第六の障害 薄幸の伯爵令嬢と秘密の皇子Ⅳ アファルキア公国編
砦近くに出会った不思議な男性とひと時の時間を持ったエレーヌ。
二人はおしゃべりして関係を深めていく。
「それでねエレーヌ。
ラインハルトったらね………。エレーヌ!!」
ぼんやりと窓辺を眺めている私はクリスティアの話を全然聞いていなかった。
そう言えば朝、眼が覚めたら私がいなかったから変だと思ったいるだろう。
あの朝から様子がおかしいのはバレバレだろう。
心ここにあらずというか…自分でも思う。気がつけばぼんやりとしている時間が長くなったように思う。
「ごめん。ごめんクリスティア!
ラインハルトがどうしたの?」
「うふっ。
久しぶりに狩りに行かない?
ラインハルトが身体がなまっちゃうってうるさくて。
それにレセプションで近くの農民が今年は獣害の被害がひどいから狩猟をしてほしいと言っていた。
と聞いてね。
久しぶりだしどう?」
「乗馬!狩猟?
行く~~~行く行く」
そこから三人であれこれ狩猟の計画を立てる。
カミーユとマルグリットは趣味じゃない温泉でゆっくりと過ごしたいと言って、早々離脱宣言されてしまった。
私達は村民達に獣害の状況と聞いたり、馬具の準備や下見と積極的にいろいろ準備していた五日後に狩りに行く事になりすごく楽しみでワクワクと落ち着きがない。
乗馬よりも彼に会えるかもしれないそんな興奮からウキウキして胸のときめきを止められない。
何度かの夜を経て狩りの日を迎えた。
清々しい夏にしては爽やから風が吹く晴天。
いわゆる狩り日和。
私達ははいっせいに馬に跨り、森に入っていく。
狩りとは貴族の嗜みと簡単には言えない。
男性にとっては戦の予行演習であり、時に増えすぎた獣を統制する行為は農民への慈悲であった。
女性にとっては数少ない許された運動と外出の機会で社会を垣間見る機会でもあったから。
私の胸はあの夜とは違ったときめきを感じながら森を駆け抜ける。
馬を走らせたなかほどで、鹿と狐の群れを小道の交差する地点で発見する。
「お先に鹿をいただくわ。
お二人失礼!」
クリスティアは馬の腹を踵で蹴り、鹿の群れを目指した。
「じゃあ俺は狐を頂いた後、鹿を追うとする。
じゃあ後で!」
ラインハルトはあっという間に最速で去っていった。
私は一人取り残された。
いや丁度いい。
乗馬は好きだが狩は正直嫌だ。
害獣とはいえ生を奪うそれに抵抗があるから。
周りを見渡して、この間の場所を思い出しながら道を進む。
木漏れ日の中キラキラと樹木の葉が揺れてざわめきが起こって気分が高揚している、
昼間の森はあの朝焼けの朝と違って煌びやかで、生に満ち溢れている。
気持ちがいいし好き、森は落ち着く。
もうどのくらい小道を走らせたのかわからないくらい。
この方向であっているのか記憶はあいまいだが、なんとなくぼんやりと浮かんでは消えていく景色が類似しているように思った場所は落馬した場所に思えてならない。
辺りを見渡すとどうやら森の出口付近だったみたいだ。
木々の終わりのその向こうはキラキラと太陽が降り注ぐ野に続いている。
馬を降り、近くの木の枝に手綱を掛けて徒歩で出口へと出る。
広い野には名もなき夏の草花が咲き誇っていた。
近くに巨大な古い砦がある。
今の使用されているのか?いないのか?
所々傷みが目立ち岩の損傷が激しい。真ん中と四方の塔が聳え立ち、特に真ん中の塔は可笑しいまでに高く聳え立っていた。
なんだかぞっとする砦。
そう思った私の後ろから人の草を踏む音が聞こえた。
「御令嬢。また会いましたね」
ああ。この声に心当りがある。
心に響く低い声。
聞いていると安心する。
何故か心が穏やかになるのを感じる。
私は期待と不安でドキドキしながら振り返った。
逆光を受けて現れた人はあの男性だ。
「君はあの時の令嬢ですね。
奇遇だね」
彼の太陽を受けて笑うその眼差しは哀愁を浴びていて何故だか心が痛んだ。
その理由はわからない。
彼から発せられる全てがひどく私自身の痛みに。
そう痛み。
心臓を針で突かれるような。
心臓を鷲づかみされたような。
思わず涙が溢れ出す。
それは流すのを止められないように後から後から流れてどうする事も出来ない。
彼の瞳は明らかに動揺し、私の瞳を困惑しながら覗き見ている。
どのくらい時が経ったのか二人にはわからなかった。
ただこの世界には二人しかいないのではないかと思えるほどの沈黙が続く。
私は流した涙が止まらない。
涙を流し続ける私を彼は不審に思うのか、困惑した表情で見ている。
二人の瞳にはお互いしか映していない。
なんだこの女は?
微笑んでいるのに突然ひどく苦痛に満ちた表情で私を見て、今までの女達ならここで時めいてイチコロだったのに。
目尻が下がり、愛おしそうにうっとりに私を見つめたものだった。
なのにこの女ときたらなんで私を憐れむような瞳で見つめるのか?
なんなんだ??
俺は酷く狼狽して腹立たしかった。
私は耐えられそうにないその微笑みに思わず、本当に何の訳もなく瞬間的に彼を抱きしめていた。
本能的に。
焦がすような恋愛の行為ではなく、慈悲の行為それに近いような気がした。
けれど次の瞬間自分のした行為を自分自身で信じられないでいた。
彼の温もりを感じた瞬間自分のした行為に羞恥心で顔が真っ赤になった。
「こんなに大胆で情熱的な令嬢は初めてです」
彼はしばらくその体勢のまま固まっていたけれど、おもむろに私の身体を抱き返した。
決して強くではなく、ある程度距離を保ちながら私を包み込むように。
互いに愛情や欲望はそれにはなかった。
仮にあるとしたら労りや慰むに似ているように私は感じていた。
「私の名はエルンスト・レオです。
お見知りおきを。
私に何をお望みで?」
彼はそう言って私の手の甲に軽く口つけた。
その行為はあくまで紳士的で貴族の挨拶であり、欲情や誘惑の類はない。
ここで私も我に返った。
「わ……わた…私はエレーヌ・ディア・ラトゥワールです」
思わず本名を名乗ってしまった。
「初めましてラトゥワール嬢」
彼の微笑みが痛々しいまた私は涙目になる。
「なんだか私は貴方を怖がらせているのでしょうか?
気がかりでしかたがありません。
何を悲しんでいらっしゃるのでしょうか?」
あくまで紳士的な彼に気が引ける。
私ですらこの感情を理解出来ず持て余しているにのに彼に伝える事は出来ない。
もどかしいこの感情に私自身も困惑しているから。
「どうやら私は失礼したほうがいいようだ」
そう言ってその場を立ち去ろうとしたエルンストに私は急に彼の手を掴んで止めた。
また感情的に行動している。
そうはわかっていてもやめられない本能的な衝動を抑える事が出来ない。
「…大丈夫です。
ごめんなさい。不愉快ではないのです。
ただ涙が。
貴方のせいではありません。
お気にされず。
どうかお話しましょう」
あぁ~本当にこんな言葉をかけるなんて本当に私はどうかしている。
男性にこんなに気安く触れた事はなかった。
こんな事は初めてだから自分でも理解出来ていない彼に理解出来るはずはない。
絶対変な女と思われてるに違いない。
「あの大木の下でお話しましょう」
私はそう言って涙を拭い、彼の腕を掴んでその場所へ一緒に向かいその元で座り込んだ。
しばらくの沈黙の後に。
「今日はどうしてこの森に?」
エルンストが柔らかい声で私に話しかける。
私は少し微笑みながら答えた。
「仲間と狩りを。
二人は群れを追って狩りをしています。
私は……。狩りが……」
彼は私の顔を覗き込んで悪戯っぽく笑う。
「苦手?」
コクリと頷く。
すると彼が白い歯を見せながら言った。
「これは奇遇ですね。
私も乗馬は好きですが。
狩りは苦手です。
生き物を殺すのがどうしても。
毎回苦痛です」
私と同じなのがなんだか無性に嬉しかった。
自分の頬が赤く染まっているのではないのではと思わず下を向いた。
「綺麗な顔を背けないで。
あっ失礼でしたね。
初めて話した方に」
「うふっ。
初めてではありません。二度目ですわ」
二人声を出して笑った昼下がり、ここでようやく緊張の糸が緩んでいろんな話をした。
話すというのは違うかもしれない。
私がクリスティア達の冒険をひたすら語っていたから。
「私達はフェレイデンから来たのです。
商団でいろんな国を旅をしています。
最初のシャハルバード共和国、オルファン帝国。
困難や妨害や多くの出会いでとても楽しいです。
人生が楽しいなんて知りませんでした。
私の仲間は………」
泉に湧き水が湧くように次から次へと言葉が出てくる。考えながらではない。興奮して勝手に口がおしゃべりしている。
ほどんど初対面の相手にこんなにお喋りしたのは初めてラインハルトとも数年は言いたいことをいえる関係ではなかった。
まあ無口な彼だったからだけど。
父のせいで男性とは距離を置く事が私の当たり前になっていたから。
彼は表情をコロコロ変えて楽しそうに頷きながら話を聞いてくれている。
早る気持ちは思いつくままに息をするのも忘れそうなほど話続けた。
仲間以外とこんなに話したのは初めてかもしれないと思いながら止める事が出来なかった。
「素敵な仲間ですね。
羨ましい」
彼は頷きながら時折、時々短い言葉を口にして私の会話を聞いてくれていた。
時を忘れるほどのひと時を過ごした時、唐突にその会話が止まる。
「エ………~~エレー…エレーヌ」
遥か遠くにクリスティアが私を呼ぶ声が聞こえたから。
その声であまりね恥ずかしさにはっとしてしまった。
初対面の男性人に一方的に話すなんて、羞恥心が大きな波になって私を襲う。
「私は行かなきゃ」
「あ!令嬢。どちらに滞在で?」
「森のはずれにあるヴィラにいます」
「ではまた会えるのを楽しみにしています令嬢」
柔らかな微笑みに思わず私も笑顔になる。
「えぇ…。」
後ろ髪を引かれる思いで私は待たせておいた馬の手綱を取り騎乗した。
彼は馬の下で見送ってくれる。
私の手の甲をとり、優しく口つけた。
その部分が赤く熱を持ったように痺れてどうしようもなく切ない。
「エレ…エレーヌ…」
クリスティアの呼ぶ声が大きくなっている。
こちらに進んでいるようだった。
「っでは。またエレーヌ殿」
「ええまた。
エルンスト様」
私はそう言って馬の腹を踵で蹴り、来た道を返した、
ひどく心残りではあったけれど。
エレーヌはエルンストがどうしても気になる。
エルンストは目的があってエレーヌに近づいている。
物語は中心へと展開していくきます。




