【3-11.分析の魔法】
ポルスキーさんがやっと考えがまとまったようなので、デュール氏は今度こそ期待する顔で尋ねた。
「どんな魔法?」
「あはは、空間と座標について深く考えることはやめた。今回のケースなら『繰り返し』で対応できそうだから、それにする」
ポルスキーさんは苦笑いした。
「空間と座標? 『繰り返し』?」
ラセットはポルスキーさんが何を言っているかさっぱり分からず、訝し気に聞き返す。
ポルスキーさんはもっともらしく頷いた。
「うん、その場所で、直前に使われた魔法をただ繰り返すだけの『繰り返し』」
「何だそれっ」
「だってさあ、誰かの頭の中の魔法イメージを、他人が覗き見ることなしに再現しようとすると、座標とかそういう客観的な情報が必要になりそうで難しかったんだもの。ただ、その場で使われた魔法を分析してそっくりそのまま再度実行するだけなら、脳内イメージも座標とかも必要ないんじゃないかと思って」
ポルスキーさんが何やら脳内自己完結で複雑なことを言っているので、初めて聞くラセットは何を話しているのか置いてけぼりをくらった状態で、ぽかんとして聞いていた。
ポルスキーさんは苦笑した。
「まぁ、別に何もわからなくていいのよ。私も自分で喋ってて何のこっちゃって感じだから」
ポルスキーさんの紡ぐ言葉を一生懸命聞きとろうと努力していたデュール氏は、かろうじて『直前に使われた魔法を分析して繰り返す』ということだけは理解できたので、
「その、魔法を分析する方法って?」
と聞いた。
ポルスキーさんはにっこりした。
「分析する方法は昔考えたことがあったの。そのとき思いついたのは、あれよ。いるじゃん、変な魔法鳥が。他人の魔法を真似するヤツ。それで、今もその鳥が、うちにいるー」
「は? いる?」
デュール氏は呆気に取られた。
「うん、飼ってる。珍しいから輸入して」
ポルスキーさんはあっけらかんとして答えた。
「あ、でも、その鳥を使おうって言うんじゃないのよ。鳥だもの、真似して欲しいときに都合よく真似してくれるかなんて博打みたいなものじゃない? だから昔、その魔法鳥がどうやって分析してるかを調べて、似たような分析ができるアイテム作ってみたのよね、確か。複雑な魔法は分析できないけど、テレポートくらいなら分析して真似れるわよ、たぶん」
「よく分からん。つまり?」
ポルスキーさんが一人よがりで喋っているばっかりでいまいちよく理解できないため、ラセットは簡潔な答えだけ求めた。
「つまり、直前に使われた魔法を分析・再現するアイテムがうちにあります」
ポルスキーさんは笑って端的に答えた。
デュール氏は良い考えかもと頷いた。
「そのアイテムを取りに行こう」
「うん、じゃあうちにテレポートして……」
「あ、僕が主導でやるよ。イブリンの家はもう知ってるし」
「え?」
「いや、イブリン主導だとグレートモス山脈とかに着くかもしれないだろ?」(※第二章参照)
「余計な事は言わなくていいのよ」
ポルスキーさんは赤くなって、べしっとデュール氏の肩を叩いた。
ラセットはクックと笑っている。
「何笑ってるのよ」
ポルスキーさんはジトっとした目でラセットを見た。
ラセットは笑いをこらえようとしたが、うまくいかない。
「いやー、テレポートもまともにできないのかと思って。ポンコツすぎるだろ。やっぱり、どんぐりの物体浮遊術も厳しいんじゃねーの?」
ポルスキーさんはきーっと怒ったが、そこはデュール氏がなだめた。
「今は言わせておけば、イブリン。後でラセットに君の本領を見せつけてやればいいんだ」
そしてポルスキーさんとデュール氏は連れ立ってテレポートし、アイテムをポルスキーさんの家からとってきた。
そして、ポルスキーさんとデュール氏、ラセットは再度合流すると、3人でジェニファーが消える直前まで働いていた職務室に移動した。
スリッジ会長の秘書や他の職員たちは、突然の部外者(※デュール氏以外)の訪問に驚いたが、デュール氏の説明を受けると納得し、むしろデュール氏が偉い人なので畏まった態度になった。そして、ジェニファーが消えた時の状況を詳しく説明してくれた。
ポルスキーさんはふんふんと説明を聞きながら、慎重にジェニファーの消えた場所を探る。
そして、色石付きの指輪の形をしたそのアイテムをジェニファーがいた場所に置いた。
「ここでいいかしらね」
デュール氏もラセットも、職員たちも、何が始まるのか息を呑んで見守っている。
ポルスキーさんが指輪の色石をそっと一度撫でると色石が鈍く光り出した。
「今、魔法の痕跡を集めてる。でも、ちょっと時間がたってしまってるから痕跡が薄いようね。光り方が弱いわ、少し苦労するかも」
ポルスキーさんは簡単に説明した。
しばらくすると、指輪の色石が急にキラキラと虹色に輝きだした。
「分析が始まったみたい」
ポルスキーさんはその輝き具合を心配そうに眺めていたが、色石の輝きの変化がなかなかおさまらないので小さく頭を掻いた。
「うーん、やっぱり痕跡が薄かったようね、ノイズ除去に時間がかかってる。それに、テレポートそのものではないのかな? やや複雑なシステムがはめ込まれてるのかも。分析できるかなあ」
デュール氏は、ポルスキーさんが「やや複雑なシステムがはめ込まれて」と言ったので目が険しくなった。
「普通のテレポートじゃないってことは事件の可能性が高いのかな」
「かもね」
ポルスキーさんもやや深刻な顔で頷いた。
ラセットはぎょっとして息を呑み、ポルスキーさんの顔を食い入るように見つめた。
この部屋にいる他の魔法協会の職員たちもハッとしたようだった。
すると、どうやら指輪の色石の輝きが落ち着いてきた。
ポルスキーさんはそっと指輪を摘まみ上げた。コロンと掌の上で転がしてみる。
そして、ほっとしたように小さくため息をついた。
「いけたっぽい」
「おー」
ラセットが無意識に感嘆の声をあげた。
その場の職員たちも何かが成功したというので、これからどうするのか興味津々な目をした。
その瞬間、ポルスキーさんにはある名案が浮かんだ。
「はっ! いいこと思いついた! 私は天才かもしれないっ!」
「どうしたの、イブリン?」
デュール氏が驚いて聞く。
「あ、いや、こっちのこと」
と言いつつ、ポルスキーさんはなんだかそわそわし出した。
デュール氏は首を傾げながらも、
「えっと、使われた魔法の分析ができたってことは、この指輪を使ってジェニファーが消えた状況を再現できるんだな?」
と確認した。
ポルスキーさんは小さく肯く。
「そう。指輪の表面を指でポンポンと2回軽くたたくだけで、今分析した魔法を再現するわ」
それから、ポルスキーさんはきまりが悪そうな顔になって、
「でも、ここから先は、アシュトンとラセットに任せるわ」
と言った。
「え?」
二人はポカンとしてポルスキーさんを見る。てっきり最後まで手伝ってくれるものと思っていたから。
しかしポルスキーさんは首を横に振り、部屋にいる他の職員の顔を見渡した。
「ここからは魔法協会さんの仕事でしょ。誘拐だとしたら普通に犯罪なんだもの、正規の手続きでやってよ。私はここの職員でもないしポンコツだから、これ以上役に立つことはないと思う」
ポルスキーさんは見事に丸投げする。
「いや、イブリン。君は十分に役に立ってるじゃないか!」
デュール氏が熱を込めて言った。
ポルスキーさんは申し訳なさそうに首を竦める。
「ごめんなさい、アシュトン。私は行かなきゃいけないところがあるのよ」
デュール氏は、
「さっき何か思いついていたね。それ?」
と優しく聞いた。
「うん」
とポルスキーさんは肯く。
デュール氏はポルスキーさんが何を思いついたか説明してくれるのではないかと期待して少し黙ったが、ポルスキーさんは何も言わなかった。
それで、デュール氏は仕方なくため息をついた。
「言ってくれないのか。分かったよ。まあいいさ。確かにね、ジェニファーの件は魔法協会の職員たちが捜査してたわけだからね。うん。とりあえず、ここまで協力してくれてありがとう。でもまた助けが欲しい時は頼んでいいかい」
「それはまあいいけど」
ポルスキーさんは控えめに答え、
「ジェニファーの件が解決したら、約束通り私の叔父さんの件をお願いするわね」
とデュール氏に念を押した。
ポルスキーさんはデュール氏が頷くのを見届けると、急いでジェニファーの職務室を出て行った。
「あ」とデュール氏の名残惜しそうな声がするが、ポルスキーさんは振り返らない。
ポルスキーさんは速足で、行くべきところへと歩いて行った。
行くべきところとは。
もちろん、クロウリーさんのところだ!
お読みくださいましてありがとうございます!
うわあ、ポルスキーさんまさかの丸投げ! クロウリーさんに会いに行くからって……。
まあ道具提供したし許してやってください。社会不適合者なんで……(大汗)
次回、クロウリーさんはポルスキーさんからどんな「名案」を聞かされるのやら。でも、喧嘩してたよね?





