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第四の障害 甘い果実と甘い罠 ⅩⅤ オルファン帝国編 最終回

クリスティア達が競売を成功させた後、エメラディーヌの女神のディアスの競売が始まった。

結果は?


夕暮れ時、部屋の蝋燭の灯りが灯り始めた頃、エメラディーヌ達の部屋ではどんよりとした重苦しい空気が流れ部屋中に充満していた。

閉塞的なその空間に突然空気を切り裂く怒鳴る声が響く。


「くっそ!

 一杯食わされたんじゃないか?

 あんなに高値で購入した最高級品の女神の果実があんな二束三文のはした金で競売されるなんて! 

 予想外だ!

 馬鹿にできない損失だぞ!

 くっそー!

 クリスティア商団の奴らめ! 忌々しい!」


リュドヴィックは怒りのあまり顔を真っ赤にして手にしたディアスを思いきり床に叩きつけた。



バッン!!!


ディアスが割れ中の汁と実の破片が床にばらまかれ、彼の白いシャツにディアスの果汁が飛び跳ねる。

甘い香りが部屋を埋め尽くそうとしていた。


リュドヴィックは更に怒りを増長させた。

肩で息をして怒りをおさめきれないでいた。




あのクリスティア商団の競売の成功の後にエメラディーヌ商団の女神の果実の競売が行なわれた。


結果は予想と見事に希望を打ち砕かれ、散々な目に合った。

販売価格は仕入れ額の遥か下で終了してしまったのだ。

その損失は一団が都市から都市を移動するのに必要な経費ほどだったから小さくはない。


その後の競売場の経営者からの事の成り行きを知ったエメラディーヌ達は絶句するしかなかった。


見事にしてやられたのだ。

しかもまったく合法的なやりかたで。

ぐうの音もでない鮮やかな完敗で、無言で競売場を去るしかなかったのだ。

しかも帰った後はしなくてはいけない事が激しい波の様に襲ってくるのだ。


支払い金の準備の為の借金、フェレ皇国への報告、販売社との契約締結、倉庫から販売社への運送、

そしてオルファン帝国の出国の準備だ。


エメラディーヌは怒ってばかりはいられない。

財務担当のフランシス・クリフォードに両替商を訪問させ、当面の資金を調達させなくてはいけなくなったからだ。


「女神ディアの祝福の果実」の登場で女神ディアの果実ディアスの販売価格は軒並み下落し、倉庫の保管料だけで赤字が出る始末、結局大赤字で販売しなくてはならなくなった。


一夜にして高級フルーツが庶民の手に届く安価な果物となったのだ。

女神の果実は栄養価も高かったので、今まで高価な為に食べられなかった人々は喜んで買い求めるだろう。

しかし薄利多売のディアスにまったくうま味はなくなった。

経費を考えれば売れば売るほど赤字になるのだ。


「こんな事になるなんて…。私達はラディン農園に一杯食わされたのか?

 でもだからといって詐欺や契約違反には当たらないし。

 とにかく資金繰りを整えないと。

 本当にやられたわ。ラインハルトこの仇はいずれ!」


エメラディーヌは奥歯を噛み締めて復讐を誓うのだった。


絶対にあの男許さない!


エメラディーヌの胸の中でドス黒い渦になった復讐という名の闇が広がっていくのだった。




**********************************************



その夜

リュドヴィックは怒りのあまり夜になっても眠れずに何度も寝返りを繰り返して寝台に身体を投げ出している。


疲れてはいるがなかなか睡魔が訪れてくれない。

ただふわりふわりと意識は現実と夢の中とを行ったり来たりしている感覚にいる。



「NN~………」


暗闇の中誰かが呼んでいるような気がする。


「どうしてエメラディーヌを…。 あんなに…。僕はそんな…」


「誰だ?いや聞き覚えがあるこの声…この声は」


そう思った瞬間に映像が突然目の前に現れる。

しかも自分と今は亡くなった親友のファイサルだ。

しかもこの場面を知っている。


そう過去あの日。

あの後悔の日だ。


「リュドヴィック。

 必ず生きて戻る。

 それまでエメラディーヌが困っていたら助けてくれ。頼んだよ。」


ファイサルは今日の青空の様に澄んだ真剣な瞳で自分を見つめている。


「それはかまわないが。

 お前が騎士団を退団すればいいじゃないか。

 お前んちの農園経営は順調なんだから。

 何もわざわざ危険な任務の騎士になんか。

 継げばいいだろ」


ファイサルは意味ありげに微笑した。


「あぁ。この戦が終え帰国したらそうするつもりだ。

 今回は御前の義兄の指揮に入るから心配はない。

 あの人は信頼できる指揮官だ」


「あいつを信用したら駄目だ.

 エメラディーヌとあいつは。

 まだエメラディーヌに未練があるかもしれない。

 ひょっとしたら。お前に何かしでかすかもしれない。」


義兄がファイサルに何かしないとも限らない。そんな想像は頭を霞めて出た言葉だった。


「何を言っている。あの方はそんな人じゃない。

 あの屋敷で虐げられてきたお前の義兄への憎む理

 由もわかるが。

 エメラディーヌの事は信頼している。

 過去ごと彼女を受け入れると約束したんだ。

 彼女も理解してくれて、私との事も前を向いて考えてくれている。

 だから心配ない」


「そんなだから心配なんじゃないか。

 昔から人がいいんだから。

 俺はお前を失いたくない。

 幼い頃から母は第二夫人という劣等感から俺を事或る毎に義兄に競わせ、負ければ容赦なく虐待し

 て生傷が絶えなかった。

 流石に年頃になると暴力はなくなったが、容赦なく言葉で精神的に追い詰めた。

 正直母が病気で死去した時には内心ほっとしたさ。

 父は義兄に期待をかけて俺にはほとんど無関心だった。

 就学以降は正妻の嫡出子でないというだけで、容赦ない差別を受けた。

 お前だけだ。

 子供の頃から変わらない。

 傍で平等に友として接してくれた。

 だから生きて帰ってくれ。

 そして幸せになってほしい。

 エメラディーヌとだ。」


「勿論だ。

 大丈夫だよ。

 だからそれまではエメラディーヌを頼んだよ」


「あぁ。わかっている」


そんな会話をした三日後、ファイサルは戦地へ向かった。

それが最後の別れになるとは思いもしなかった。


フェレイデン帝国の同盟国にフェレ皇国の同盟国が越境する事件が起きた。

援軍要請を依頼された皇帝陛下は同盟国に付属騎士団を派遣したのだ。

その中にファイサルの所属の騎士団があった。

三カ月後戦は勝利に終わり、騎士団は帝都へ帰還した。


しかしその中にはファイサルの姿はなかった。


長い騎士団の帰国の荷の中に、遺体となった者は最後の列に荷馬車で運ばれる。

長い葬列続く遺体。

痛ましいがそれでも故郷に帰れるのはいいほうだった。


棺にフェレイデンの国旗を被されて、その中にファイサルの遺体が運ばれ、無言の帰国になってしまったのだった。


その光景が突然消え去るとリュドヴィックは大きな瞳を開いて、汗だくの上半身を起こした。

息が荒い心臓の鼓動も早い。


「あぁ夢か……久しぶりに……」


久しぶりに見た悪夢で今のリュドヴィックの原点でもあった。


まだ夜は明けていない。

リュドヴィックの暗闇がその夜に交じっている。





**********************************************



一方のエメラディーヌも眠れぬ夜を過ごしていた。

窓から見える月光が青白く自分を映していた。


あの夜のように。


エメラディーヌ・ディア・リュージェ。

フェレイデン帝国の田舎の子爵家の息女だった。


帝都から遠く、貴族と言っても田舎ではそこそこの資産家の規模で、平民の裕福な商家の一族は自分達よりもはるかに豊かな生活をしていた。


普通なら家同士が決めた相手と結婚していたろう。

そう私もその予定だった。 

婚約者ファイサルとなんの疑問もなく結婚しそれなりの普通の結婚生活を送っていたろう。


けれど運命はそうはさせなかった。


それはたまたまだった。


帝都の貴族達が田園の村で狩猟大会を開催する事になった時、領地が候補に選ばれたのだ。


子爵は有頂天になって準備に追われて忙しくなった。 


流石に未婚の娘のいる本宅は貸せないが、狩猟用の別邸が近くにあった。

そこを提供する事が決定し内装や造園、その他の準備を行いその日を迎えたのだ。


その日に帝都の中央貴族達を初めて目にした。艶やかな衣装、仕草は繊麗されていて好奇心と憧れで舞い上がってしまっていた。

ついつい月光美しい夜中に別宅へ行ってしまった。

その時に庭園の湖で会ったのか、ラインハルトだった。





リュドヴィックの親友を失った辛さと義兄ラインハルトへの更なる憎悪の原因。

エメラディーヌの過去の始まり。

別の物語も動き始める次回アフェルキア編は愛、恋がてんこ盛りの回になります。

ラインハルトとエメラディーヌの恋そして破滅とエレーヌの激情型の恋愛もとうご期待。



オルファン帝国編完結しました。

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宜しくお願いいたします。

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