第二の障害 海賊と遭遇して命の危機Ⅲ 航海編最終回
終わらない海賊との戦い。
遂に海賊の船長が登場!
船上の戦いは最終局面に!
海賊の一人は常軌を逸し血に飢え、俊敏な狼のような俊敏な動きでジョルジュに剣を振りかざす。
ビューン~
ビューン
海賊の大剣が空を舞って風を切る。
ジョルジュに狙いを定めた。
ジョルジュの構えは隙がない。
突風に前髪が靡く頬が熱くなっている。
海賊のその突風の先にある剣はすでに他の者の血が滴り落ちている。
今度はジョルジュの生を阻もうとした。
シュッ! シュッ! シュッ!
ジョルジュの剣が鋭く空を切る風を起こす。
カキーン!カシャ!カキーン!!
刃が重なり合う。
慢心の力を込めて相手の剣をねじ伏せあっている。
ギッ! ギッ! ギッ!
拮抗する力があまりガード部分が擦り切れあう。
一瞬ジョルジュの剣が海賊のそれを上廻って、角度を変え相手の剣を揺さぶるジョルジュ。
汗が飛び散る。
一気に相手の剣を跳ね除ける。
海賊の剣は大きく高く上に旋回しながら、空が剣を飲み込んだ。
ジョルジュは瞬殺で相手の懐に入り、隠しもった短剣で確実に完璧に心臓を捉える。
グサッ! グチュ!
肉の感触がジョルジュの手に伝わる。
ゲボッ! ゲボ! グッ!!
中で炸裂する血はその邪悪な海賊の口から塊となって吐き出される。
そのまま動かなくなる。
ズルズルと足元へ落ちていった。
ジョルジュは流れる血を振り払うように剣を空を切った。
荒い息使いが死闘を物語っていた。
となりのカミーユの相手は小人と思うくらいの身長だ。
獰猛そうな顔つきでカミーユを喰い殺すような目つきで迫ってくる。
すり足でカミーユに近づく。
小剣をまるで突風の様な速さで巧みに動かす。
小柄さを活かしたすばしっこさに、カミーユの頭はどうしていいか混乱している。
カミーユはギリギリの所で相手の剣をかわしといるものの、あまり実戦経験のないせいで体力の消耗は激しい。
肩で大きな息を何度もつきながら、その限界が近づいてきた。
よし。
もうあれを出すしか……。
カミーユが胸ポケットから小さな光輝く玉を取り出した。
「目を閉じろ」
カミーユが叫ぶと同時に海賊めがけ投げた!
瞬間
白くやや黄色の発光が出現
あっという間に一瞬だけ海賊は動きを止た。
瞳を閉じた。
カミーユはすばやく胸ポケットから短銃を取り出すと、光の先にある邪悪な海賊めがけて引き金を引いた。
カチャ!
バンンパンッ!!
確実に銃弾は海賊の肺を貫く。
「グワッツー!!!」
大きな口からドッと流れ大量の流血が床にぼたぼたと落ちていく。
瞳孔が完全に開き切り床に大きな音を立てて崩れ落ちた。
しかし安心できない。
まだ加勢した海賊達が二人に挑んでいるからだ。
二人に私達の加勢する余裕はまったくない。
自分の身は自分で守るしかない。
護衛の兵士は私達の背後を守ってくれるから大丈夫。
エレーヌと顔を合わせ頷く。
大丈夫。
自分にいいきかせる。
生暖かい潮風が身体に纏わりついて離れず、いいようのない緊張感と興奮が最高潮に達している。
海賊は私達を食い入るように。
舐めまわすように。
これから起こる戦いを制し私達を欲望と邪悪なの泥に汚そうと迫ってくる二人の海賊。
一人は身体中切り傷だらけ。
顔に大きな稲妻の様な傷が恐ろしさを増幅させる。
ボサボサの髪が不潔さ陰鬱さ陰湿ながにじみ出て、ヘラヘラと笑いを浮かべ余裕綽々だ。
長い歪曲した大鉈をまるでおもちゃのように、軽く手元でクルクルまわしながら言った。
「お嬢様。
儂が面倒を見てやりましょう。
えへっ……へへ…」
明らかに視線の先にはエレーヌがいる。
もう一人は顔にケロイドの火傷痕があり、鬼のような形相で私に向かって猪の突進で小走りに突進してくる。
一回り大きな剣は鈍い光を宿しながら私を貫こうとしている。
「楽しませてくれ!」
剣を両手で構える。
タッタッタァ……。
私も駆けだす。
風が私の腕を足をまるで後ろから支えるように、その海賊めがけて突風になり突っ込んだ。
師匠の言葉を思い出しながら呼吸を整えながら。
「力で押すな。
相手の力を利用しろ。
無駄な動きをするな。
相手の理性を潰せ。怒らせ。」
大丈夫。
だって帝国一の騎士の師匠の弟子だから。
だってこの剣は帝国一の刀鍛冶師の傑作。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
相手の大きなぎょろりとした窪んだ瞳に醜悪が渦を巻いて私を凌駕しようと待ち構えている。
不敵な笑いを口元に漂わせながら、嫌らしくよだれを垂らしている。
完全に舐めている表情。
海賊が片手で剣を投げおろした。
ビューン ビューン ビュー
頬に剃刀の様な風が吹く。
寸前で身体を斜めに剣を避ける。
その剣に上へと刃で払いのける。
シュッ! シュッ!!
よし!
力はいらない。
相手の剣が。
ビューン! ビューン!
再び海賊が左右に剣をふり、私の重心を揺さぶる。
ふん。
そんなの想定内よ。
体幹はしっかりと鍛えている。
そんな単純にブレない!
シュッ シュッツ シュー!!
鋭い剣の撓る音が。
直線の刃はその手の中でまるで龍の様にしなやかな動きで相手を惑わず。
海賊の剣が振りかざされる度にギリギリの角度でかわす。
シュッ。シュッ。
海賊の剣が空回りしてる。
空を切る。
剣先を軽く弾くだけで、相手にしていないと思わせて憎悪を誘う。
身軽なのが最大の武器。
剣をかわしながら、舞うように空を飛ぶように。
空で遊ぶ。
思いのほか思うようにいかない海賊は焦り始め、汗だくになり息もあがっているようだ。
さすがに相手も剣を両手でかまえ始め、渾身の力で剣を振りかざす。
「こんな感じですか?
意外と大したことないですね」
笑いながら相手を挑発して素早く舞う。
剣と交わるのも最小限で、身体の動きをしなやかに。
空を飛ぶ。
空に舞う。
流石にこれには顔を真っ赤にしてメラメラ燃えるような狂気を向け始めた。
「てめ~~~。ぶっ殺す。
切り刻んで鮫の餌食にしてやる!!!」
満身の力を剣に込めて猪の突進してくる。
流石に力まかせに剣を大きく振りかざし、私に迫ってくると。
あぁ~~まずい。
何度も剣を振り払い続けて、遂に相手の動きに引きずられてしまい。
「やっ!」
しまった力をまともに受けてしまい、手元が狂い剣を落としてしまった。
「残念だ。お嬢さん。
楽しませてやりたかったのに」
海賊が大きく剣を縦に振りかざした時、後ろの警護兵士が私に剣を投げつけた。
高く空中に投げだられた剣。
とっさにそれを取る。
「やア~~~ぁ」
私はデッキの柵に足を蹴り上げて空中で一回転し海賊の背後にまわる。
海賊の広い背後が目の前にある。
躊躇なく背中の心臓をめがけ一分の狂いもなく正確に貫いた。
「グッ………グアワ~~~~~~~」
刀が海賊の邪悪な体内にずしっと入っていく。
肉の、骨の生きている証の中へ。
私の手に中に生を切り裂く生々しい感覚が流れてくる。
背中から血が噴き出し断末魔の雄叫び。
「ギャ~~~~~~~~~~」
あっという間に海賊は息切れ、糸の切れたマリオネットの様に床に崩れた。
私は無心状態で、放心状態で立ち尽くす。
空気になったような。
身体が。
生が。
生き残ったけれど感じない。
剣は血だらけので生温かい血が一筋流れていた。
「はア~~」
言葉にならない言葉が口から出る。
「あ!!エレーヌ!!」
正気に戻った瞬間、私がいたデッキに目線を移すと、ニコニコとこちらに手を振るエレーヌがいた。
もう!
そう思った瞬間に思わず、全速力でエレーヌの元に行く。
ここが戦いの場だというのに。
お構いなしに。
タッタ ッタ タッタッタァ~~。
走ってエレーヌの元に。
「わあ~~~~~」
何故かエレーヌに抱きついた時、瞳から涙がドンドン流れ始め止まらない。
「わぁぁぁ………」
そう怖かった。もう死ぬかと思った。
人を初めて殺害したのだ。
命の危機だったとはいえ。
「わあぁぁ~~~~~~~」
エレーヌが私を力いっぱい抱きしめる。
しかなたいのよ。
生きるんでしょ。
そう言ってくれているようだった。
隣で兵士が束の間の暖かい様子に緊張感を緩める事なく見守ってくれている。
「お嬢さん達!!
もうちょっとだ!」
隣のデッキで戦うラインハルトの声が聞こえた。
そちらに目線をやった時だ。
そのラインハルトの方向に太い縄がまるでしなやかな大蛇の様に波打つ何かが空を飛んでいる。
蛇?いや龍か?何?
何かが?
太陽の逆光で姿は見えない。
細い黒い物体?
それは空を自由気ままに揺れながら空を遊んでいた。
「ラインハルト!
久しぶり。
今度を最後にするわよ」
「え??人?えっ?」
その黒いと思った物体は丸くクルクルと宙を廻りながら落下する。
ラインハルトのいるデッキに着地。
「あぁ~エメラディーヌ
お嬢さんの遊びにはいい加減かまってらんないぞ」
というと?
エメラディーヌ号と同じ名前??
ラインハルトは剣のグリップを強く握り、姿勢を低く構えている。
ラインハルトの目線の先には。
女性?
そう女の人だ。
二十代後半だろうか?
背の高い、すらりとしたしなやかな手足、鍛えられてはいるが女性らしい体つき。
やや焼けた肌が健康的で、長いライトプラチナブロンドは太陽の光に同化して神々しい。
その瞳はハシバミ色で艶やかな切れ長な目元は全ての物を焼き付くそうとする熱も感じられた。
「いくよ!!ラインハルト。
今日こそは決着をつけよう」
嬉しそうに長い剣を両手で構え、ラインハルトに照準を合わせて突進していた。
美しい大鹿?
しなやかで光沢のある野生の神々しいまでの女神ディアの下僕にして森の守護神のような。
私は自分の命の危険よりも二人の戦いが興味深く息をするのも忘れて見入ってしまう。
ラインハルトはふっと笑ったかと思うとニヤリとその声の主に言った。
「今日は本気出すぞ!」
空気が凍る。
他だれもいないような、スローな時間軸が二人を飲み込んでいるようだ。
他の戦いの音は生は死は聞こえない。
存在しない。
光の速度ほどの素早さでエメラディーヌの剣がラインハルトの剣を捕らえる。
カシャ―ン!!カシャ!!カシャ!!!
金属の重なり合う音、摩擦で火花が飛ぶ。
なんて二人一度見ただけでわかる。
二人相当な使い手だ。
エメラディーヌは身体全体で渾身の力でラインハルトを押している。
「あいかわらずやるね。
ラインハルト。
またなんでお嬢さんの暇つぶしにお付き合い?」
エメラディーヌは血走った瞳で、少し余裕があるのか懐で剣を組し動けない状態で言った。
ラインハルトはやや斜め目線使いで諦めたような顔でぼそりと言った。
「まあ。
そろそろ熱いのも悪くはないかなとね」
ガシャッ! ガシャッ!
更にエメラディーヌは剣の角度を変えて剣を左右に振った。
「へぇ。珍しいな」
お互いの剣が離れる。
「あいかわず、いい腕だな。
本当に殺すのはもったいない」
ラインハルトが残念そうに言った。
「誰が殺すって?」
ハシバミ色の瞳が冷たく光る。
その光に鈍い殺気が漂う。
ビューン!
エメラディーヌが大きく剣を振る翳そうと風を切った時だった。
「船長!
この先岩場が!
座礁の危機。
船長!」
海賊船から大きな叫び声が聞こえる。
「呼んでるよ。エメラディーヌ!」
ラインハルトが楽しそうにちゃかす。
「ふん! チッ!!
皆撤収だよ!」
エメラディーヌは降りてきた縄につかまりデッキの柵に跨り、一蹴りして龍の如く再び海賊船に戻っていった。
他の生き残った十数名の海賊も我先に自分達の船に退散していった。
「船が座礁しそうだ。
船長!危機回避」
ラインハルトが叫ぶ。
そう戦いは終わった。
ふっと安心したら、また涙が流れ続いて泣き終えない。
「WAWAWAWAWA~~~~~~」
全てが終わった。終わった。
緊張感からかエレーヌに抱きついてワンワン涙が後から後から流れていく。
エレーヌもつられて号泣し始めた。
「わあ~~わあ~~~わあああぁぁぁ」
泣き声が空を切り裂く。
その空の切り裂いた隙間から何が出て来たのか?
今はわからない。
海賊との戦いの後ようやく初めての外国シャハルバート共和国へ。
どんな事件が?待っているでしょうか?
次回お楽しみに。
ご愛読ありがとうございました。
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