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第四の障害 甘い果実と甘い罠Ⅲ オルファン帝国編

盗みを働いた子供達をマルグリットが逮捕されそうになるのを助けて、子供達と共に市場を離れた。

「どこ行くつもりかしら?」


エレーヌが私に耳打ちする。


私もわからない。


マルグリットは無言で年長の男の子の手をしっかりと握りしめてその子の後に続く。


その後ろは年の順と思われる下の男の子達も列をなして手を繋いで皆下を向いて歩いている。

ちらりと見たマルグリットの瞳の奥に固い決意を秘めているのがわかった。


どうするのかしら?


行き先は男の子しか知らない。

どんどんどんどん市場は遠くなり、大通りをひた歩く。

その光景は異様だったようで、行き交う人は私達を二度見しては通りすぎる。


旧市街を抜けて細い路地に入るとまるで迷路の様に縦横無尽に入り組んだ通りが現れる。


これは迷子になる。


奥へ奥へと進むと景色は違っていく。

道に多くの汚物が散乱して、太陽さえも通さないような建物がそびえたっていた。

明らかに貧民街だ。


その建物も傷や外装がかけて損傷が激しくなっている。

通りを行き交う人もどんどん生気のない浮浪者の様なさまに変化していった。


私は話にはその様を聞いてはいたが、実際に目で見るのは初めてだ。

その異様な地獄絵図の様な街に恐怖で震えが止まらない。

腕を組んでいたエレーヌも同じだったようで、その手は小刻みに震えていた。

その更に奥に雑木林の隣にぽつんと廃墟化した神殿のような建物が目に入る。


屋根はかろうじてある程度だが、所所穴があいているのを板で張り付けている。

扉はなく中は茣蓙が敷いていて、幾人かの子供達が寝ているか、そのそばで悲しそうに座り込んでいた。

横たわった子供達はただ寝ているだけではなくて、どうも身体の具合がどう見ても悪そうだ。

四人がボロボロになった毛布を辛うじて被って丸く身体を縮こませて、青白い顔が死さえも想像するには十分だった。



「これは………。医師を呼んでくる」


ラインハルトは青冷めた顔でとっさに言った。


「こないよ。僕達に払える金がないし、こんな貧困層のスラム外れに誰がくるものか」


年長の男の子が諦めと悔しそうにそうつぶやいた。


「大丈夫。

 金に糸目はつけないさ。それに何かあれば俺が剣で応戦するさ」


ラインハルトはにんやり笑ってさも楽勝とばかりに告げた後、その場を去っていった。


「で。窃盗の原因はこれね」


男の子は黙ったまま大きく頭を下げて頷く。


「じゃあ。どう生きろと?

 あの市場では俺達が窃盗しても命はとられやしないさ。

 俺達は命を預かってるんだ。

 何をやってもこいつらを食わせていかないといけないんだ」


絞り出すように男の子は言った。


「だからってやっていいとは言えないわ。

 それにこの国では貴方達の様な境遇の子供達を保護する施設があるでしょう。

 どうしてそこに行かないの?」


マルグリットが確信に迫る。

確かにお姉様が皇后になり、福祉事業に熱を入れているのは私もお母様から聞いていた。

しかも衣食住に困らない様に徹底的に行っているとも。


男の子は顔を背けてぼそっと言った。


「そこから抜け出してきた。

 いやなんだ。

 人の情けで生きるのが!

 なら何をしても自分達で生きていく。

 そういう者が集まってここにいる」


何が悪いとばかりにマルグリットに食い掛る。


「だからって窃盗していい訳ではないでしょう!

 それにこの有様で自分の力だけで生きていると言えるの?

 この子達は死を待っているだけのように私には見えるわ」


マルグリットの言葉には容赦がない。

でもその言葉で彼を子供として接していないのがわかる。

男の子は歯を食いしばり、口惜しそうに上目使いにマルグリットを睨みつける。


「その自尊心があればきっかけがあればなんとかなるわね。

 でもね。

 今の考えでは駄目ね」


「なんでだよ!」


「ほら周りを見なさい。

 病気で寝た子供達は貴方の元にいる子よね。

 責任があるわよね。

 ならそのやり方では駄目だと彼らが証明してくれているわ。

 そうでしょ!」


「…………。…」


「自分でなんとかしたいなら、違う方法を取りなさい。

 その為の援助はおしまないわ。

 でもちゃんとしないなら、さっきの店主の元へ送り届けて結局保護施設へ強制送還!

 わかった?」


「それは嫌だ!!」


「なら!ほら私達を手伝いなさい」


「えぇ?!」


「いいわよね。クリスティア!」


もうだめとは言えないのがわかるから。


「勿論」


そうこの答えしかない。

でもどう使うの?わかんないよ~。


「私達の手伝いをして駄賃を貰いなさい。そのお金で生活して自立しなさい。

 そして正々堂々と物を買うの。いいわね。」


男の子の顔がたちまち闘志に燃えた者に変化していく。


「君の名前は?」


「僕はフレディ。姓はない。」


「私はマルグリット」


「私はクリスティアよ」


「私はエレーヌ」


「クリスティア。

 彼らを雇用して駄賃を支払うって話で」


「たのんだわよフレディ」


そうこうしているうちにラインハルトが医者を連れてきた。

しかもあたふたとラインハルトは三人の後ろを早くといわんばかりに神殿跡に入る様に促す。


医師は不服そうではあるものの容体を順番に触診していった。

寝ている子のほとんど栄養失調と不衛生な環境にいる為に起こった腹痛だという。


薬草を処方されて、達が提供事前の支度金でフレディは支払い。

事なきを得た。



すると全てが終わった安堵感からかフレディは自分の責任から解放された様に泣き出した。

夕暮れ時の空は茜色でその赤ら顔を照らしている。


「そうそう。風呂にも入れないと。

 あと衣服と生活道具もいるわね。

 支度金は弾むわよ。

 まずは健康になってもらわないと。

 健康になったら馬車馬の様に働いてもらうわよ!

 フレディ!!」



***********************************************



私達は一旦市場に戻り馬車で宿に帰り、留守番のカミーユに事情を説明した。

カミーユは珍しく文句もいわず、銀行に行って資金を出金していくとそそくさと出かけて行った。


後は必要な品をフレディに届け、紙とインク、ペンを持たせて文字が書けないなら絵で近況を知らせる様に業者の伝達者に伝えた。


しばらくして定期的に絵が届き、その都度幼児用の文字のテキストや辞書を持たせるとその内綺麗ではないが文字で近況を知らせる様になっていった。


マルグリットはその手紙をいつも嬉しそうに読んでいる。


「どうしてフレディを助けようと?」

昼下がりのティータイムに何気に聞いてみる。


マルグリットは悲しそうにふっと笑って答えた。


「私の父は両親に母との結婚を反対されたの。

 でも結婚前に私が出来て…。駆け落ちしたの。

 私は生まれたけれど、出産後すぐ父が事故で亡くなって。

 混乱した母は私と一緒に無理心中をして私だけが助かった。

 母は娼婦だったのよ。

 乳飲み子だった私を母の友人が育ててくれたの。

 彼女は私を同じ職業に就けたくはなかったのだけど。

 保護者のいない孤児が簡単に職業には就けないもの。

 私はなるなら都一の高級娼婦になると決めて努力したわ。

 でもそれが一番の選択ではなかったかもしれないし。

私も彼らのように罪を重ねる者になったかもしれないから。ほっとけなかった。

 苦難の時に継続的に手を差し伸べる人になりたい」


胸に熱いものがこみ上げると共にいかに自分が無知で、愚かなのかを思い知らされた、

胸の高鳴りそして痛み。

どうして彼女を抱きしめずにいられなかった。


「すごいわ!マルグリット」


訳もわからず嬉しくて仕方ない。

この出会いを。


フェレディ達は子供ならではの俊敏性と周りから警戒心を受けにくいという利点を生かしてどんどん市場の情報を伝達してくれる。

女神の果物の人々の関心と需要性、そして取扱や流通の情報はどれも貴重なものだった。


概ね青果店で聞いた女神の果実の話は本当で、アルベルトの農園の経営も順調だ。

これは農園に言って女神の果実を実際に見ないと信用出来ないと話になり、アランからの日程を詰めることにした。

見学当日は十日後と決まった。








高級フルーツディアスの農園に向かうクリスティア達を待っていたのは?

次回は農園主と交渉と意外な人物との再会が。



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