第二の障害 海賊と遭遇して命の危機 航海編
航海中に嵐に遭遇したクリスティナ達。
なんとか災難を乗り越え出来ました。
しかし次に第二の障害が。
突然現れた海賊船にクリスティア達は戦闘態勢に。
激しい戦いの中で、相手の海賊の船長はラインハルトと訳あり?
無事に航海出来るのか?
ようやく気持ち悪さから解放されて、エレーヌと大笑いしながら二人部屋中の窓という窓を開けて異臭を飛ばす。
深呼吸して一息つくと初夏の潮風が頬を叩い、太陽の日差しが燦々と照りつける。
晴れやかな朝に清々しい気持ち。
昨日が嘘みたい。
二人顔を見合わせて、ニコニコしながら腕まくりすると端に置いてあったバケツと雑巾を手にした。
皇女と伯爵令嬢だった頃には考えられない。
下女がしていた作業だ。
今自分の部屋をかたずけようとしている。
侍女や召使がしていた作業を思い出しながら、一つずつ元の場所へ移動させて。
バケツに水をはって雑巾で床を拭く。
嘔吐物だらけのシーツを取り払い、部屋中に匂いを消すための香水を吹きつける。
ひらひらといい香りが異臭と交わり鼻からいい匂いなのかいやな匂いなのか??
全然わからなくなる。
シーツは海水につけてみんなの洗濯をしてくれる担当さんに手渡しした。
半笑いで受け取ったメイドは「今日はシーツバッカだよ」と嫌な顔を一つせず、笑って言ってくれたので罪悪感も薄れる。
後は綺麗に床拭き。
二人競争で腰を浮かせてダダッ……。
ダダッダッ……。ダダッダッ……。
「勝った」
「負けた」
キャッハァ~~ キャッハァ~~ キャッハァ~~
「勝った」
「負けた」
キャッハァ~~ キャッハァ~~
「勝った」
「負けた」
キャッハァ~~ キャッハァ~~
途中で転げて二人ケタケタ笑いながら床に寝そべった。
汗だくになりながらドレスの裾が汚れようが、裾をひっかけようがお構いなし!!
楽しい~~
「エレーヌ最高~~本当に自由って最高」
隣のエレーヌもケタケタ笑って私をキラキラした瞳で見ている。
「ありがとうクリス……ティア
クリスには本当に助けてもらってばかりだわ。
学生時代から私は出生のせいで友人を作らなかっ
た。
私からわざと避けていたし、歩み寄ったりしなか
ったわ。
だって。心を許して私の事をしって軽蔑されて辛
くなるのいやだった。
だから学院で悪役令嬢を演じたわ。
いっそ嫌われた方が楽だもの。
でもクリスは違ったわ。
私も皇女様様だから無下に出来なかった。
最後まで変わらずにいてくれたわ。
他の人とはうちとけなかったけど。
いいのよ。クリスがいれば。」
エレーヌが私の上に覆いかぶさったと思ったら頬にキスしてくる。
「おっおも~~~~い」
「きゃきゃは……」
少女というか子供っぽい時間は突然終わりを向かえる。
ラインハルトが部屋越しに大きな声で呼んだから。
「はやく…早く甲板にくるんだ!」
その口調に事の重大さが垣間見れる。
私は喉の奥唾をごくりと飲み込んだ。
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エレーヌと部屋を出てると、待っていたラインハルトと甲板を目指す。
いつもと違うラインハルトの様子に胸騒ぎがして、胸の中で不安が溢れ出す。
「何があったの?」
小走りにラインハルトの後ろから話しかける。
ラインハルトの大きな背中はなんだかいつもより前かがみになっているように見えて、無性に不安感が掻き立てられる。
隣のエレーヌも普段とは違うラインハルトの様子に戸惑っている顔をしている。
その原因は甲板に出た瞬間明らかになった。
マストの上の方でいきなり大きな叫び声が聞こえてきた。
声の主の緊張感が伝わる。
「直線五K西南西の方向
海賊船 エメラディーヌ号発見!
防御されたし。
また四K西北西方向に濃霧発生!
注意されたし」
船員の全員がその声の方向へ目をやるが、まだ見えない。
双眼鏡で確認しているようだ。
「まずいな」
船長がボソッと言った。
五十代後半だろうか?
左目に大きな切り傷があり黒い眼帯をつけている。
見えている方の目つきが鋭くこの災難がいかに危険か悲惨か想像すれには十分だった。
大柄で海の男らしく筋肉質な身体をしている。
見た目に屈強というよりも冷静で知的な雰囲気もあり、私が持つ船長の印象とは違った。
「どうまずいの?」
私が思わず聞いた。
「その海賊船はかなりの実力があってな。
襲われたほとんどの商船は根こそぎ持っていかれ
るだ。
とにかくこちらも武装しよう。
荷を奪われる訳にはいかない」
ラインハルトはつかさずそういうとすぐに皆に指示をする。
「皆!武装の用意だ」
甲板にいる全員は待ってましたとばかりに、次々に木箱の中の武具を出し装着し始める。
ただの船員保険かと思ったらどうやら違うようだ。
動きが俊敏すぎる。
あの動作は訓練しないと出来ないレベルだと知っています。
「お嬢さん達。
それなりに戦えるよな」
ラインハルトは当然とばかりに視線を向ける。
「当然でしょ。
実践経験はないけど。
帝国一の騎士団長の弟子ですよ」
得意げに私は言い放つ。
「私も剣術は取得済です」
エレーヌも続く。
「とにかく二人の護衛をつけるから。
背中は見せるなよ。
船長俺に案がある」
そう言ってラインハルトは船長を船首に引っ張っていってしまった。
「皆!武装しましょう」
五人は急ぎおのおの部屋でドタバタと装具をつけたり、剣を振ったりガチャガチャと雑音が聞こえてきている。
やるっきゃない!
大きな不安を無理やり振り払い、まだ新しい剣を手にする。
帝国一の鍛冶師に依頼して作ってもらった私だけの剣。
帝国一の騎といわれた師匠から学んだ技。
大丈夫。
大丈夫わたし。
自分を強く強くいいきかせ押し押せる不安の火種を無理やりに消していく。
「本当に大丈夫か?
あの辺は岩礁が多い、座礁したら終わりだ。
助けがくるからわからないんだぞ」
船長は血走った目でラインハルトに言った。
ラインハルトは目をつぶり、手を顎に乗せてしばらく無言だったが。
静かにその口元が開く。
「船長。
この辺の地形は熟知しているはずた。
あんたの台詞とは思えないよ。
あっちもまさか、大勝負は挑まないはずだ。
絶対に略奪される訳にはいけないんだ」
ラインハルトはそう言って、船長の自尊心に火をつけた。
そう海を知り尽くしているから出来るだろ。
逆に言うと出来ないのは海を知らないと言っているのだ。
船長はもう出来ない。
案に反対とは言えない。
自尊心にかけて。
「しゃあないな。
お〜い!西北襾に進路をとるぞ!
最速で面舵いっぱいだ!」
船員達は一瞬顔を歪ませるが、すぐに冷静さを保ちおのおの持ち場についた。
船長は舵を力いっぱい切った。
始まる。
海賊船に遭遇しようとしているクリスティナ達。
ラインハルトは作戦があるようだけど、どう乗り切るのか?
次は海賊との戦いが繰り広げる回です。