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【4-2.盗聴】

 急にランタンの炎がぼっと燃え上がったので、ポルスキーさんはハッとして、叔父についての思索(しさく)から現実に引き戻された。

 エンデブロック氏がポルスキーさんの話を早々(そうそう)に切り上げ、炎を見つめながら短く呪文を唱えたところだった。


 炎の中の影はぐらりぐらりと揺れ初めは要領を得なかったが、やがて何か輪郭(りんかく)らしきものが見えてきて、男の声が聞こえてきた。


 炎の中では男が二人、どこかの応接室で向かい合って座り低い声で話し込んでいる。その場の雰囲気から人払いがしてある様子だった。

「……というわけで、あなた様もたいへんお困りのことと思うのですよ。あなた様の土地なのに魔法の使えない一般人が不法(ふほう)居座(いすわ)っているというわけなのですからね。魔法協会は問題を引き受けたままのらりくらりとしているわけなのでしょう?」


 話している男は猫なで声で、さも同情したような口調だ。その同情の裏に、何かどす黒い思惑(おもわく)があるようなのが()けて見える。

 聞いている男の方もそれは承知のような雰囲気だった。


 ポルスキーさんは炎の中の話を聞くべきではないと思いながらも、『魔法協会』という単語が出てきてついつい聞き入ってしまっていた。

 隣のエンデブロック氏も同様だ。


 そのとき、ふとポルスキーさんは(われ)に返って叔父の顔を見た。

「叔父さん、これが指輪を持っている人ってこと?」


「どうだろうな。俺は『魔法鳥(まほうどり)の分析法』と『指輪状のもの』というイメージで在処(ありか)を探っただけだ。本当に目的の指輪なのかは、炎に映るまで分からねえよ」

「念のため聞くけど、この二人の男、知ってる?」

「知るわけねえだろ」

 エンデブロック氏は乱暴に返事をした。


 すると、炎の中の男がまたもや猫なで声で喋り出した。

「我々『魔法使いの権利を守る会』は(すみ)やかにあなた様の問題を解決したいと思っております」


 聞いていた男はゆっくりと言葉を選びながら答えた。

「いや……とはいえ、私も魔法協会の一員であり、魔法協会の(しか)るべき部署に問題解決を委託したのだから、強引なことはすべきでないと思っている」


「それですよ!」

 猫なで声の男は声を張り上げた。

「ジョージ・ボウルズ様は魔法協会の理事でありながら、こんなつまらない問題に頭を抱えているというわけです! 理事なんですから他の問題よりも優先されるべきだ。あなた様は偉い方なんですから! それなのにこんなに時間がかかって。魔法協会の怠慢(たいまん)としか言いようがない!」


『偉い方』と言われて、ジョージ・ボウルズと呼ばれた男はまんざらでもない顔をした。

「君たちに任せたら素早く問題を解決できるというのかね?」


 猫なで声の男は深く頭を下げた。

「我々は魔法協会の同志の会ですが、担当職員たちに『ボウルズ様の件を優先して解決するよう』根気(こんき)よく声掛けを行いますよ。なあに、マクマヌス副会長の命令が一つ飛べばすぐに解決する話だとは思うのですがね」


 ボウルズ氏はため息をついた。

「私だけじゃなくてね、同様に訴えている者が他にもたくさんいるのだ。もともとは魔法使いしか寄り付かなかった土地だといって、一般人との間に何もルール制定してこなかったのが問題なわけだから。魔法協会としては、このような訴えに個々(ここ)に対応するのではなく、一般人の社会とまとめて話し合いをすると言っている。君や――マクマヌス副会長なら、どう対応してくれるというのかね?」


「ははあ。さすがボウルズ様ともなると視野が広いですね! というか、それこそ我々の存在意義ですよ。魔法使いの権利を守るのです。この曖昧(あいまい)な土地の問題は魔法使いに有利なようにルール制定しましょう。魔法動物の森や湖などが侵害されては魔法界全体の均衡(きんこう)に影響が出ますしね。ええ、マクマヌス副会長が少々強めに一般人と交渉すれば解決する話ですよ」

 猫なで声の男は力強く言った。


 ボウルズ氏は困った顔をした。

「それはありがたい話だがね。――それで、君が言いたいのは、マクマヌス副会長を支持しろということだね?」


「これはまたご聡明な方だ……! その通りでございます」

 猫なで声の男は歓喜の声をあげて、わざとらしく両手をポンと(たた)いて見せた。


「あっ!」

 その瞬間、ポルスキーさんは目ざとく見つけた。


 炎の中の猫なで声の男の指に、しっかりと例の魔法鳥(まほうどり)の指輪がはまっていたからだ!


「私の指輪!」

 ポルスキーさんは思わず(さけ)んだ。

 声に()られるようにしてエンデブロック氏も炎を(のぞ)き込む。

「へえ。この指輪がイブリンが彼氏にもらった指輪かあ。せっかく好きな女にプレゼントした指輪なのに、どこぞの男の指にはめられてるなんて、彼氏もかわいそ」


「そういう下世話(げせわ)な話してるんじゃないわよ」

とポルスキーさんが唇を(とが)らせた。

「この指輪を回収するわ、クロウリーさんにバレる前に。魔法協会の理事のジョージ・ボウルズに接触した人間って感じで調べていけば、この男の素性(すじょう)はきっと分かるわね。『魔法使いの権利を守る会』とも言ってたし……」


 ポルスキーさんが俄然(がぜん)やる気を出して急に立ち上がったので、エンデブロック氏は苦笑して何やら短い呪文を唱え、ランタンの炎を消した。


 ポルスキーさんは叔父が呪文を唱えたので現実に引き戻されるようにランタンの炎が消えるのを見つめていたが、しっかり消えてしまってから不意(ふい)に叔父に聞いてみた。

「ねえ、ところでなんだけど、叔父さん。このランタンの魔法アイテムって、()くしたモノだけじゃなくて、人も見つけられるの?」


 エンデブロック氏は意地悪(いじわる)くニヤリと笑ったが、()えて何も答えなかった。


 ポルスキーさんはふうっとため息をついた。

魔法鳥(まほうどり)の指輪なんか使わなくても、このランタンでジェニファーの居場所は分かったのねえ」

 ポルスキーさんはジェニファー誘拐事件の時のことを言っている。


 しかし、それにはエンデブロック氏は小さく首を横に振り、(さと)すように言った。

「何かの問題に対処するとき、人によって取り組み方が違うのは普通のことだ。人にはそれぞれ得意分野があるんだから。特に魔法使いは勤勉(きんべん)さによって知っている魔法の種類が違う。おまえが知り得る限りの選択肢の中から思いついたのが、そのときの最善の方法と腹を(くく)るしかねえ」


「そうか、な」


「それに、その誘拐事件の場合は、『繰り返し』を使ったことで誘拐された人物のところまで直接行けたんだろ? なら、このランタンよりおまえの指輪の方がずっと有用だったさ」

 叔父ははっきりと言った。


 ポルスキーさんは半信半疑(はんしんはんぎ)で小さく(うなず)いたが、もう一つ気になったことを叔父に聞いてみた。

「あとさ、叔父さん。今ここで私たちが『盗聴(とうちょう)』したことなんだけど」


 エンデブロック氏は苦笑した。

「おまえらにとっては、いいもん聞けたんじゃねえのか? 魔法協会の理事の懐柔(かいじゅう)工作が始まってるぞ。がんばれー」


「いや、そういうことじゃなくて。このランタンの危険性を感じたの。目標物を持ってる人の話まで聞けちゃうなんて。これってプライベートの侵害にならないかしら?」

 ポルスキーさんは難しい顔をしている。


 エンデブロック氏は急に面倒くさそうな顔になった。

「んなことは使う奴が考えろよ。俺は『ものの場所が分かる』魔法道具を作っただけだ。でも今回は泥棒(どろぼう)の身元が分かりそうだから『盗聴』して良かったんじゃねえのか?」


「そりゃまあね、盗聴したおかげで男の素性(すじょう)辿(たど)れそうってのもあるんだけどさ……。でも、盗聴ってなると、私はどうもすっきりしないわ……だって、私の生活をこんな風に(のぞ)き見られちゃうって思うと、ぞっとするもの」

 ポルスキーさんは身震いした。


 エンデブロック氏は首を(すく)めた。

「おまえは魔法の使い方にうるせえな。いいか、魔法でも魔法じゃなくても、悪意があれば何でもできる。魔法協会の中なんかどうせ盗聴され放題(ほうだい)だ。おまえもたぶん監視されてる。なにせおまえはマクマヌスの要請を断ったんだろ? そんでシルヴィアの呪いも()いた。シルヴィアが死んだのも自殺じゃねえって思ってる。そんなおまえを敵さんがほっとくわけがねえ――。いいか、イブリン。性善説(せいぜんせつ)に乗っ取って動きすぎるな」


 ポルスキーさんは目を見開いてエンデブロック氏を見つめていた。

 悪意があれば、魔法でも何でも、いくらでもプライベートは(のぞ)ける。それはそうかもしれなかった。


 エンデブロック氏は(なぐさ)める口調(くちょう)で続けた。

「それに、何か事件や事故を調べるってなると、プライベートだ何だなんて言ってられねえときもある。今回の『盗聴』について、おまえはだいぶ(うし)(ぐら)く思っているんだろう。だが、あの男は少なくともおまえの指輪を持っていた。真っ白ってわけじゃねえ。指輪を盗んだ犯人か、盗んだ犯人の仲間だ。いいか、おまえは指輪盗(ゆびわとう)の手がかりを見つけただけと思え」


 ポルスキーさんは少しほっとしたように息を()いた。

 ――なるほど。

 悪人を捕まえるため、人を守るため――踏み込まなきゃいけないときもあるのかもしれない。


 しかし、そこでエンデブロック氏は急にポルスキーさんの頭をぽんっと(たた)いた。

「にしてもな。おまえはまだ『盗聴』だの魔法の使い方で心を痛めてるような立場じゃねえよ! まずはまともに魔法を使えるようになってからだ! おまえはまだ他の魔法使いに物申(ものもう)せるほどの腕がねえんだから!」


 ポルスキーさんは赤面する。

「あ、ああ、まあね……精進(しょうじん)するわ、としか……」

 自覚があるのでなんとも歯切(はぎ)れの悪い返答しかできない。


 そしてエンデブロック氏は、ぽんっと(たた)いたその手で、そのままポルスキーさんの頭をそっと()でた。

「あとな。おまえは、もう少し彼氏を大事にしろ。もらった指輪なんか()くすんじゃねえよ」


 ポルスキーさんはなぜだか急に胸が()まる思いがした。

 叔父の声に何か悲痛なものを感じたからだ。


 だから、いつものように「彼氏じゃないし」とはどうしても言い返せなかった。




お読みくださいましてありがとうございます!

嬉しいです!


あの叔父に「もう少し彼氏を大事にしろ」とまともなことを言われるポルスキーさん……(;´Д`)

よっぽどですね。


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【短編】 「婚約者が浮気していたので流れで仕返ししたら、なんだか新恋人ができました」 (作品は こちら

幌あきら様
イラスト: 砂臥 環
【イラスト誕生秘話はこちら by 砂臥環様】
― 新着の感想 ―
[良い点] 叔父さん人間味があって良いですね.性善説のあたりとかの話とか。しみじみそう思ってしまいました。盗聴の魔法も面白くて。叔父さんの恋の秘密も気になります。
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