第七の障害 暗雲立ち込める宮廷Ⅳ ディークフリド侯国編
コーゼラ子爵夫人の絞殺死体と侯爵家の謎は?
あの子爵夫人の首つり遺体と侯女の暗殺未遂の事件について、侯女の警護宮廷警察隊の聴取は翌日から一人ずつ開始された。
それは当日の行動、そして子爵との関係性、周辺の評判等と多岐にわたり何日にも同じ質問を何度も繰り返して行われた。
貴族達にとって任意の事情聴取は彼らによっては精神的にも肉体的にもダメージは強いものだった。
その場で失神する者、召使に抱きかかえられる者、錯乱しながら出て行く者、困惑して真っ青になって退出する者は数えきれないほどで宮廷が混乱するには十分だ。
そんな日々が繰り返し二週間ほど過ぎた時にそれは突然侯女の元にもたらされた。
「なんですって??」
調査責任担当者からもたらされた情報に侯女は困惑する。
顔色は青白く明らかに動揺していた。
何故ならありえない情報だったからだ。
「侯女殿下。
そのコーゼラ子爵夫人の邸の使用人が自分が夫人を殺害したと自白いたしました」
「…………。ただの恨みというのですか?」
侯女付きの警護警察長官は緊張の為ネクタイを緩めてつかさず侯女に耳打ちした。
「子爵夫人の邸内の使用人に対しての扱いは目に余るほどの体罰があると邸の使用人達が証言しており
ます。
あの者にもひどく暴力をふるっていたというのです。
彼の背中や手足には無数の酷い傷跡があり。
彼はこの夜会でコーゼラ子爵夫人が酔い覚ましの為にバルコニーに出た所を後ろから縄をかけて突き落
としたというのです」
到底信じられない内容だった。
何故なら侯女付きであったコーゼラ子爵夫人は理性的で物静か、アデリアが知る限り召使に横柄な態度をした事など見た事もなく、どちらかというと下の者には慕われている場面を何度と目撃していたからだ。
言葉が出ず侯女は沈黙の後、身体を小刻みに震えだしまるで信じられないといわんばかりに表情が硬直している。
次の言葉が出てこない。
ありえないわ…。考えられるのは犯人サイドが偽装した可能性は?
拳を強く握りしめてながらどうしていいのか途方に暮れる。
「はあぁ~」
自然とため息が漏れてしまう。
「どういたしましょうか?
自白した使用人は現在皇宮の地下留置場に拘束しております」
「そう……。私は会いたいと思いますが、手配してください」
「かしこまりましてございます」
警護隊長は一礼して部屋を去ろうとした時だ。扉の廊下側から大きな兵士の声が聞こえた。
部屋の重たい空気を切り裂くその言葉。
「警護隊長殿!
失礼いたします。
ただいま留置所所長より緊急の連絡あり。
留置していたかの使用人が自害したそうでございます」
二人は顔を合わせ、しまったとばかり苦虫をすり潰した様な表情をせずはいられなかった。
「警護隊長。
とくかく留置所へ。
そして状況を報告しなさい」
警護隊長は再び礼をし、部屋を出て行った。
残されたアデリアはどうしていいやら頭を抱える。
どうしたらいいのか?
糸口は?
何を?
「あっ!!そうだわ。
ベアトリスすぐにラインハルト卿を呼んでいらっしゃい。
そうすぐに」
「侯女殿下かしこまりました」
お辞儀をして一人の侍女が部屋を出て行った。
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クリスティア達は一度警護隊長からの任意の事情聴取を受けた後、宮殿の一室を用意され過ごしていた。
さすがに他国の人間を長時間拘束出来るはずもなく、一週間で宿へ帰る事が出来た。
しかし胸のつかえがまったく取れない。
なんだろう。奥歯に物が挟まった様な変な感じが団員にひろがっている。
そんな時だラインハルト卿が侯女に呼ばれ宮殿に向かった後夜半に帰宅した。
居間で皆が揃うがピリピリした雰囲気が払しょくできない。
人一人が死に、侯女が暗殺しかかったのだ。
ラインハルトは奥歯を噛みしめて鋭い視線で私を見つめる。
「侯女殿下から。
今回の死と暗殺未遂の事件の解明を依頼された。
すでに概要は聞いて、侯女から詳しい宮廷の複雑な人間関係も入手出来た」
「それはよかったわ」
「で…ラインハルト卿。
ディークフリア侯国の内情は?」
「侯爵はあの通り凡庸で保守的だ。
ほとんどの国務を大臣やラッセルナ伯爵に任せてるし、言いなりだ。
「皆の言うとおりせよ」が口癖だそうだ。
侯妃は前妃の双子の妹だがあの通り浪費家で虚栄心が高く、権力欲が強く侯女とも自分の息子とも
折り合いが悪い。
侯子は酒、女、賭博と三拍子そろった出来損ないで。
今回の事件でも自室に籠って出てこないほどだそうだ。
宮廷は概ね三派に分かれている。
侯爵閣下はお飾りだ。
まずは
侯女派の中心
子爵令嬢ベアトリス・ディア・ルーベン
ルーベン子爵の娘。
子爵とは養子縁組で実子ではないそうだ。
子爵夫人ヴィルヘルミーネ・ディア・コーゼラ
今回の犠牲者だ。
慈善活動に熱心で概ね評判がいい
侯妃派
伯爵夫人 アリス・ディア・カイゼル
侯妃の女官長でかなりの堅物で侯妃を戒める数少ない一人だそうだ。
伯爵コンスタンチン・ディア・ラッセルナ
伯爵夫人ルクレティア・ディア・ラッセルナ
評判の悪い例の吾人だな。例の染料会社の経営者だ。
夫婦仲はいいようだ。
男爵 アーロン・ディア・ゲルラー
侯妃の愛人であまり宮廷には出てこず、侯妃の寝室でまるで自分の部屋の様に過ごしているそうだ。
侯子派
子爵令息 エドモンド・ディア・ルーベン
ルーベン子爵の息子で嫡男だが親子仲は最悪だな。
放蕩息子にヘキヘキしているようだ。
子爵令息 ルシュリン・ディア・ロンヴァルヌ
伯爵令息 ロベルト・ディア・シャルディ
まあ若い子息達だが悪友で酒、女、賭博仲間だ。
侯子と年齢の近い若者でルーベン子爵令息以外は次男や三男といって後継者ではない者達で、
侯子にいらぬ遊びを教えては籠絡して金をせびっているという話だ。
この三派が姓の通り、派閥外で血縁者が入り乱れている。
かなり複雑。
つまり誰かがスパイとして潜り込んでいる可能性があるからな。
誰が見方で誰が敵か。
かなり慎重にいかないとな」
「そう。面倒ね。
信頼してペラペラ話したら足元をすくわれて裏切られるか情報を盗まれる可能性ね」
「じゃあ侯女派には俺が護衛目的で探ろう」
「じゃあ俺が色仕掛けで侯妃派に近づこうかな。」
髪をかき上げる何気な仕草でオーギュストが得意げにさらりと言う。
「えっ?」
まあ確かに宮廷では甘いルックス、キャリア申し分ないだろう…。
なんだろう私のこの嫌な気分??
「あぁ。勿論君も一緒だよ。
何せ僕のフィアンセだろ」
「え?
あれって演技だったでしょ!」
「あれ?シャハルバードのあの披露パーティーにはディークフリドの侯爵も出席していたんだよ。
それに君も宮廷に出入り自由だよ」
「あ…まぁ~」
何故かいや…。
確実に嵌められて、言いくるめられている様な気がするもは気のせいかな?
「じゃあ俺が侯子の金銭面での取り巻きになれるように賭博場で接近しよう」
ふっとカミーユの声で意識が戻る。
「皆準備万端ね」
扉の廊下側から聞き慣れた声が響く。
「ヴィッキー!?」
私は大声で彼女の名を呼んで、ドアノブをまわす。
飛びながら久しぶりのヴィッキーに抱きつく。
なんだか変に逞しくなった気がしているのは気のせいかな?瞳が✨として自信と強さがにじみ出て
いる。
「もう。遅いんだから!
待ってたのよ。」
「ごめんなさい。
事情聴取がひつこくて。
犯人が自供してようやく解放されたから。
これでも急いでやってきたのよ取り繕うの大変なのだから」
ヴィッキーはクリスティア達と別れ母方の祖父の姓を名乗り、祖父の推薦でファビエンヌ・ディア・
アルティエン準男爵令嬢として宮廷の侯妃の女官としてに出仕していた。
「無事でよかったわ」
「でっ侯妃の様子や。
あの事件の前後何か変わった事は?」
「寝室から出てこないわ。
例の愛人と一緒にね。
女官長も困っているわ。
でも時々邸宅から宮殿をラッセルナ伯爵夫人が行ったり来たりして騒がしいわね。
侯妃は私室では嘘の様に静かであまり居間にも出てこないし。
たまに取り巻きと茶会をしては庭でおしゃべりしたり。
宝石商やドレスの仕立て屋など招いては物色しているわね。
めったに開催されない夜会では始終あんな感じだからちょっと不思議で。
それと私、侯子にも接触してみるわ。
すごく気になるの。
あの親子関係。
確かに二人は反目しあっているのに時折、見せる侯妃の侯子への眼差しが気になるのよ。
それはあの侯子も。
いいかしら?
カミーユはカミーユで取り巻き達の情報を探ってほしいの」
「ん~。
無茶はしないでねヴィッキー」
「それとマリアは今のところ無事だ。
潜伏者から定期的に連絡がきている」
「ありがとう。あの子を取り戻す為にもラッセルナ伯爵を倒さないと。
侯子とは自然に接触出来るようにやってみるわ。
報告はカミーユを通してするわね」
「ええ了解
明日朝にコーゼラ子爵夫人の行っていた慈善活動の貧民街と市内の様子を探りに行ってみるわ。
何かつかめるかもしれないし!
さあ~じゃあ始動しますか!!」
そんな時に侯女の侍従が宿の主人に手渡した手紙が私達に届けられた。
内容はまたもや驚くものだった。
自責の念に堪え切れず、子爵夫人の使用人が自殺したのだという。
次回派閥間の思惑が交錯して、貧民街でのルーベン子爵の悪行が明らかになるのか?




