表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/91

第七の障害 クリスティア商団の大勝負Ⅸ ディークフリド侯国編

クリスティアの次に大きな事件が勃発。

女達の争いに収拾はつくのか?


「マルグリット!

 お兄様が!

 お兄様が私に謝ってくださったの。

 お前に苦しくて辛い消えない人生の重荷を背負わ

 せてしまったって。

 悪い兄だったって。

 これからはきちんとした生活をするから。

 酒も煙草も女もやめる。 

 私のお給料も自分で使ってくれって。 

 クリスティアさん達の賃貸料で十分やっていける

 し。

 これからの事はカミーユが相談に乗ってくれるっ

 て。

 領地運営もなんとかなりそうだって。

 マリアにも酷い事を言って、酷い目に合わせてい

 る。

 マリアも取り戻すって。

 お兄様が!

 以前の優しいお兄様に戻ったの。

 クリスティアさん達のおかげよ。

 ぁぁ〜なんて幸せ。

 兄妹揃って暮らせていけるようになるなんて夢の

 ようだわ。

 ありがとう皆さんのおかげよ。

 これから頑張るわ。

 今これ刺繍もやっているの。

 ドレスに草花の模様をさしているのよ。

 素敵に仕上がれば輸出出来るかしら。

 とっても楽しみ。

 本当にありがとう。

 夢の中にいるようだわ」


私が工房へ一緒にいこうと、ヴィッキーの部屋を訪ね扉を開けた。

開口一番聞こえて来たはりのある声。

ヴィッキーは私の手をぎゅっと握りしめたまま、興奮して喜びを爆発させている様子が微笑ましい。


「よかったわね。

 これからガンガン作品を製作してもらって。

 輸出していけたら、もっと皆の収入が増えるわ。

 貴族向け、中産階級向け、大衆向けとね」


「わぁ〜。

 楽しみだわ。

 趣味にしかなかったの。

 嬉しい」


ヴィッキーの刺繍を刺す手がリズミカルにすすみ、瞳に希望の光がキラキラと輝いている。


初めてあった時にはこんな姿を見れるなんて信じられなかった。

きっと彼女の将来は明るい。責任を負えたようにほっと胸を撫でおろす。


クリスティアの発想には本当に驚く、娼婦時代顧客の多くは金や宝石で人を釣ろうとする者も多く、商人なんて最初は利益だけを追い求めるただの卑しい連中だと思っていた。


でも社会にこんなに貢献できるなんて素敵だと思う。

この商団に入団しているのが誇らしい。


そんな充実したひと時を切り裂く声が突然耳をきっさく。


  

「……なんだって!………あんた達は短時間で…」


「……それはそっちの手が遅いからでしょ…」


「なんだって…ふざけないで…」


「ふざけてるのは……だったくせに」


突然複数の怒鳴り合いの声が聞こえてきた。

二人はその声の聞こえる部屋へと足早に移動する。

それは工房の作業部屋から聞こえた。


ガチャッ!

何事かと慌てて合図もせずにマルグリットがドアを開ける。


バシッ!!

強烈な破裂音。


と工房で働くサアシャが手を下げ、怒りのあまりその手は小刻みにガタガタと震えている。

なんとかスカートの端を掴んで二発目を我慢していたが、アンヌに軽蔑と憎しみの炎を瞳に滾らせている。


アンヌ真っ赤になった頬を手で押さえながら、サアシャを殺気に満ちた目で睨んでいる。

どうやらサアシャがアンヌに平手ビンタしたようだった。


二人の後ろにはそれぞれが指示する工女が二派に分かれ、相手に威嚇している一触即発の雰囲気だ。


恐る恐る二人に近くづくと、すぐにサアシャが私達に気づいて駆け寄る。


「ヴィッキー!

 酷いのよ!

 アンヌったら!

 貴方達は貴族の品位を乱したって。

 娼婦だった人と同じ空気を吸いたくない!って」


必死な顔で不満を切実に口にした。


サアシャは瞳に涙を浮かべながら顔中を真っ赤にして、手が小刻みに震えている。

ヴィッキーが軽くサアシャを抱きしめた。


「……。

 これはいけない」

私にははこの手の会話には慣れッとだったが、その相手が元娼婦が貴族なら話は違ってくる。 


一番触れたくない部分にダイレクトに鋭い矢が放たれ心臓を貫らぬかれた。


決定的な両者の争いになるのは必須だといえる。

どうしていいのか途方に暮れる思いが私の心に影を落としている。


ヴィッキーも青ざめて口元はきゅっと固く結ばれて言葉に困っている。

それでもなんとかサアシャの手にそっと重ねた。


私は冷静に話を聞こうと思い、アンヌに静かに問いかけた。


「……アンヌ。

 最初の諍いはなんなの?」


つんと顔を前に出して自分は悪くないと言わんばかりの顔で私に訴えかける。


「彼女達さっさと作業を終えていて、どうせ適当に編んでるだけだわ。

 私達は完成まで懸命に時間を惜しんで作っているのに。

 簡単な作業で私達より高収入なんて信じられないわ。

 こんなの不公平だわ。

 それを言ったら私達の技術が低いから。

 なんて言うから!」


目を大きく開き、部屋中に響くような大声で訴えるアンヌ。

私は吐息の様なため息を吐いてから、編み終えたレースストールや刺繍の入ったハンカチを手にした。


それぞれ個性的な作品ばからだが、技術の差は歴然だった。


一つは上質の絹に複雑な模様と色のコントラストが美しい芸術品といってもよいストール。

明らかに貴族向けの商品だ。


一つは花と蝶の模様が端に刺してるハンカチの山が出来ていた。

これは木綿で大衆向けの商品だった。



他に目をやるとレース編みの束が縛ってある。

繊細な細い絹糸が絡み合い綺麗で繊細な草模様と花の刺繍がつけてある。


その横には単調な文様の連続したレースのリボンの束があった。


「どれが誰の作品か教えて頂戴」

私が冷静にアンヌに問う。


「これとこれは私達()()()()()の作品よ」


侍女チームって何?

そんなチーム設定してないし。

私が呆れた顔で訴えかけている。


「こちらは私達の()()()()()()()の作品です」


お願いサアシャ乗らないでと、私の顔がそう言っていた。


「…………いい。

 アンヌ。

 技術の差は歴然としているわ。

 残念だけど。

 貴方達の作品よりも貴方達が言うサアシャ達の()()()()()()()()()()の方が利益率が高い。

 売れる価格が高いほど、利益率は高くなる。

 市場の原理ね。

 もし彼女達と同じだけの報酬が欲しければ方法は二つ。

 一つは腕を上げて高額作品を製作するか。

 二つ目は薄利多売で大衆向けの作品の量を増やすかよ。

 でも皆の腕を上げて多様な商品を輸出する事が出来るなら商団の利益になるから。

 一度クリスティア団長に相談するわね。

 だからお願いいったん私に任せてくれない?」


アンヌは痛い所をつかれたとばかりに顔がゆがみ、納得はいってなさそうに苦虫をすり潰した様な表情で固まっている。


「…私に任せて頂戴お願い」


サアシャ達は納得したかの様に頷く者さえいたが、アンヌ達は皆アンヌの表情をチラチラと見てはコソコソと何かを話している。

当のアンヌもだまりこくって、不満は口にしないがその表情からも納得したようには見えない。


「今日は作業を始めて頂戴な。

 お客様が貴方達の作品をお待ちよ」私はそう言って、一旦収拾を図った。


最年長と元娼館の女主人としての貫禄を見せつけ、一旦工房は表面的には落ち着いた様に思えた。


しかしその二日後事件は唐突に起こる。


なんと侍女チームが工房の作業場に立て籠もりでてこなくなったのだ。


いわゆるハンストだ。


道具や器具が必要なため、簡単な作業しか出来なくなった工女達はクリスティアの執務室に集まって助けを求めてやって来た。


「こんなんじゃ。

 報酬にさしさわります!

 早くあの人達を部屋から出して!」


サアシャは私の机を強く叩き、悲痛な声で訴える。

後ろには作業場を占領されて解放を訴え賭けに来た工女達が仁王立ちでいる。


私はこの手のトラブル苦手です。

あっちを取ればこっちがたかず、こっちを取ればあっちが……面倒だわ。


「マルグリット!

 どうなの?

 一番の打開策は?」


「私の貴方達の腕が劣るっていう発言にキレたって印象。

 でも真実だし。

 あれでも高収入となるとレベルの高い仕事をしている子達が納得出来ないでしょうし」


工女達は皆何度も頷く。


私もそう言うと打つ手なしと途方に暮れている。


「とにかく私が作業場に行くわ。

 皆は休憩所で出来る作業をしていて」


ザワザワと騒がしさの中で、一人話し始める者がいた。

ソフィアだ。


「私の家に以前小間使が使っていた刺繍台がいくつかあります」


「なら私とオルガ、キャサリンと行きます」

ヴィッキーは進んで名乗りでた。


「勿論よ。

 一件落着したら急ぎ伝書鳩飛ばすわね。 

 そちらも製作に目処がついて納品出来るようになったら知らせて」


「はい。

 宜しくお願いします」


三人は支度をしてすぐにソフィアの家に向かい足早に屋敷を出た。


私はクリスティアと二人、潜居した作業場に駆けつける。


部屋からはガヤガヤと人の声が聞こえてくる。


私は扉を強く何度もノックして叫んだ。


「貴方達なんで潜居しているの?

 話し合いましょう。

 理由と何をしてほしいか。

 教えてちょうだい」


「……」


途端にし〜と静かになる。

〜もぅ〜〜


「…あんないい方しなくても……。

 私達がいけないみたいじゃない」


それってただのだだこねてるだけじゃない。

やめてよいい大人が。

と叫びたかった。

でも我慢しなきゃ。

これ以上こじれたらもっと面倒くさい。


「だから、働きやすい環境にするから。

 なにかあるなら言って頂戴」


「一生懸命してるのに」


「わかった。

 知ってる。

 だから訓練学級作るから。

 なら技術が向上して報酬は上がるわ。

 そしたら生活にゆとりが出来るじゃない。

 ねっ!

 私は貴方達が必要なの。

 ねっ!

 素敵な作品をいっぱい作って見返したらいいじゃない。

 ね。アンヌ皆お願い!!」


しばらくして扉は静かになり、向こうから話し声が漏れる。


どうにかなるか?


期待したその時。


「今日は考えときます」


えぇ〜〜。


「食事は?

 扉を開けて食事を出すから!」


「大丈夫っです。

 用意していますから。」


長期戦覚悟か!!

やられた!!


扉越しにクリスティアと二人しばらくの放心状態からなかなか抜け出せない。

なんせ納品があるのだ。

たまらない〜〜。


「たのむ!

 ヴィッキー達の作品を待つしかないのか??」


誰か!収拾してこの事態を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ