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第七の障害 暗雲立ち込める宮廷Ⅲ ディークフリド侯国編 

コーデラ子爵夫人の絞殺死体が発見された。

侯女の暗殺未遂事件、侯爵の発作、そして侯子の錯乱どうなる?

「コーデラ子爵夫人が…。

 まさか!

 先手を撃たれるなんて……」


ルーベン子爵令息は真っ青になって、額には油汗がうっすらと滲み出ていた。

フラフラと寝台でうつろな表情で呆然としていた侯子の前に立ち尽くし、ワナワナと震えだし悲痛な面持ちでいた。


「おい。

 まさかエドモンドお前がやったんじゃないだろうな」


ロベルト・ディア・シャルディ伯爵が疑心暗鬼の目線を躊躇することなく投げかける。

その理由は勿論ルーベン子爵はエドモンドの実父だったからだ。


しかしこの親子関係は当の昔に破綻していた。

いやそもそも親子関係が始まった時にはすでに破綻していたのだ。

子爵は正妻を愚弄し暴言を吐いては暴力は振るわないものの、その言動の刃で妻をメッタ刺しにしていた。

跡取りをもうけるためだけに仕方なく結婚したのだと堂々と妻に言い放った。

その跡取りが誕生した後も息子を可愛がる事はなく、邸にも仕事といってよりつかなくなった。

エドモンドはそんな環境で育ったのだ。

父にいい感情は抱くはずもなかった。

しかも母がそんな糧環境に精神的に追い詰められると病で寝込んでしまう。

父は容赦なく詰るのをやめる事はなかった。

そんな父に憎悪するのは当然の結果といえる。


母が自殺した後は更に関係が悪化し、エドモンドは跡継ぎのいない母方の実家に住み子爵家を出た。


たまに二人は宮廷で見かけはするものの存在を無視し続けていた。

それを知るはずのロベルトの言動だ。

無視する事は出来ない。


「なっ!

 なにいっ…!」


エドモンドはその言葉は激高し、首根っこをぐっと引き寄せて睨んでは今にも飛びかかりそうだ。


「おいおい。

 仲間割れはよせ。

 ただでさえこれから事情聴取だ。

 当分は家には帰れないぞ。

 俺も前侯爵の寵臣であったのに子爵に身に覚えのない謀反の疑いで降格され没落した家だ。

 恨みも強い。

 ここで仲間割れなんてあっちの思うつぼだ。」


ェドガー・ディア・ガディル男爵が間に入り、ロベルトの襟元を掴んだエドモンドの手を巧みに解く。


このがディル男爵もルーベン子爵に恨みを持つ者だった。

若い頃婚約者がいたが、その婚約者の家は身分こそ貴族だが貧しく、もはや娘を娼館へ出さなくてはいけなくなった。

その婚約者を妾に差し出すなら資金援助すると持ちかけてたのがルーベン子爵であり、エドガーはなすすべなく婚約者を奪われた。


しかも数年後ほかに好みの女が出来たとディークフリドでは公妾は一人とされていたため、邸から身重にも関わらず何も渡さす身一つで追い出したのだ。


ディークフリドはまだ保守的で実家に帰る訳にもいかず、ガディル男爵が事実を知った時には婚約者は子供が流れ、人知れず道端で亡くなってしまったのだった。

それいらい男爵は子爵に強い殺意が芽生え復讐すると誓ってきた。

つまり二人とも子爵には激しい恨みがあるのだ。


「はぁ〜。

 けどコーゼラ子爵夫人は本当に貧民街でルーベン子爵を見かけたのか?」


エドガーは襟元を整えて咳払いした後冷静に話そうと話題を戻す。


「ああ。ルーベン子爵を見るコーデラ子爵夫人の様子が異常に可怪しかったから。

 俺から何かあったのか?もしかして貧民街の人身売買課と鎌をかけていったんだ。

 神殿の慈善活動で訪れた先で、あの横暴な父が愛想よく貧民に話しかけていたから目が離せなかっ

 た。後をつけたら人の通らない怪しげな小屋で荷台に何人かの身なりの汚れた子供達を乗せてどこかへ

 連れ去った後、男に金銭らしき金貨を渡していたと言っていた。

 父がそんな所に行く事自体怪しすぎなんだよ。

 コーデラ子爵夫人は侯女派の新興貴族だが。

 俺と父の確執については有名だからな。

 時間をかけて説得してようやくつかんだ情報だが。

 証言してくれる人物を失っては……」


エドモンドのかすれた声は口惜しそうな音を含んでいる。


「まぁ。証言してもらえても、握り潰すだろうな。

 なにせルーベン子爵はラッセルナ伯爵の腰巾着だからな。」


エドガーが軽蔑しているといわんばかりにソファーに足を投げ出しながら吐き捨てように言った。


「こんなことなら。

 巻き込んで。

 殺されて。

 俺が安易に近づいたから。

 せっかく貧民街の孤児を使って臓器売買させている父の罪を問えたのに。」


エドモンドが震えながら後悔を口にする。

柱の傍で佇んで皆の話を静かに聞いていたルシュリン・ディア・ロンヴァルヌ子爵令息が低い声で言った。


「…まずしばらくは動かない事にしよう。

 でないと足元を掬われる。

 せっかく無能な侯子の取り巻きというレッテルを逆手に取って、宮廷で悪行を行っているルーベン

 子爵を陥れる計画がおじゃん。俺達の命だけではすまない。

 まあ気持ちはわかる。慎重にいくのがいい。

 あんまり気にもむな。夫人は今回こういう目に合ったのは多かれ少なかれそのうち狙われたさ」



「我が家もラッセルナ伯爵の反感をかって降格させられた家ですから。

 彼らも焦る気持ちのわかります」


ルシュリンはため息をついた後侯子の傍に立ち被った布団越しに言った。

「侯子殿下。

 後は……しばらく静かにしておくのが得策です」

駆け寄って肩を抱いて気持ちを落ち着かせるように言った。


侯子の肩が僅かにゆれたが、それはにしかわからない程度だった。

侯子の両手はその腕を強く握りしめ震えながら離さない。


「こ…こん…なぁ……助け……くれ………ルシュリン……」


悲痛で力ない声が吐息のようにルシュリンに抱きつきながら呟く。

ルシュリンは何度も頷く様に侯子を宥める様に抱きかかえた。


「侯子殿下。 

 私にお任せを」


ロベルトとエドモンドの二人は口に酒を含んだ後、それを暖炉に吐き出し、そして項垂れながら侯子の奥の寝室から重い足ででていった。

二人はこの後に待ち構える事情聴取の事を考えただけでも憂鬱な気分をどうする事も出来ない。




**********************************************



最初に侯爵の寝台に現れたのは侯女だった。


「お父様」


侯女は震える声で寝台に力なく横たわる父に話しかけた。


内心は動揺して取り乱しそうになるのを必死で押さえつけ我慢している。


父の瞼がその声に反応するかのようにピクリピクリと動いた後にそれはゆっくり開かれた。


「アデリア?」


少し心もとないが父の力ない声が聞こえ、胸を撫で下ろし肩を震わせた。

自然と涙が溢れるのは止められずにはいられなかった。


「よかったお父様」

そう呼ぶのは何年ぶりだろう。

幼い時はそう呼んでいた。

あの頃が懐かしくもあった。


「よかったわ。

 お父様。

 しばらくはゆっくりされて…」


そう言いかけた時に乱暴に扉が開かれた。


「閣下!」


侯妃が青ざめた顔色で慌てて寝台に駆け寄る。


「イザベラ。

 心配をかけたな。

 ……驚いて…しまっ…てな。

 コーデラ子爵夫人は?

 子爵と共に礼拝堂に安置しております。

 検分までは子爵家には預かるとお伝えしておりま

 す」


「そうか」


「申し訳ない事だ……。

 とにかく何があったか。

 調査しないとな」


「お父様。

 その事は私に一任くださいませ」


「えぇっ?」


傍にいたイザベラが娘の唐突な願いに思わず声が漏れた。


侯爵は一瞬眉間に皺を寄せ神妙な面持ちでしばらくの沈黙の後口を開く。

「何か、思う所があるのか?」


「いえ。

 原因は検討もつきません。

 ただ彼女は私を慕ってくれていましたし。 

 大切な臣下の一人です。

 自殺か他殺か。

 どちらにしても真相を明らかにしなくては。

 臣下とは関係に悪影響があると存じます。

 是非とも」


「……。わかった」


「ありがとうございます侯爵閣下」


アデリアはスカートの裾を抓んで礼をし、振り向きざまに母親の侯女に耳打ちした。


「私が狙われた事は閣下にはまだ内密に。

 お父様にこれ以上負担にはさせられませんから」


イザベラは呆気にとられ、かける言葉がなかった。


バタッッ!!


大きな音をたてて扉が閉まる。

その後の静けさがイザベラには無音の抗議の様に感じ、胸の奥が掻き立てられる。

少なくても自分は侯妃で宮廷の女性を統括するのは侯女ではなく自分の役割であり特権のはずだ。


本来の権限を取り上げられたという事実は貴族の中で話題にのぼるだろう。


諦めに似た失望がため息となってしまう。


「………すまないな。

 本来宮廷の女性達の事は君が管轄する事だが。

 何せあの子は一度言い出したら引かない子だ。

 今も昔も……。

 あの子が男子でありさえすれば私もどんなにか気

 が楽か。

 侯子があのような様では…。

 本当にあの子が長子か男子ならばこの国の憂いも

 なくすぐにでも譲位するのだが。

 宮廷が騒がしいのは私の不徳のいたす所だ。

 私がしっかりとしなくてはいけないのに。

 家族さえ纒められぬ。

 愚かな私を許してほしい」


侯子はイザベラの双子の姉であり侯爵の前妻だった。

結婚前は身体が丈夫で病気もほとんどしたことがなかったが、侯子を出産後に病弱になり寝込む事が多くなり、まだ乳飲み子の時に逝去した。

その後まだ嫁いでいなかった妹に継妻の座が回って来たのだ。

まだ乳飲み子の息子に血の近い人物なら任せられるという侯爵の意向だった。



イザベラは侯爵にそう言われては反論することは出来ない。

言いたい言葉を押し殺し消滅させる。


「閣下今は身体を労る事が先決でございます。

 宮廷の混乱は私が鎮めます。

 どうかお疲れでしょ。 

 しばらく政務をお休みください。

 今閣下の手をわずらわす案件はなかった事が幸い

 でございます。

 大臣らの奏上は私が伝達いたします」


「では頼んだよ」


「はい。お任せくださいませ。

 まずは健康を取り戻しどうかお休みくださいませ」


イザベラは今回の事件であの子が暗殺しかかったのだそれも仕方ない。

心に思う物を更に深い胸の奥にしまい込み鍵をかけた。


侯女は私室に戻り、今回の事件の真相をどのように調査するか思案を巡らせている。

どう考えても一筋縄ではいかない事は十分に理解出来るだけに今後暗雲立ち込めるのは間違いなかった。

アデリアはどのように調査し解決できるのでしょうか?

次回ご愛読宜しくお願い致します。


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