表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/60

【4-9.不意の名前呼び】

 クロウリーさんは魔法協会の休憩室に移動して、長椅子でポルスキーさんを抱きかかえていた。

 ポルスキーさんは意識を失っていたわけではなかったが、だいぶ具合(ぐあい)が悪いようで、無防備にクロウリーさんにしがみついて彼の胸に顔を押し付けている。


 先ほど見た殺人の瞬間が脳裏(のうり)にこびりつき、よほど心を(えぐ)ったに違いなかった。


 クロウリーさんは、ポルスキーさんがここまで生々(なまなま)しいものが苦手だとは知らなかった。

 むしろ、ポルスキーさんはどちらかというと理屈屋(りくつや)なので、こういったものもまるで平気なのかと思っていた。

 気の毒なことをさせてしまった、と申し訳なく思う。


 しかし、ポルスキーさんの見せた魔法の映像によって、状況が一変したのも確かだった。

 今頃はあの場に居合わせた同僚たちが指揮を()り、モーガン・グレショックの身柄(みがら)確保に迅速(じんそく)に動いているはずだった。


 ポルスキーさんが使った魔法のことはそのうち(いや)(おう)にも(うわさ)が回り、放っておけばモーガン・グレショックの耳にも入るはずだ。ヤツに姿を隠される前に、絶対に身柄(みがら)は確保しなければならない。


 クロウリーさんも先ほどの映像にはショックを受けていた。

 シルヴィアの死のことは分かっていたはずだった。しかしこうして死の現場をまざまざと見せつけられると、殺人犯やマクマヌス副会長の凶悪さに寒気がする。よくもあんなことができたものだと!


 そのときポルスキーさんが「うう」と(うめ)いてふらふらと上体(じょうたい)を起こしながら、

「……ヒューイッド、ごめ……」

と謝った。


 クロウリーさんはポルスキーさんの久々(ひさびさ)の「ヒューイッド」呼びに驚き、嬉しさで胸が震えるのを感じたが、ポルスキーさんは自分では気づいていないようだった。


「少しはよくなったか」

とクロウリーさんが(いた)わるように聞く。


「うん、ありがと……ごめん」

 ポルスキーさんが(うつむ)いていた顔を上げ、()れた目をクロウリーさんに向ける。


「いや、イブリンこそがんばったな。助かったよ」

 クロウリーさんは優しくポルスキーさんの頭を()でた。


「モーガン・グレショックを逮捕しないとだよね」

「同僚がやってくれているはずだ」

「クロウリーさんは行かなくていいの?」

「イブリンの方が心配だ。無理をさせて悪かったな」

 クロウリーさんはもう一度ポルスキーさんの頭を()でた。


 そのとき、クロウリーさんの同僚の一人がキョロキョロしながらやってきて、クロウリーさんを見つけると近寄ってきた。

「あ、ヒューイッド、ここにいたんすねー」

 そしてその同僚はポルスキーさんにも会釈(えしゃく)をする。


「順調に進んでるか」

とクロウリーさんが聞くと、同僚は大きく(うなず)いた。

「ええ、もう令状が出たんで、そろそろ身柄(みがら)確保に動きますよ。だからあなたを探しに来ました」


「あ、いや、私は……」

 クロウリーさんはチラリとポルスキーさんの方を見る。


「私はもう大丈夫よ」

 ポルスキーさんはそっと言った。


 すると同僚が少し顔を明るくした。

「先日、職場にだいぶ親し気な女性が来てたから(※第3章参照)、ヒューイッドって彼女がいるんかなーって(うわさ)になってたんすよ。やっぱ彼女だったんすねー」


「か、かか、彼女じゃないし」

 ポルスキーさんが顔を赤くして否定すると、クロウリーさんは無表情にポルスキーさんのほっぺたをむぎゅっと(つね)った。


「ははは」

 クロウリーさんの同僚は笑っている。


 そのとき、ポルスキーさんは大事なことに気が付いた。

 モーガン・グレショック! 彼がクロウリーさんのくれた指輪(※魔法鳥(まほうどり)の指輪アイテム)を持ってるんだった!


「私も行くわ」

 ポルスキーさんは、さっきまでくたっとしていたのが嘘のように立ち上がった。


「い、いや、待て! 体、大丈夫なのか? それに現場は危ない!」

 クロウリーさんが驚いて止める。


 しかしポルスキーさんは聞く耳を持たない。

 クロウリーさんにバレないように指輪を回収せねば!ということばっかりが頭を駆け巡っている。


「ははは、彼女さん協力者なんすよね? 大勢(おおぜい)で踏み込むんだし、後ろの方にいる分にはいいんじゃないすか?」

 クロウリーさんの同僚はあっけらかんとまた笑った。


 クロウリーさんは心配そうな目をポルスキーさんに向けたが、まあ、何かの決意を持っているポルスキーさんは止めても無駄(むだ)なので、仕方(しかた)がなくため息をついた。


 さて、クロウリーさんの同僚たちがモーガン・グレショック逮捕に向けて準備をしているちょうどその頃、モーガン・グレショック本人は、魔法協会理事のマイク・オコーネルの居室にいた。


 マイク・オコーネル理事は、会長派であるとか副会長派であるとかには全く関与せず、おっとりとした善良な性質を持っていた。彼はお金やおだて言葉には(なび)かないので、モーガンはかなり慎重に対峙(たいじ)していた。

 モーガンは、オコーネル理事を自分の思うように動かすには、「彼の活動の成果」とか「その文化的意義」とか、そういうオコーネル理事が心を(くだ)いていることに共感しなければならないことを知っていた。


「オコーネル理事は魔法関連遺物(いぶつ)の管理や(りゅう)などの魔法動物を保全(ほぜん)に取り組まれていますね?」

 モーガンはできるだけ客観的な話を始めた。

 

「ええ。それは以前にもお話した通りです」

 オコーネル理事は穏やかな微笑を(たた)えながらゆっくりと答える。


 モーガンはさも由々(ゆゆ)しき事態だとでもいうように、

「魔法遺物(いぶつ)の発掘はお金がかかりますが、お金をかければ必ず何か重要な遺物(いぶつ)を発掘できるというわけでもないので、最近は白い目で見られがちでしょう。魔法動物もそうです。(りゅう)やユニコーンにお金をかける前に他にやることがあるだろうと言われてますね」

と同情的に言った。


 オコーネル理事は苦笑した。

「まあね。でもその考え自体はその通りだと思いますよ。まずは人々の生活、それが一番です。それでもまあ、我々の活動は文化の根幹(こんかん)に当たる部分だということも忘れちゃいませんので、理解が得られた範囲で活動は続けていますがね」


 それをモーガンは大仰(おおぎょう)手振(てぶ)りで否定した。

「理解が得られたら、ですって? とんでもない、そんな謙遜(けんそん)をなさいますな! オコーネル理事が担当になられてから、こちらの分野の成果は華々(はなばな)しい。つい昨年発表されました古代魔法都市の遺跡の発見ですとか、新聞は熱狂的に書きたてました!」


 オコーネル理事は「ああ」といった顔をした。

「まあねえ、遺跡の発見なんかは分かりやすい成果ですね。専門家がコツコツやってきたものですが。あちこちで()めてもらえるので良かったですよ」


「ええ! 遺跡や文献から失われた魔法とかがこれから見つかるかもしれませんよね」

 モーガンはわざとうっとりとしたような表情を浮かべた。


 その表情にオコーネル理事はまたもや苦笑した。

「失われた魔法、ね。なるほど、そういったものにロマンを見出しているのですね。我々はもう少し違った――例えば、遺跡を見つけるに(いた)った過程なども重視しますがね。まあ、そんな地味なことを言っていては民の理解は得られませんからな、『遺跡の発見』、『失われた魔法』、うむ、そういった分かりやすい言葉で宣伝してくださるのは(おお)いにけっこうだ」


 その口調(くちょう)に、モーガンは何となく少し水を差されたような気分になったが、ここで(くじ)けるわけにもいかず、

「まあ、とにかく、私もオコーネル理事の成果にはロマンをかき立てられたと申しますか、豊かな魔法知識への希望ですとか、ぜひとも協力の方をね……」

芝居(しばい)がかった物言(ものい)いで用件を切り出した。


 オコーネル理事は「その話か」と身構(みがま)えた。

「ええ、それで、昨日の申し出があったのですね。マクマヌス副会長から資金の寄付。それに厄介な業務を一部手伝ってくださるとか?」


「はい!」

 モーガンはずいっと体を乗り出した。


 オコーネル理事は気持ち体を()()らせた。

「その件は、他の理事にも相談してきたのですよ。規則的に大丈夫なのかと。だって、特定の調査機関や冒険家などに寄付を出したり業務の手伝いを申し出るならまだしも、魔法協会の遺物(いぶつ)管理全体に寄付をしたり、新しい発掘プロジェクト立ち上げを全面協力するというのですからね! あまり聞かない話でしたので」


「ええと――それで……」

 モーガンは冷や汗が流れるのを感じた。オコーネル理事に恩を売るために、特定の調査機関や冒険家などに寄付をするのではなく、オコーネル理事自身の采配(さいはい)で使えるようなお金を寄付したかったのだ。

 しかし、どうも疑われている。いささか、やりすぎたか……。


「グレショックさん、あなたがね、あちこちで理事に協力を申し出ながら政治的な交渉をしているという話も聞いているんですよ。私の件に関して、ちょっと、問題点を詳しく話し合いましょうか」

 オコーネル理事は穏やかに、しかし厳しめの口調(くちょう)で言った。


お読みくださいましてありがとうございます!


ポルスキーさんのヒューイッド呼び!

昔を思い出したんでしょうか。

さて次回、モーガン・グレショックの逮捕です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
≪作者の他の作品はこちらから!≫(↓リンク貼ってます)
新作順

高評価順


≪イラスト&作品紹介♪!≫

【短編】 「婚約者が浮気していたので流れで仕返ししたら、なんだか新恋人ができました」 (作品は こちら

幌あきら様
イラスト: 砂臥 環
【イラスト誕生秘話はこちら by 砂臥環様】
― 新着の感想 ―
[良い点] 【4-9.不意の名前呼び】拝読しました。 おお! 突然のヒューイッド呼び! これはクロウリーさんもドキッとしますよね。というかめちゃ嬉しかったでしょう!! もしかするとポルスキーさんは、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ