第一章⑪
「なんかご用かい、兄さん」
髭をもうもうと蓄えた、見上げるほどの男が、そこにいた。筋骨隆々、ストロングスタイル。まさに"男の中の男"だと思った。
「えっと、スキルレベルを測定したくて……」
気合を入れた直後なのに、大きな受付の前で気持ちが萎んでしまいそうだった。でも、そんな様子を感じとったのか、その男は僕に笑顔を見せた。
「兄さん、ここは初めてか。なら説明するぜぇ。知ってるかもしれねぇが、ここではスキルレベルを測定できる。その様子じゃまだ兄さんは自分のスキルレベルを測ったことがねぇんだろ?かあ〜いいねぇ!もうすぐ人生が決まるぜぇ!スキルレベルで人生が大きく左右されると言っても過言じゃねぇからな。バラ色人生が確定した兄さんの顔が早く見てぇよ!」
圧が、強い……言葉の熱とは裏腹に、周囲の空気感が一気に冷え込んだ気がした。いくつもの視線を背中に感じる。明らかに、僕たち二人は冒険者と職員の目を一挙に引き受けてしまっていた。そして僕は、完全にとばっちりを受けていたのだーー
僕の目を見たマッチョな男は、ようやくバツの悪さを感じたらしく、手を叩くと本筋の解説を始めた。
「オホン。えっとなぁ、手順を説明するぜ。まず、魔力探知で測定希望者のもつスキルのおおよそのスキルレベルを測定する。これは誰でも無料だ。そして次は実技テストで正確な数値を測定する。普通は有料なんだが、一つのスキルだけ無料で測定してんだ。二つ目以降は有料だがな。目安値を見て、調べたいスキルを絞った上で正確なスキルレベルの数値を測定していくってことだ」
"有料"と言う単語を聞いて、僕は頭を掻いた。そういえば、アリシアからこの国の金銭事情については一切聞いていなかったのだ。当然この世界のお金は持ち合わせていない。生活を左右する要素でもあるので、後で確認しておく必要がある。
「それなら、無料の所までお願いします」
「無料なら、兄さんが持つスキルのおおよそのスキルレベルを測定して、調べたいスキルのうち一つの実技を行うぜ。ま、説明はこれくらいにしてさっさとやろうぜ。まずは魔力探知だ。この魔導石を握って、魔力を込めてくれ」
マッチョ男はそう言うと、受付の中から掌に軽く収まる大きさの透明な魔導石を取り出して机に置いた。
「本当に握るだけでいいんですか?」
「そう言っただろ?準備ができたら力を入れてくれ。それだけで十分だ」
これも魔導石か。どんな原理になっているんだろうか?
僕は仕組みが気になりながらも、その魔導石を握ってみた。昨日、シスターに促されて火の玉を生成した時の感覚を思い出して、力を込めてみる。一度は体の中で沈静化していた力が渦巻き、湧き上がるのを感じる。
「……はっ!」
「お、それで十分だぜ!じゃあその石を貰うから、そこでちょっと待っててくれ」
そう言うとマッチョ男は僕から魔導石を取り、受付奥のテーブルに置いた。すると、途端にテーブル全体が鮮やかに光りだした。どうやらテーブルには紙が敷かれていて、その紙が反応しているらしい。
「ほぅ、なかなかに尖った素養」
マッチョ男は感嘆し、隅から隅まで眺めるとその紙を持って僕の下へ戻ってきた。
「時たまいるんだが、兄さんは見かけによらず相当の得手不得手があるな。200以上の項目があるうち、目立つところは『魔法』はーーすごいな。火が最大の10、『技能』は投擲が8『技巧』で勉強が5程度だな。その他はまあ、数値に出すまでもないだろう」
「10……って珍しいんですか?」
「一年やって一人か二人見るかどうかってとこだ……大抵は、スキルレベル5程度のスキルが複数あるような器用貧乏型だから、兄さんは完全に特化型だな。投擲が大きいのも火魔法と相性が良さそうだ」
褒められる機会が多くない僕は、いい気になってしまった。低い数値が多いのはあまりに『僕』すぎて笑えないんだけど、尖っているところがあってスゴイ、なんて言われたことは、少なくともここ最近の記憶にはなかったのだ。
「これでアリシアの助けになれるかも」
「ちょいちょい、次はスキルレベル測定の実技だぞ」
「え、数値は出てますし、実技はいらないのでは?」
僕は、全て終わって帰るつもりだった。しかし、スキルレベルの測定は終わっていないらしい。
「実は、さっきの測定は誤差が相当でかいのさ。その分実技試験では正確な数値が出る。だから、実技で本気を出してもらって、気持ちよく正確な数値を出すのが一番てことだ。それに、実技をすれば測定したスキルレベルに『ギルドのお墨付き』が付くから、本来はそれで正式にスキルレベルを名乗れるようになるんだ。どうだい?実技をした方がいいだろう?じゃあ、こっちだ」
マッチョな男はそう言うと、手を勝手に引いて奥の扉の案内を始めた。渋々僕は付いていくと、扉の先は大きな体育館のようになっており、いくつかの面で仕切られているようだった。そして、どうやらその面ごとに測定を行っているらしい。
「スキルは一つしか測れねえから、火魔法の測定でいいよな」
僕は頷いた。しかし、なにそもそもお墨付きをもらって何が変わるかもしっかり理解していないのに、この測定は無意味に思ってしまっていたのだ。
「目の前の魔導石に向けて、方法は何でもいい。全力の火魔法をぶつけてくれ」
そこにはなんの変哲もないテーブルがあって、どこからともなく現れた職員が魔導石を置いていった。そして、マッチョな男はその魔導石へ腕を向けた。その『やってよし』の合図の後、周囲の視線が僕に向いていく。
期待を向けられている感覚……無意識の内に額から汗が滴っていた。
期待に応えられないのはいつものことだ。でも、どうせなら、スキルレベルが高いと言われた"投擲"で魔法をぶつけてみよう。
「行きます」
掌に集中する。右腕全体が熱く感じると共に、掌がほんの少し冷たくなったように思えた。すると、炎の塊が空中に発現して、力を込めると、面白いように大きくなっていく。
「ちょっと、これまずいか」
マッチョ男はそう言うと、俺に静止するようジェスチャーを送る。僕も同じ気持ちだった。ただ、もう止められないとも感じていた。火の玉は既に、濃縮されたサッカーボール大の火炎弾となっていた。手の内に留めておけない感覚。もう、その熱量の塊を維持するのは限界だった。
「ええい、ままよ!」
なるようになってしまえばと、思い切り振りかぶり、火炎弾を放った。そして、机の上の小さな魔導石に命中し――激しい閃光と共に炸裂した。




