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【4-5.眠り続ける女】

「メメル・エマーソンに会いに行くだろ、イブリン? ヒューイッドも来いよ。それに、ジェニファーも呼ぶか?」

とラセットが聞いたので、ポルスキーさんは笑いながら(うなず)いた。

「ジェニファーはあなたが呼びたいだけでしょ、ラセット。でももちろん歓迎だわ」


 呼ばれたジェニファーは相変わらずで、肩下くらいのダークブラウンの(ちぢ)れ毛を太い黒ゴムで一つにくくり、背筋(せすじ)の伸びた姿勢にいつもの大股(おおまた)で急いでやってきた。

「呼んでくれてありがとう。シルヴィアの呪いの犯人が分かるかもしれないということだな?」


「そう」

 ポルスキーさんは、凛々(りり)しいジェニファーに見とれながら答えた。


「メメル・エマーソンというのは都合が良かった。こちらも少し動向を把握(はあく)したかった魔女なんだ」

とジェニファーが事務的な声で言うので、クロウリーさんはハッとした。

「まさか、ウォッチリストの魔女か?」


「ウォッチリスト?」

とポルスキーさんが初耳で怪訝(けげん)そうに聞くと、ジェニファーが簡単に説明した。

「魔法協会にはね、かなりの腕の良い魔法使いなんかを記載している極秘のウォッチリストがあるんだ。良からぬことを(たくら)んでいないか、定期的に状況を把握(はあく)するようにしているんだがね」


 ポルスキーさんは「へえ」と思った。

 なるほど、先日クロウリーさんが上司命令も()ねて叔父に接触したいと言いだしたのは(※第3章参照)、シルヴィアの呪いの件で、このウォッチリストに(もと)づいた監視が活発化したせいなのかもと思った。


 ジェニファーは続けた。

「だが、最近動向調査をかけたみたいなんだが、メメル・エマーソンには無視され続けていてね」


「なるほど、ちょうどいいわけだな」

とクロウリーさんは(うなず)いた。


 ジェニファーはそんなクロウリーさんに(うなず)き返してから、ラセットの方を向き、

「ひとまず現場の方に連れて行ってくれ」

と頼んだ。


 ラセットは「(まか)せておけ」といった得意げな顔で、ジェニファーとクロウリーさん、そしてポルスキーさんを連れてテレポートした。


 3人が着いた先は断崖絶壁(だんがいぜっぺき)(みさき)の上にある小屋だった。

「う……」

 ポルスキーさんは少し警戒した。こういうところに住む人って――。

 海辺に住む自分。奥深い森の高齢樹の下に住む叔父。空気の薄い山脈の(ひな)びた集落に隠れていたアシュトン・デュール氏。

 絶対変人or(わけ)アリに違いない!(※個人の感想です。)


 しかしラセットの方はいたって普通に、「ここらしいぜー」とすたすたと小屋に歩いて行き、ドンドンドンと躊躇(ためら)いなく扉を(たた)いた。

 しかし、小屋の中からは何の物音もしない。


「もしかして留守か?」

とジェニファーが残念そうにラセットに言ったとき、

「あ、お客さんですか?」

といきなり背後から声をかけられた。


 驚いた4人がバッと振り返ると、声をかけたのは一人の老婆だった。

「あたしゃここで掃除婦をしてるんですけどね、ちょっとここんとこ様子がおかしくて、どこかに通報しようかと思ってたところなんですよ」


 その老婆の話し方が少し深刻そうなニュアンスを含んでいたので、クロウリーさんも緊張した面持(おもも)ちになった。

「様子がおかしいとは?」


 老婆は首を(かし)げながら、

「なんだか眠り続けているみたいなんです」

と不思議そうに言った。


 ポルスキーさんは拍子抜(ひょうしぬ)けして、

「はあ。眠り続けて? いや、別にそういう日もあるんじゃないでしょうか。24時間くらい寝る人もいるでしょ」

と言ったが、クロウリーさんは(あき)れた声で、

「いや、そんなのはイブリンくらいだ」

と否定した。


 ポルスキーさんがキーっとなって、

「あなたが特別ちゃんとし過ぎてるだけで……」

と抗議の声をあげたとき、掃除婦は顔を(くも)らせたままゆっくりと首を横に振った。

「いや、そんな程度の話じゃないんですよ。もう何日も眠り続けているんです」


「どういう状況だ?」

 ジェニファーが、ポルスキーさんとクロウリーさんのやり合いを半分無視しながら、掃除婦に聞いた。


 その掃除婦は困ったような顔をした。

「もう一週間くらい、あたしが掃除に来ても、いつもこちらの魔女さんはねえ、ベッドでスヤスヤと眠っているんですよ。『まぁ寝てるものなら仕方がない』と思ってたんですけどね、一週間いつ見たって眠っているってのはちょっとおかしいんじゃないかしら……飲食の形跡もまるでないし」


 ポルスキーさんはその話を聞くと確かにおかしいと思った。

「一週間? 飲食なしで?」


 掃除婦は無言で(うなず)いた。


「それは確かに変ね。人間、水分を取らないで生きていられるのは72時間が限度だって聞いた事があるわ」

 ポルスキーさんは首を(すく)めた。


 ラセットも(おお)いに(うなず)く。

「うわあ。水も食事もとらず一週間以上穏やかな顔で眠っているって、それはもう呪いでしかねーな」


 その言葉にジェニファーは途方(とほう)にくれた顔をした。

「好き好んで一週間以上寝続ける人もいないだろうから、きっとメメル・エマーソンは何かの魔法の被害者だな。眠り続けてるようじゃ話が聞けない。またしてもマクマヌス副会長派に先を越されたか?」


「イブリン、ちょっとその眠りの呪い、見てやってくれるか」

とクロウリーさんが(あきら)めきれないように聞いた。


「いいけど。……でもそんな魔法聞いたことないし、魔法の種類が分かるかなんて約束できないわよ」

 そう言いながら、ポルスキーさんは、叔父さん(エンデブロック氏)ならきっと簡単に解明するんだろうなと思った。

 ま、叔父は叔父で『二度と頼ってくるな』と険しい顔をしていたから、協力してくれるとは思えないけどね。


 すると、隣でラセットがくっくっと笑い出した。

「何笑ってるの、ラセット」

とポルスキーさんが(いぶか)し気に聞くと、ラセットは悪戯(いたずら)っぽい目でポルスキーさんを見た。

「おまえ役に立つのかよ、テレポートもダメ、どんぐりも浮かせられねえってのに……」


 ポルスキーさんはキーっとなった。唇を(とが)らせ、

「失礼ね。気持ち程度には役に立つし。魔法鳥(まほうどり)の指輪アイテムだって貸したでしょ?」

とべしっとラセットの肩を(はた)いたが、次の瞬間『魔法鳥(まほうどり)の指輪』はクロウリーさんからのプレゼントだったことを思い出し、一人で勝手に「ごふっ」と(むせ)た。

 こっそりクロウリーさんを盗み見る。


「何だ、その目は」

 クロウリーさんは気持ちが悪そうにそんなポルスキーさんを見返した。

 ポルスキーさんは「不審(ふしん)に思われたかしら」とギクッとする。


 しかし、事情を知らない掃除婦が、

「誰かを呼ぼうと思ってた(ころ)なんで、見てやってくださいよ」

と言うので、4人は掃除婦に続いて(おそ)(おそ)る小屋の中に入った。


 小屋は、小さい(わり)には大層(たいそう)こざっぱりと片づけられていて、壁一面の書棚もきちんと本が並べられており、おびただしい数の魔道具もシェルフにきちんと整理されて置かれていた。


「イブリンの部屋と全然違う」

とクロウリーさんが思わず(つぶや)いたのを聞きつけて、ポルスキーさんは、

余計(よけい)なことは言わなくていいのよ」

と今度はクロウリーさんの肩をべしっと(はた)いた。


 掃除婦は4人を寝室に案内した。

 確かに、そこには一人の魔女が趣味の良いリネンのベッドの上ですやすやと眠りこけていた。


 ポルスキーさんは、今、目の前で穏やかな顔で眠るメメル・エマーソンの寝顔をじっと見つめた。

 確かに血色よい(ほお)で寝息を立てて眠っており、一週間も眠り続けているとは思えない様子だった。


 この魔法も相当だ。「眠らせる」と「何も摂取(せっしゅ)しなくても生き続ける」ことを同時にやっている。

 この魔法をかけた人物は相当な魔法の使い手だろう……。


「相当な魔法の使い手」

 そう思ったとき、ポルスキーさんはふと重大なことに気付いた。


 シルヴィアの呪いと共通点があると思って、自分はメメル・エマーソンを探した。

 そのメメル・エマーソンが、誰か『相当な魔法の使い手』によって眠らされている。


 もしかしたら、メメル・エマーソンを眠らせたその魔法使いが、シルヴィアの呪いの犯人なのでは――?


 ポルスキーさんは心臓が高鳴るのを感じた。


 もし――、もしメメル・エマーソンがシルヴィアの呪いの(うわさ)を聞いたなら、きっと彼女は気付いたはずだ、これは自分の魔法に酷似(こくじ)していること――。


 そして、犯人ももちろん分かっていたはずだ、自分がメメル・エマーソンの魔法を真似(まね)したということに、いずれ開発者当人(とうにん)の彼女が気づくことを――。

 そうなったときに犯人が取る行動は? ――口封(くちふう)じ。


 ――だからメメル・エマーソンは眠らされたんじゃないのか?


 ポルスキーさんの目が険しくなった。

 口封(くちふう)じするということは、メメル・エマーソンは犯人の素性(すじょう)を知っているということだ。ならば、メメル・エマーソンの交友関係を調べるべきだ。

 メメル・エマーソンの知人の中に――特に魔法の情報提供をし合う間柄の中に――シルヴィアの呪いの犯人がいるかもしれない。(そしてその犯人がメメル・エマーソンを眠らせた……。)


 ポルスキーさんはメメル・エマーソンの周囲を洗えば何かが分かるという直感があった。

 それで、掃除婦の老婆に向かって低い声で聞いた。

「ごめんなさい、必ずメメル・エマーソンに掛けられた魔法を()くから、犯人を捜すために少しこの家を調べさせてもらえないかしら」


「ご本人が何かに巻き込まれてるってことですものねえ……助けるためなら」

 掃除婦が思案しながらも同意を示してくれたので、ポルスキーさんはすっと背筋(せすじ)を伸ばし部屋中を見渡した。



お読みくださいましてありがとうございます!

すみません、次話から、予約投稿時間を14:30頃から →朝4:30頃に戻させていただきますm(__)m

どうもすみません(大汗)


いつか言おうと思っていて言っていなかった設定……。

デュール氏とかクロウリーさんは、ポルスキーさんよりよっぽど魔法の腕はいいですが、『見たことない魔法』になると魔法原理に詳しくないため対処法に困ります。

ポルスキーさんや叔父さんは普段からあーだこーだ新しい魔法を考えているので、『見たことない魔法』に対しても何かしら推測することができます。


やっとここで、第2章からずるずるさせていた魔法を解明する糸口が。

ラセットに何を言われようと、次回、ちゃんとポルスキーさんは役に立ちます。

ようやくシルヴィアの呪いの犯人が分かるかも!

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[一言] おおっ。何だか話がどんどんと、進んでいきますね。 眠り続ける女。犯人は誰だ。ドキドキしております。 幌様の人物のやりとりはイキイキしていますね。 描写が上手い。見習いたいです。
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