつかの書類に書き込むと、それだけで手続きは終わったようだった。アリシアは受付から何かをもらって、僕のもとへ戻ってきた。
「私たちの魔法はスキル測定をした際に登録されていましたので、書面の記載だけで登録完了しました。これが登録証です。登録者の魔力に反応しているので、魔導紙で作られているようですね。それではーー食事に行きましょうか。その他の詳しいお話はその時にでも」
僕はアリシアから登録証を受け取ると、彼女を追うようにギルドを出た。そしてそのまま大通りを進み、しばらくすると、アリシアは比較的大きな建物を指差した。どうやら有名な食事処らしく、出てくる人はみな腹に手を当てて満足げな表情をしている。客の入れ替わりもかなり流動的のようで、引っ切り無しに客が出入りしている。
店内に入ると、そこは若干小汚く感じたものの、広くて程よい喧騒だった。この世界では一般的な食事処なのかもしれない。僕たちは適当な料理を注文し、空いている席に腰を下ろした。
「やっと落ち着けた」
二人掛けの席につくと、どっと疲れが出てしまった。体を机に投げ出しながら、改めて、なかなかにハードな一日だったと実感する。
「歩き詰めでしたし、大きな街の喧騒にも慣れません。来たことのある私ですら疲れてしまいました。ところで、スキルはいかがでしたか?」
興味津々の様子でアリシアが目を輝かせている。僕は失望させないようにと……結果を告げたところーー高めだったテンションはさらに上がったようだった。
「素晴らしいですよ。火魔法10なんて、聞いたことがありません!」
アリシアが立ち上がって喜んだ。いや、驚嘆の叫びを上げた。
「ちょっと、目立っちゃうし座って……」
「あ、申し訳ありません。ちなみに私は水、風いずれも9でして、驚いてしまいました。それと、非公式ながら投擲が8と。魔法と相性がよさそうですね。冒険者向きのスキルだと思います」
声を潜めつつも、興奮冷めやらぬ声で喋りを続ける。聞く限りアリシアのスキルの方が凄い気もするが、それは一旦置いておく。
「ただ、懸念点があるとすれば、放出タイプの魔法は魔力を一気に使いますので、魔力切れに注意ですね。私は使った魔法を再度魔力として取り込めますので、燃費がよいのです」
「ああー、それで僕、今の疲労感なのかも」
先程の実技試験にて、最大火力の火魔法を撃ったため、魔力量が減っているのだと推測した。
「その可能性は大きいです。でも、魔力が減ったら食事が鉄則です」
そう言うと、ちょうど注文したプレートが届いた。アリシアはナイフとフォークを掴むと、ステーキ肉を切り出していく。
「魔力は魔力からしか補充できません。食事を摂取することで、材料が保有していた魔力を譲り受け、魔力が回復するのです。魔導水なるもので手っ取り早く魔力を補充することもできますが、少々お高いですし」
「食事で魔力回復、と。そうだ、あと、お金についても教えてもらっていいかな」
話ついでに先程から気になっていた金銭事情も聞いてみることにした。
「お金はシンプルです。銅、銀、金、白金の順に貨幣価値が上がり、低い価値の貨幣10枚で高い貨幣1枚分になります。銅貨100枚で金貨1枚分ですね」
「なるほど、でも僕、お金なんにも持っていなくて……このご飯とかどうすればいいかな」
そう言うと、アリシアは自身のポケットを指差し、笑顔で返答した。
「気にしていただいていてありがとうございます。実は、ハルさんの分もシスターから預かっていました。『落ち着いたら分けるように』と言われていましたので。預かっていた分は均等に分けますので、これからはそれぞれで管理しましょうか。ギルドの仕事をこなせるようになれば、お金は自ずと貯まっていくはずですので、しばらくはこの街に留まって旅の路銀を稼ぎましょう」
「そうしよう。旅は焦っちゃいけない。少しずつだ。少しずつ」
しかし、いつまでこの街に滞在しなければならないのだろうか。アリシアの言葉は理解しているものの、内心焦ってしまっていた。そんなことはアリシアへ相談できるはずもなく、僕は思いを飲み込んだ。
すると、食事を終えたアリシアがナプキンで口元を拭き、口を開いた。
「今日はもう宿を取ってしまいましょうか。明日は早朝からギルドで仕事を受注しましょう」




