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クリスティーネ・ルナティア皇女 逝去

皇后の愛と憎しみとそれは…全てはこの日のために外伝

エルミエ皇后とセヴィエⅠ世の第四皇女クリスティーネ・ルナティア皇女の物語



「ク…リス……!クリス……ティー……ネ。

 どう…て………どうして…こ…んな……」


白い布を覆いかぶせられ横たわる物体。

人にも思えるし違うようにも見える。

その物体の傍らにもたれかけて、身なりが崩れようがかまう事なくむせび泣き嗚咽している高貴な女性。


頬に伝う涙のせいで長い髪がべったりと張り付いて、後から後から涙が流れてとまらずにもう前も見えない。


漆黒の闇の中血を流しながら突き落とされたような感覚が身体を襲う。


何故あの時にとめななかったのか?

何故あのような自由奔放さを戒めなかったのか?

何故もっと根気よくあの子と向き合わなかったのか?


何故何故。


そう思う度に自身の不甲斐なさ、情けなさが悔やまれてならない。


どんな形であれ、失わせたのはほかならない自分自身だ。


いいようのない懺悔と後悔の中、震える手でその覆う布を払う。


人だ。


頭部と上半身に黒い血がべったりと滲んでしまっている包帯が、その人物の最後がいかに惨劇であったであろうと想像できる。

 

「ヴッ……クリ…」


声にならない声が。

小さな部屋に反響する。


包帯に包まれ、横たわっていてぴくりとも動かない。


女性は愛おしそうに抱きかかえる。

自分の高い体温と柔らかな腕と胸とは対照的に、冷たく重く固い明らかに生ではない人の感触だった。


遺体を抱きしめながら泣き崩れる女性は、飲み込まれるように悲しみの底に沈んでいく。


その姿に屈強な警護の近衛兵さえも思わず涙を拭った。


そこは皇室礼拝堂の地下にある皇族遺体安置所だ。


薄暗く蝋燭の灯が地下から通気口を通る風にわずかに揺らいでいる。


「あの時に許可するのではなかった……私の責任だ。私の……」


女性ののかたわらで項垂れている男性も、苦痛て顔が歪みながららぼそりと力なく言った。

その女性を力なく抱き寄せた。


ふたりの顔色は極端に白く瞳にはまったく生気が感じられない。


何故こんな事が起こったのか?





* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *





「ねえぇ…お母様。

 お願いがあるの。絶対行きたいのよ。

 ねっ。ねっ。

 いいでしょ!」


お母様と呼ばれたエルミエ皇后は、軽い溜息をついてその声の主を真正面から見つめる。


白い艷やかな肌は姉妹の中では群を抜いて美しい。

ライトエメラルドグリーンの瞳は、好奇心旺盛いっぱいの輝きを放ちキラキラして母を見ている。


ぁぁ〜陛下。

末娘だとあまやかしすぎたのよ。


とても外出は駄目とは言えないくらいの圧が感じられ、皇后はどうしたものかと思案にくれる。


第四皇女クリスティーネ・ルナティア・ディア・フェレイデン


皇女の中で末っ子、父である皇帝陛下の溺愛を一身に受けて育った我儘皇女。


生まれた時に皇子かと思ったほど大きな産声をあげ、夜泣きが酷く乳母達を不眠症で悩まし続けた。


幼い頃から何にでも好奇心旺盛で行動力は人一倍だった。


しかし言い出したら絶対に引かない性格、そのせいで周りは常に振り回し続けられてきたのだ。


思い通りにならないとなるや、どんなに高価だろうが、貴重だろうが破壊しては大惨事を巻き起こしてきた。 


後始末はいつも母の皇后が行ってきた。


「はぁ~皇帝陛下。唯一の赤点ね」


皇后のクリスティーネ・ルナティアの評価だった。

その問題児のお願いをどうしたものか。と、エルミエ皇后は頭を抱える。



「フェレイデン帝国一の帆船ジークフリートⅡ号の

 進水式よ。

 いかずにおられましょうか?

 我が帝国の頭脳と叡智が詰まった。

 今世紀かつてない商船よ。

 ねえお母様。

 ()()()


この皇女のお願いほど怖い物はない。


「はぁ~~。

 後かたずけが大変なのよ…」


根負けした皇后は皇帝に許可を得て臨席する皇女にクリスティーネの名を挙げた。


まだ成人式前皇族が公務をすることは通常はない。


皇女は成人になる前までは皇后宮で育ち、お披露目は成人式といえる皇室主催のデビュタント舞踏会以降がしきたりだった。

肖像画さえも外国へのお見合い用に制作するだけで国内では皇女の顔はほぼ非公開。

つまり皇女の顔を知る者は限られていた。


まだ十五歳。

成人前の婚礼を外すとまだ公的な宮廷にも登場しないのが皇室の習慣だ。


フェレイデンの成人は十七、八歳とされ、同時に結婚するのが貴族女性の常識だった。


しかし今回は未成年ではあるが皇后の代理での出席が叶った。

我儘娘の勝利だ。



勝利を祝福するかのように初夏の晴天、カモメが高く飛び回り鳴き声が青い大きい空に広がっていた。

進水式はそうそうめったにあるわけではない。

しかも今回の帆船はまれに見る規模の船だ。これからのフェレイデンの繁栄に左右すると言っても過言ではない。

だからこそ一会社の祝いに皇室の臨席があるのだ。


その時を前に船の傍で楽師達は演奏前の音合わせに余念がない。

老いも若きも富める者も貧しき者も大勢がこのまれに見る祝典の始まりを今か今かと待ちわびている。



やったわ。

お母様を説き伏せてついに!

ついにこの日を迎える事が出来たわ。

 挿絵(By みてみん)


目の前にフェレイデンの最大級の港に、まだその巨大な帆船の全体を、帆布を広げた姿で地上に鎮座している。

マストには帝国の紋章、船会社の紋章、出資者の紋章の旗が飾られて強い潮風に棚引いている。


その船は商船だけど、海賊対策に所々大砲を積み込んでいる。


テンションが上がるわ〜。


なんて美しいのかしら。


女神ディアの恋人で、神話では「彼の遺体が大陸にばらまかれて王国が誕生した」という王子の名をなずけられた。


ジークフリード二世号


檜で造られたその船の曲線は優美でなだらかでありながら、巨大で力強いボディーがまさに男性的でもあった。


勇者ジークフリードのイメージそのままの船だ。


甲板には多くの水兵と船員がその姿を背に誇らしげに妻を我が子を見つけては大きく手を振っている。


その手には五色のリボンを陸へと流し、見送りの人々がリボン先をを持ってる。

皆幸せそうで見ているだけで気持ちが高鳴る。


「なんて美しい光景なのかしら~~。

 きゃ〜ぁ素敵~~」


臨席に腰をかけ優雅にただずまなきゃいけないのに、もう大興奮で思わず声がだだ漏れてしまった。

この商船の持ち主に笑われてしまったわ。


陸の楽団は民族衣装を着て、フェレイデン国歌の演奏が耳に心地良くて本当に胸が高鳴る。

美しい音は空へと飛んで彼方へと………私も…。


空には用意された赤色や黄色の白、緑色、青色の風船や白い鳩が飛ばされて。

「わあぁ~~~~」


「きゃ~~~~」


ザワザワ ………  ザワザワ…


人々は歓喜してなんて素敵な光景でしょう。


大空に羽ばたく白鳩と風船が天高く飛んでいく。


自由の空へ。

なんの束縛もなく。

なんの制約もなく。

私には与えられなもの。

私には決っして。


「ドッ~~カァ~~~~!!

 ドッ~~カァ~~~~!!

 ドッ~~カァ~~~~!!」


皇帝から許可を得て白い煙が上がって祝砲が連続で放たれる。


皆頭を上げてこの豪華な祝典を食い入るように見つめ、輝かしい式典に興奮は最高潮に達していた。


船長が挨拶の為に船付け設置された高台に上がる階段を登り始めて演説台に立った。

隣には今年のミスフェレイデンが片手にワインを持ち、船に祝福を行う儀式をまさに行おうとしていた時だ。


甲高い音がしたと思ったら眩しい光が炸裂したすぐ後だ。

挿絵(By みてみん)


ドッカ~~~ン!!


突然の大きな爆発音が空を揺らす。

暑いそして痛い!

と感じる暇もなくその後私は意識をいや感覚も無くす。

正確にはその破裂音と共に吹き飛んだと言えば正確だろう。

なぜ()()()なのか?


その後の記憶つまり意識が戻る事がなかったからだ。


その後の事はわからない。


何故って?

それは私がその爆発音の先にいたから。

つまりは爆死したようだった。


痛いとか、苦しいとかはない。

閃光が走って目が痛いくらいだったけど。


あぁ〜短い一生だった十五歳で私の人生は終わるの。

ありがとう。 


愛してくれたお父様へ。


厳しかったけれど私に真正面から向き合ってくれたお母様へ。


少し厳しいお姉様と優しいお兄様へ、おっとりした可愛い弟へ。


さようなら。さようなら皆……幸せだった。


ありがとう♡


そして……私クリスティーナ・ルナティアの人生は終わりを告げたの。



あんなに臨んだ商船の進水式に出席したクリスティーネ・ルナティアに待ち受けていたのは楽しい式典ではなく、悲劇的な爆死という現実だった。


新シリーズ開幕

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― 新着の感想 ―
挿絵、座礁してますよ笑
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